植松幸生さん
2003年、東京理科大学大学院 理工学研究科 経営工学専攻 修士課程卒業。日本電信電話株式会社入社。 検索エンジンの研究開発に従事。2012年より米国スタンフォード大学コンピュータサイエンス学科infolab客員研究員。帰国後、2014年よりNTTコミュニケーションズ株式会社 技術開発部 データサイエンスチームリーダを歴任後、ノキアソリューションズネットワークス合同会社入社。異常検知プロダクト開発に従事。2024年よりデジタル庁データサイエンティスト、2025年より東京理科大学准教授。東京理科大学では情報検索の基礎と応用を、デジタル庁ではAI活用のためのデータ公開やガイドライン整備に取り組んでいる。博士(工学)。
https://dept.tus.ac.jp/st-is/research/uematsu/

「検索が減った」は突然起きた現象ではない
──生成AIの登場で、Webでの検索数が減っていると言われています。この状況をどう見ていますか。
植松 検索数が3割くらい減ったと言われていて、これは大きな数字ではありますが、結論から言うと、本質的には新しい現象ではありません。生成AIによってユーザーの要望に適合する精度が上がったことで、変化が急激に見えているだけです。
そもそも情報検索システムは、Googleなどの検索システム側で、あらかじめ構築したインデックスから関連性の高い文書を順序付け(ランキング)して提示するシステムです。ユーザーは、Googleが整理した情報から、目的の情報を引き出すために、関連するキーワードを入力し、自分の要望に近い結果を得ようとします。より要望に近づけるためにキーワードを複数入力したり、言葉の意味を知りたいときには「○○とは」「○○ 意味」などと入力して検索していました。
情報検索の技術は、これまでの10年、20年かけて「ユーザーの要望にできる限り適合する」方向に少しずつ進んできました。
2000年代の検索は、ユーザーがキーワードを入力し、検索結果の一覧から自ら情報を選ぶ形式が中心でした。その後、検索システムはユーザーの意図をより直接的に捉え、必要な情報をできるだけ少ない操作で提示する方向へと進化してきました。ここ2〜3年で生成AIが検索に組み込まれ、この流れが一層加速していると考えられます。
現在、Googleによる検索でも、検索結果には生成AIによる短い要約文が表示されることが増えました。あれを見て「十分」と判断すれば、リンクをクリックしないことが起きています。これがいわゆる「ゼロクリック問題」です。
――一般の人が「検索エンジンを使う目的」を調査したデータ(2023年、ナイルのマーケティング相談室調べ)があります。それによると「知らない言葉、人物」が67.4%で最多、「趣味に関すること」49.3%、「ニュース」47.1%が続いていました。言葉の意味や人物のプロフィールを知るだけであれば、生成AIによる要約だけで満足して、ゼロクリックが増えた理由も納得できます。

植松 従来の検索では、キーワードによる検索が基本ですが、実際に我々が知りたいことを検索システムに伝えるには、例えば、何かの言葉の意味が知りたいのであれば、「○○の言葉の意味が知りたい」と自然言語で入力するほうが簡単ですよね。つまり、「キーワードで工夫して検索する」のではなく、「自然言語による質問で検索する」ほうが、我々の要望に沿った使い方になるわけです。
例えば、PC-Webzineがどのようなサイトなのか知りたいときに、従来は「PC-Webzine」と入力して検索し、表示されたサイトに実際に行って自分で確認するか、「PC-Webzineとは」と入力して、もし、PC-WebzineにAboutページがあれば、そこへ行って、そのページを見るという方法でした。
ところが、生成AIでは「PC-Webzineはどのようなサイトですか」と自然言語で入力して検索すれば、PC-Webzineのサイト全体を評価して、要約して紹介してくれます。
従来の検索では、ユーザーの要望と返ってくる検索結果にギャップがありましたが、生成AIではギャップが少なくなり、要望に対して合致した回答を示してくれるわけです。
ユーザーがやりたかったのは「PC-Webzineの概要を知る」ことですが、生成AIの検索では、その目的をそのまま言葉にできる。検索語を工夫する必要がなくなったことは、行動変容として非常に大きいと思います。ユーザーが検索エンジンに合わせて工夫するのではなく、自分の意図を自然な形で表現できるようになったことが大きな変化です。
私自身も調べ物の多くは、Google検索ではなく、ChatGPTなどの生成AIで検索するようになりました。ただし、それですべてを完結させているわけではありません。重要なのは「その情報は信頼できるか」「情報源はどこか」「一次情報は何か」という確認です。必ず、一次情報にあたって、その情報が信頼に足るものか確認するようにしています。
生成AIの登場によって、むしろ情報リテラシーの重要性がより強く意識されるようになったと感じています。

