NECは、長年積み重なってきた複雑な業務プロセスを解決するため、AIベースに業務プロセスを再構築している。CEO直轄で進めているという本プロジェクトについて、生成AI大賞2025で発表した「経営コックピット×AI」による意思決定の迅速化をはじめとしたAI経営マネジメント変革を中心に見ていこう。
経営の意思決定を支える
経営コックピットとAI

経営システム統括部
ディレクター
若林健一 氏
NECでは2018年ごろからデータドリブン経営に取り組んでいる。現在、そのデータドリブン経営を加速させる中核的存在になっているのが、「経営コックピット」だ。経営コックピットは、NEC社内の重要な指標を一望できるダッシュボードのような存在であり、経営層から現場社員まで、同じデータを見てファクトに基づく意思決定を行うための存在だ。
この経営コックピットで活用されているのが、AIだ。データに基づいた業績予測や改善提案、施策提言などを全て部門AIコックピットが作成している。加えて、部門の経営状況を基に、中期的な戦略提示も行っている。アカウントプラニングAIや顧客課題解決プランAIなど、個別のアクションを支援する専門AIも整備されており、経営マネジメントの業務がまるごとAI化されている。
直近のアップデートでは、市場情報以外にも、商談情報などを学習させることでアウトプットの質を改善させたり、プロジェクトに対するリスク評価や研究開発投資の予算進捗状況に応じたレコメンド提示などにも対応した。こうしたアップデート関してNEC 経営システム統括部 ディレクター 若林健一氏は「経営コックピットをどのようにブラッシュアップしていくかという会議にも、AIを活用しています。会議の記録をAIが取得し議事録を作成するような用途はもちろんですが、当社では会議に専門家のAIを招いた機能レビューや経営会議も行っています」と語る。
例えば会議で「経営コックピットにAIトランスフォーメーションについての新しいコンテンツを追加したいが、何が良いか」という問いをCIO AIに投げかけると、追加するコンテンツの案を音声で返答してくれる。「NECでは今、会議にどんどんAIが参加してきています。前述のような専門家のAIを交えたディスカッションはもちろん、会議資料をほかの専門家AIに読み込ませると、各プロジェクトに対して専門的なアドバイスをしてくれます。会議では複数のAIを掛け合わせながら議論を深めています」と若林氏。また会議の締めくくりにもAIを活用している。文字起こしのデータを基に会議内容を要約し、アジェンダや戦略の方向性、ロードマップ、新規施策案など報告資料を作成し、ナレッジとして蓄積・共有しているのだ。AIが参画することで会議の中でナレッジ共有まで可能になり、これまでと比較して会議が10倍以上スピードアップし、効率化が実現できている。

ナレッジAIが
提案力を強化する
「この専門家のAIが、当社でナレッジAIと呼んでいる存在です。NECでは森田CEOをはじめ、CFO、CIO、CTO、CHRO、CAO、CSCO、CLOといった役員をAI化しており、いつでも誰でも相談ができる状態になっています。CxO陣は会議の中で日常的に自分たちの方針や意見を語っています。これらのAIはその1年分の会議のデータの中から、特に本人の価値観が出ているものをピックアップして学習させています。もちろん、生成している回答が本人の意見からかけ離れないよう、チェックを行う専門体制を構築しており、出力結果に責任が持てるようにしています。また学習する会議についても取捨選択しており、例えば秘匿性の高い情報は学習させないように除外しています。人の役割はデータの分析ではなく、品質管理にシフトしてきていますね」と若林氏は語る。
このようなナレッジAIは、NECの従業員であれば誰でも簡単に作ることが可能だ。若林氏が述べた通り役員 AI関連には専門チームが携わっているが、例えば職場のQ&Aを蓄積したAIや、上司のAIといったナレッジAIなどは、従業員自身が自由に作れる。作成手順も簡単だ。ナレッジAIの名称を付けると、プリセットされているプロンプトをベースに、会議の文字起こしテキストや会議資料などのナレッジをアップロードする。すると、AIがデータを最適化し、ナレッジAIとして登録される。従来と比較して99%作成工数が削減されているため、すでに1,000体以上のナレッジAIが作られ、活用が進められているという。回答に誤りがあれば、チャットで指示を行う「フィードバックモード」を使ってナレッジの更新が可能だ。
こうしたナレッジAIを活用した事例として、若林氏は顧客提案を挙げた。「例えば先日、ある自治体の知事にAI導入についての提案を行った際には、まず当社の注力商材と過去のエピソードを学習させたナレッジAIに、県の課題や知事の方針、考え方などの調査結果を読み込ませると、それに併せて最適な提案をAIが作成してくれます。今回の場合は自治体がお客さまですので、知事が大切にしている方針やマニフェストをディープリサーチで調査し、それらを読み込ませたナレッジAIを作り、そのAIに先ほどの提案書を読み込ませます。自分たちの提案内容を第三者視点でレビューしてもらい、お客さまの視点でどういった観点が不足しているか指摘してもらい、提案書のブラッシュアップを行っています」と語る。ナレッジAIを組み合わせた提案書の作成とレビューの組み合わせで、より顧客の意図に沿った高品質な営業提案が可能になるのだ。
意思決定サイクルは
約30分の1に短縮
これらのAIの仕組みは前述した通り、NECの全従業員が利用できるが、ヘビーユーザーは約2割程度だという。「裏側でAIを使っているか分からないような仕組みを目指しておりますので、全従業員一律に使わせるということはあまり気にしていません。例えば経営コックピットなどは裏側でAIが動いていますが、表示されているデータに対してそれを気にする人は少ないと思います。このような仕組みを話すと、『社員が頭を使わなくなるのでは?』と言われることもありますが、AI時代の今、従業員に必要なのはAIが出力してきたものに対して、どうお客さまに信頼性や安心感をもって提案できるかという立ち振る舞いやコミュニケーション能力になると考えています」と若林氏。AI人材を育てるのではなく、裏側で動くAIに対して人がどう動き、信頼性を獲得する行動を取ることが、これからのAI時代には必要になるといえそうだ。
これらの経営コックピットとAIの組み合わせにより、以前と比較して経営の意思決定サイクルは約30分の1に短縮された。同社の経営陣の意識もこれまでのAI活用で大きく変わってきていると若林氏は話す。「今後は人材評価の制度も変えていく必要があると感じています。これまでのようにツールを活用するだけでは、ゲームチェンジが起こっていることに気が付かないまま時代の変化に飲み込まれてしまうでしょう。人の価値はどこにあるのかをきちんと定めて、人事制度に反映させていくことを進めていきたいですね。また当社の社内ノウハウをクイックにお客さまに届ける仕組みづくりも進めていきます」と若林氏は展望を語った。


