物流効率化法で求められている荷待ち時間や荷役時間の短縮や積載率の向上を実現するためには、まずサプライチェーン上に散在しているデータを集約し現状を可視化する必要がある。
CLOはその情報を基に物流ネットワーク全体を俯瞰しながら経営判断を下していくが、物流データの可視化によって課題の所在を把握できても、「どの倉庫に在庫を配置すべきか」「どの配送ルートが最も効率的か」といった問いに対する最適解を人手で導き出すことは難しい。
こうした複雑な意思決定を支援する技術として注目されているのが数理最適化である。
数理最適化が導く物流の最適解

乾 伸雄 氏
数理最適化とは、与えられた条件や制約の中で、コスト削減や効率向上などの目的を最も高い水準で実現する計画を導き出す技術である。オペレーションズリサーチ分野での活用の歴史は古く、第二次世界大戦中の軍事作戦の最適化を契機に発展した技術である。
この数理最適化問題を解くためのアルゴリズムを実装したソフトウェアとして、数理最適化ソルバーがある。この数理最適化ソルバー「Gurobi Optimizer」を国内に提供しているGurobi Japan数理最適化コンサルタント 乾 伸雄氏は、現在の数理最適化技術の活用用途について「製造業、電力会社、証券会社など幅広い分野に適用されています。当社では特に製造業のお客さまに導入いただくケースが多いですね。多品種の製品を生産する上ではどのような順番で生産していけば、納期を守った上でコストを抑えて生産できるか、といった生産スケジュールを策定するような用途に活用されるケースが多くあります。物流分野では、輸送をいかに効率的に行うかという課題に対して数理最適化が活用されています。例えば、どのトラックにどの荷物を積むのか、どの順番で配送するのかといった計画を立案する際に利用されています。こうした用途は、特定荷主企業において設置されたCLOの業務にも活用できると考えています」と語る。
乾氏は、CLOの役割は物流の制約を守りながら効率化を実現し、会社の利益を向上させることであると述べる。その効率化の例として、トラックの移動距離短縮、倉庫での待ち時間削減、特定時間帯へのトラックの集中を分散させることといった手段が挙げられるが、これらを実現する技術として数理最適化は非常にマッチしているという。「物流効率化といっても、物流単独での最適化には限界があるでしょう。そのため、受注・生産・在庫・配送計画を横断的にバランスを取り、サプライチェーン全体を見渡した意思決定がCLOには求められます」と乾氏は指摘する。
物流全体最適化を支援
それでは、数理最適化を活用し、効率的な物流を実現する上ではどのような整備が必要なのだろうか。最も重要になるのは「過去データのデジタル化」だという。「例えば配送一つとっても、配送先毎の時間帯や所要時間といったデータが存在します。これらをデジタル化し、整備することが必要です。現状はデジタル化されていても、Excelファイルで管理し、そこに担当者が手書きでコメントを記入していたり、定型的な管理が徹底されていなかったりするケースも存在します。数理最適化を実現する上では、コメントを含めフォーマット化し、数理モデルに反映できるデータ形式として整備してもらう必要があるでしょう」(乾氏)
こうしたデータ整備を行った上で活用したいのが、同社が提供するGurobi Optimizerだ。これはPythonなどのプログラミング言語から呼び出して利用する商用の数理最適化ソルバーとして提供されている。Gurobi Japanではサービス提供から顧客が使える環境整備までの開発もサポートしているが、大規模案件では大手SIerや専門スタートアップ企業などのパートナー企業が介在するケースもあるという。
「Gurobi Optimizerはお客さま側が整形したデータを受け取り、最適化計算を行います。データを基に管理者側へのインサイトを届ける機能としては生成AIが身近ですが、生成AIは学習データを基に自然な文章や回答を生成する技術であり、必ずしも制約条件を考慮した最適解を導くことを目的としているわけではありません。数理最適化は膨大な組み合わせから最適解を見付ける用途に向いています。例えば100台のトラックで1,000個の荷物を倉庫から配送する場合の配送計画を検討する場合、人間が瞬時に最適な判断を下すことは容易ではありません。こういった用途に、数理最適化は役に立ちます」と乾氏。

どこでも“Gurobi”を使える世界へ
実際、Gurobi Optimizerを活用して物流を効率化した事例もあるという。ある大手アパレルECサイトでは、複数の倉庫を保有しており、新倉庫建設に際して「どの倉庫にどのショップの商品を配置すれば効率的に顧客へ配送できるか」という問題を数理最適化で解決した。倉庫配置を検討する場合、立地の良い倉庫に品物が集中してしまうケースがある。乾氏は「このように一部の倉庫に在庫が集中すると、保管能力や出荷能力の上限に達し、物流全体の効率が低下する可能性がありますが、倉庫のキャパシティを制約条件として設定することで、効率良く品物を運搬できる最適化プログラムを実現しています」と語る。
また同社ではこうした数理最適化の活用をAIが支援するプラットフォームとして「Gurobi Intelligence Hub」も提供している。Gurobiが培ってきた最適化技術と生成AIを組み合わせることで、AIとの対話を通じたモデルの構築や理解、改善を支援し、多くのユーザーが数理最適化を活用できるツールだ。
乾氏は「当社では『どこでもGurobiが使える』ことを全社的な目標として掲げています。Gurobi Optimizerの性能向上とIntelligence Hubのような使いやすいツールの提供は、そのビジョン達成の手段の一つです。数理最適化はまだまだ認知度が高いとは言えませんが、物流分野に限らずさまざまな分野への適用可能性を秘めています。今後はSIerを始めとしたパートナー企業との連携を強化し、この分野全体を盛り上げていきたいですね」と締めくくった。