これからの検索は能動的検索と受動的情報取得に
――情報検索の役割は今後どうなっていくのでしょうか。
植松 私は「能動的検索」と「受動的情報取得」に分かれていくと考えています。
情報検索の分野では、検索の目的を大きく「ナビゲーショナル検索」「インフォメーショナル検索」「トランザクション検索」の3つに分類しています。
ナビゲーショナル検索というのは、要するに特定のサイトに行きたいという目的で検索する検索方法で、例えばYahoo!に行くのにGoogleに「Yahoo!」と入力して出てきたリンクをたどるというもの。
インフォメーショナル検索は、言葉の意味やニュース、知識を知りたいというもの。そして、トランザクション検索は、商品を買いたいとか、チケットを予約したいというものです。
生成AIに強く影響を受けているのは、主に「能動的に知りたい」というインフォメーショナル検索の部分です。
一方で、受動的にニュースを眺める、ポータルサイトを見るといった行動は、まだ従来型のメディアやSNSが担っているため、今のところ、生成AIには大きな影響を受けていません。
能動的検索の代表例がGoogle検索で、受動的情報取得の代表例がYahoo!です。
歴史的に見ると、1994年にWWWのポータルサイトとしてYahoo!が登場しました。Webサイトをカテゴリー別に分けて掲載し、ユーザーが目的のサイトに到達することを助けるポータルサイトでした。その後1998年に、全文検索のGoogleが登場し、情報検索の主流となりました。Googleは能動的検索の代表例です。
おもしろいことに、米国ではGoogleの登場によって、Yahoo!は人気がなくなりましたが、日本ではいまだにYahoo!の人気が高く、これは文化の違いと言えると思います。
これからは、能動的に「これを知りたい」と思ったときは生成AIを使い、ニュースや話題の流れを受動的に知りたい場合は、ニュースサイトやSNSが引き続き使われると思います。
ただし、将来的には受動的な情報取得にも生成AIが入り込み、自分が欲しい情報だけを要約してくれる世界が来る可能性は高いと思います。

メディアと広告モデルへの影響
――クリック数(PV)減少は、広告モデルのメディアにとって深刻ではありませんか。
植松 影響はあると思います。ただし、「価値が下がった」と即断するのは早いと思います。重要なのは「誰に届いているか」です。生成AI経由でたどり着いた読者は、目的が明確です。その分、滞在時間が長かったり、内容をしっかり読んだりするケースも増えています。
「たくさんの人に浅く読まれる」から、「必要な人に深く読まれる」方向へシフトしているとも言えます。
今後は量ではなく質、つまり「信頼される情報」「一次情報」がより評価される時代になるでしょう。
また、生成AIのトップランナーの一つ、ChatGPTが広告を入れる方針を明らかにしました。より強いニーズに対応する広告モデルが確立されるかもしれません。

企業サイトはブランド価値を高める努力を
植松 企業サイトの重要性は従来よりも増すと思います。企業は自分たちにしか出せない一次情報を持っています。その情報をどう整理し、どう発信するかがブランド価値につながります。
一番重要なのは「一次情報」です。自分たちしか持っていない情報、現場で生まれたデータ、独自の知見。そうしたものは、AIに要約されても価値が失われません。むしろ、生成AIが答えを出すときの「根拠」として参照される可能性が高まります。
そのためには、AIにも人間にも「信頼できる」と認識されるブランド力が不可欠になります。
SNSは一次情報を得るための有効な手段となりうる可能性はありますが、短期的な話題づくりだけでなく、中長期的に信頼される情報を出し続けることが欠かせません。
――生成AIによって、大手だけが有利になるという懸念はありませんか。
植松 短期的にはそう見えるかもしれませんが、私は逆だと思っています。一次情報を持っている限り、企業の大小は関係ありません。
たとえば、「金属加工」ではなく、「〇〇という金属を〇〇という条件で加工したい」という具体的な質問を投げれば、オンリーワンの技術を持つ中小企業が選ばれる可能性が高まります。生成AIは細かい条件や文脈を理解できるため、オンリーワンの技術や専門性を持つ小さな企業とユーザーを結びつけやすくなるからです。適切に情報を出していれば、これまで埋もれていたニッチな存在が見つかる可能性は高まります。
生成AI時代にユーザーに求められる力
――最後に、一般のユーザーはこの変化にどう向き合えばよいでしょうか。
植松 大切なのは、人間が情報の主体であり続けることです。人間が作った情報を、その情報が欲しい人にきちんと届けるということが何よりも大切なことです。ニッチが淘汰されるのではなく、活性化するような世の中になってほしいというのが私の基本的なスタンスです。
人間が情報を得たいと思う理由の一つは、自分が所属するコミュニティの中で、自分も情報を共有したいと思うこと、また、自分がコミュニティ内に情報を発信したいと思うことです。生成AIも、人間が作った情報を、必要とする人に届けるための道具でしかありません。
そのために、ユーザーには二つのことを守って欲しいと思います。一つは、情報の信頼性を確かめること、必ず一次情報にあたるようなリテラシーが必要です。もう一つは、自分が何を知りたいのかを言葉で表現する力です。自然言語で入力する質問によって、結果が変わってきますから、質問の表現力が今後ますます重要になります。
正しい情報が効率よく流通し、コミュニケーションが活性化する未来を実現できるかどうかは、生成AIではなく、それを使う私たち人間次第だと思っています。


