2026年度から、一定規模以上の特定荷主および特定連鎖化事業者(以下、特定荷主)や特定貨物自動車運送事業者、特定倉庫事業者は「特定事業者」として指定された。
このうちの特定荷主とは、年間9万トン以上の貨物を取り扱う大手荷主企業のことを指し、国の推計では約3,200社がこの対象となると見込まれている。
この特定荷主には、物流統括管理者(CLO:Chief Logistics Officer)の選任が義務付けられる。
この新たに誕生するCLOという役職は物流においてどのような役割を果たし、そして既存の物流部長という立場とはどのように異なるのだろうか。
野村総合研究所に、CLOの役割と荷主企業に求められるこれからの対応について詳しく話を伺った。
「物流部長≠CLO」その理由

藤野直明 氏
「荷主企業のCLO選任義務化に伴い、一部では『物流部長をCLOにすればいいのでは?』という議論もありましたが、物流部長とCLOの立場は明確に異なります」と語るのは、野村総合研究所 産業ビジネス企画部 藤野直明氏。
CLOには、物流全体の持続可能な提供体制の確保に向けた業務を統括管理する役割が求められる。加えて、ロジスティクスを経営課題として捉え、全社的な視点で物流戦略を推進することも期待されている。従来の物流部長が主に物流現場の運行管理やコスト管理を担っていたのに対し、CLOには設備投資やデジタル化の判断、調達・生産・販売を含むサプライチェーン全体の最適化を見据えた調整・管理が求められているのだ。
今回の法改正を受け、荷主企業の対応は大きく二つに分かれているという。藤野氏は「変革を始めた企業は、物流を単なるコスト削減の対象ではなく、事業成長への直接的な投資対象として理解し始めています。長期間の議論を経て、営業担当役員や生産担当役員がCLOを兼務するケースや、営業と生産を統括する役員がCLOも兼ねるケースも見られるようになっています。議論を重ねた結果、いわゆる『Chief Supply Chain Officer』(CSCO)のように、サプライチェーン全体をマネジメントするポストとしてCLOが生まれているのが最近の傾向です。2026年7月23日に発表された『CLOオブザイヤー2026』(主催:日経ビジネス)の受賞企業を見ても、単に物流原価を下げたことではなく、企業間連携や物流ネットワーク設計、組織の評価制度などに関して経営提言できる人物がCLOとして評価され、受賞に至っていることが分かります。一方で、物流部長をCLOに据えたり、物流子会社を新たに作ってその責任者として既存の物流部長を据えたりするといった動きをしている企業も依然として存在しています」と語る。
物流は事業成長のための投資
後者の企業の姿勢から見えるのは、「物流=コスト」という認識だ。しかし藤野氏は「物流は事業成長のための投資対象です」と強く強調し、その成功例としてニトリとトライアルという二つの小売企業の事例を挙げた。「この二つの急成長企業に共通するのは、自社のサプライチェーンの力が圧倒的に優れていることです」と指摘する。サプライチェーンを他社へアウトソースしていないことから、事業を拡大する場合においてもサプライチェーン能力が企業の成長スピードのボトルネックにならず、急成長を遂げることができたのだという。半面、こうしたサプライチェーン能力をはじめとした物流ノウハウを外部企業に委託していた企業は、特定の商品がヒットしたり、グローバルに展開する機会が訪れたりするなどのチャンスへの対応が難しく、機会損失を招いているという課題も指摘された。
また、日本の荷主企業に存在する誤解の一つに「ジャスト・イン・タイム」(JIT)に対する認識がある。JITはトヨタ生産方式の基本思想の一つで、「必要なものを、必要な時に、必要なだけつくる」というものだ。「トヨタがJITで実践しているのは『平準化』です。これはいわば完全な計画取引であり、半年〜1年前から生産計画をサプライヤーに開示し、常に計画同期を行いながら3日前までには数字を確定させた上で、バース指定納品を行っています。しかし物流におけるJITは、今日売れたものを翌日配送してもらう『毎日発注・翌日納品』という運用を採用している小売業がほとんどです。この運用では当たり前ですが、ロットが小さくなり、配送頻度は上がり、業務負荷だけが増えていきますし、物流センターも大規模化していきます」と藤野氏は日本の物流業界の非効率性を指摘し、トヨタ式JITを参考にしている海外企業の成功例を紹介しながら、計画取引の必要性を訴えた。
こうした計画取引の実装には、物流・IT・営業・バイヤー・事業責任者が関わる組織の構築と、関係部門や企業同士が議論するための場づくりが必要になる。従来は営業やバイヤーがその場を主導していたが、今後はCLOがそのかじ取りをすることが必要となる。「こうした背景から、CLOには従来の物流部長とは異なる権限とスキルが必要です。定量的な議論ができるチーム、モデルシミュレーション能力を持つチームを持った人材である必要があり、CLO一人では実現が難しいからです」と藤野氏。

実績と計画管理にITを
CLOの業務の一つに「中長期的な計画の作成」があり、この初回提出期限が2026年10月末日に迫っている。この計画書には「運転者一人当たりの一回の運送ごとの貨物の重量の増加」(積載率の向上)、「運転者の荷待ち時間の短縮」(荷待ち時間短縮)、「運転者の荷役等時間の短縮」(荷役時間短縮)に関して、以下の事項を記載する必要がある。
1. 実施する措置
2. 具体的な措置の内容・目標等
3. 実施時期等
4. 参考事項
この計画に盛り込むべき内容として、藤野氏は調達から出荷までの物流ネットワーク全体の設計・最適化を図る「ネットワーク計画」、取引先との計画共有と業務プロセスの標準化を図る「計画の共有」、オリコン(折り畳みコンテナ)レベルでの標準化によるマテハン(マテリアルハンドリング)効率化といった「荷姿の標準化」という三つのレイヤーを示した。
ITソリューションについては、荷主企業の基幹システムと物流事業者のWMS(倉庫管理システム)が連携していない現状からの脱却が必要であると指摘した上で、実績管理と計画管理の二つが基本であると説明した。「特に食品のような商品は日付(賞味期限)が異なる商品の混載が認められていないなど、きめ細かな在庫管理が必要です。少なくとも日付単位でラックのロケーション管理ができるような仕組みが必要です。そうしたシーンに2次元バーコードやWMSを活用した個体・ロット単位の在庫管理が有効です。またこれまでの『毎日発注・翌日納品』という在り方も変える必要があります。昨今ではAIを活用した需要予測が可能になっていますので、これらを活用した計画管理を行うことで、計画的なオペレーションを実現する必要があります」と藤野氏は語った。

