生成AIの登場によって、ユーザーの検索行動は大きく変化した。調べたい対象があった場合でも、その情報が書かれているWebページにアクセスする頻度は減り、代わりに生成AIが作成した要約を読み理解するケースが増えているのだ。こうした検索行動は消費者の購買プロセスにも変化を生じさせている。この変化に対応するため、アドビはAI時代の顧客体験オーケストレーションを実現する企業向けエージェント型AIシステム「Adobe CX Enterprise」を発表している。AIが消費者の購買行動をどう変え、そしてエージェント型AIが企業のマーケティングをどうサポートしていくのか、見ていこう。
80%の消費者がAI要約を活用

阿部成行 氏
OpenAIが「ChatGPT」の提供を開始したのは2022年11月末のことだ。その翌年の2023年2月にはマイクロソフトが「Bing Chat」(現:Microsoft Copilot)を、3月にはGoogleが「Bard」(現:Google Gemini)をリリースし、LLMを活用した生成AIは一気に市場に広がった。それにより変化したのは、ユーザーの検索行動だ。これまで調べたいキーワードを検索ボックスに打ち込み、目的のページにアクセスしていたユーザーは、生成AIとチャット形式で対話しながら知りたいことを生成AIに要約してもらったり、分かりやすく言い換えてもらったりしながら理解するようになった。
こうした検索行動の変化は、消費者の購買行動にも表れているという。アドビ デジタルエクスペリエンス事業本部 ソリューションコンサルティング部 執行役員 鵜瀬総一郎氏は「ChatGPTやGeminiといったAIアシスタントを情報収集の手段として利用する消費者が増加しています。米国のコンサルティングファームであるベイン・アンド・カンパニーによると、80%の消費者が検索行動の40%以上でAIが作成した要約を活用していると報告しています。従来のキーワード検索から、文脈を踏まえた自然言語による検索・購買行動の簡略化へとシフトしているのです。またこの変化はBtoCだけでなくBtoBの領域においても起こっています。6senseの調査によると95%のBtoBバイヤーが、今後1年以内に購買判断を支援するためにAIを利用予定だと回答したほか、ガートナーの調査では67%のバイヤーが、営業担当者が接触する前にAIでリサーチを完結させることを望んでいます。特にBtoB領域では高額商品を検討するケースが多くありますが、これらの商品の情報はカタログスペックで100〜200行に及ぶ場合もあり、AIによる情報整理や意思決定支援が不可欠になっていることも、こうした購買行動の変化を後押ししています」と語る。
顧客体験の三つの重点領域を網羅

鵜瀬総一郎 氏
こうした消費者の購買行動の変化に対応していくため、アドビは2026年4月20日(米国時間)に米国ラスベガスで開催された「Adobe Summit 2026」において企業向けエージェント型AIシステム「Adobe CX Enterprise」を発表した。同社はこれまでも「Adobe Experience Cloud」と呼ばれるデジタルマーケティングプラットフォームを提供してきたが、製品ポートフォリオの大きな進化に加え、クラウドという言葉がすでに当たり前の概念となったことを踏まえ、エンタープライズ向け顧客体験ソリューションとしてリブランディングを行ったものだ。
Adobe CX Enterpriseはカスタマーエクスペリエンスのオーケストレーションを目的に設計されたエージェントシステムであり、顧客体験における「Brand Visibility」「Customer Engagement」「Content Supply Chain」という三つの重点領域を網羅的にカバーできるツール群を用意している。
例えばBrand Visibilityは、自社ブランドを見つけてもらうためのソリューションだ。AIによる検索に最適化されたWebサイトの設計や、AIプラットフォームでのブランド認知把握などをコンテンツ管理システムの「Adobe Experience Manager」やAI検索最適化を実現する「Adobe LLM Optimizer」などで支援する。
二つ目のCustomer Engagementでは、顧客がブランドに接触した後、見込み客を手放さず、顧客基盤の拡大を実現するための顧客体験提供をサポートする。例えばモバイルサイトやアプリを開いた際に、表示するメッセージや画像によってブランドの印象は変化する。顧客の購買動向に合わせたパーソナライズはもはや当たり前になっているが、顧客データプラットフォーム「Adobe Real-Time CDP」などを活用することでそれらをより高度に実施していく。
三つ目のContent Supply Chainでは、市場、ターゲット層、チャネルを横断してパーソナライズされたブランドに即したコンテンツ制作の拡大を「Adobe GenStudio」などを活用してサポートする。
さらにこれらに共通する横断的な機能として「Adobe CX Analytics」も提供され、AIを活用して顧客データのインサイトを得ることが可能になる。
Adobe CX Enterpriseが提供するさまざまな機能を、一つの画面から呼び出し、マーケターが自然言語で会話しながら分析、シナリオ立案、クリエイティブ選定、キャンペーン実行までを数ステップで完結できるエージェント対応ワークフロー基盤が「CX Enterprise Coworker」だ。アドビ デジタルエクスペリエンス事業本部 ジャパントランスフォーメーション本部 プリンシパル ビジネス デベロップメント マネージャー 阿部成行氏はCX Enterprise Coworkerによって得られる効果について、次のように語る。「例えば、本社のマーケターの業務時間外に、インフルエンサーが自社の製品を紹介したことによる“バズ”が発生した場合、従来であればリアルタイムな対応が難しく、ビジネスチャンスを逃してしまうこともありました。しかしCX Enterprise Coworkerを導入している場合、AIエージェントがSNSのトラフィックを監視し、前述した“バズ”をビジネスチャンスだと判断すると、承認済みアセットとテンプレートを用いてランディングページを自動生成し、業務時間内にあるグローバル拠点の担当者に承認メールを送付します。その担当者が承認するとキャンペーンが自動スタートするというシナリオが実現できるのです。これまでのように企業の内部都合に合わせたキャンペーンから、市場の中のシグナルを捉えて自律的にキャンペーンを行うといったビジネスモデルへの変化が起こるでしょう」

フロー型からストック型へ
阿部氏がCX Enterprise Coworkerの事例で語ったように、今後生成AIはランディングページをはじめ、広告などクリエイティブなコンテンツの制作をより高速化していくだろう。
こうした生成AIによるクリエイティブについて鵜瀬氏は「生成AIが作成したクリエイティブが人の心をつかむことはまだ難しいと思います。しかし生成AIが作ったクリエイティブに対しての知見をためることは可能です。例えば『このターゲットに対して、このテンプレートを使って、こういうキャッチコピーを出した』といったクリエイティブが具体的にどういった結果に結び付いたかを蓄積していくことによって、その情報を基にキャンペーンに最適なランディングページの提案ができるようになっていくでしょう。人間はそれを見ながら共に改善案を考え、より最適化させていくという循環が、これまでよりもはるかに効率良く回るようになると考えられます」と語る。
また多言語対応や大量バリエーション生成における生産性向上には明確な効果があることに加え、顧客シグナルの解像度が高まることで、100万人の顧客それぞれの文脈に合ったメッセージをAIが生成することには大きな効果があると説明した。
BtoB領域では意思決定者が複数存在することや、見込み客の査定が重要になる。こうした領域に対してAdobe CX Enterpriseを活用し、アカウント情報の統合からコンテンツの最適化、インサイドセールスとのリアルタイム連携を実施するなど、個人を個別に追うのではなく「企業」としての動きを立体的に捉えることで、商談化までのリードタイムを大幅に短縮できるようになるという。阿部氏は「マーケティング業界は個人にスキルや知見が属人化している『フロー型』のビジネスでした。しかし今後はAdobe CX Enterpriseによって『ストック型・スパイラル型』への転換が可能になります」と語り、より高度なマーケティングを実現するための手段としてAdobe CX Enterpriseの活用や、Adobe CX Enterpriseと連携した外部テクノロジーの活用を推奨した。

