デジタル機器の積極的な活用で
非常時の拠点間の情報共有を迅速化

災害時における迅速な情報共有は、住民の安全や素早い復旧を実現するための鍵となる。管轄区域の広さを問わず、災害が起きている箇所の状況をすぐに確認したり、周辺住民に周知する内容をいち早く共有したりできれば、ロスタイムなく住民への避難を呼びかけられる。今回は広い管轄区域を持つ行政区の京都府京都市左京区が、日本HP・さつきと締結した「左京区北部山間地域における災害時等のデジタル化推進に関する協定」を取材した。

京都府京都市左京区

京都市の東北部に位置する人口16万2,653人(2025年6月1日時点)の都市。銀閣寺の名で知られる「東山慈照寺」や、1951年に国指定の名勝となった枯山水庭園を持つ「南禅寺」、平安遷都1100年を記念して建てられた「平安神宮」など多くの観光名所を有する。京都四大行事の一つとされる「五山送り火」を行う「如意ヶ嶽」(大文字山)も有名。

区役所と出張所の情報共有が課題

 災害時にいち早く現場の状況を把握したり、住民への連絡を行ったりするためには、自治体職員間で素早く情報共有ができる環境を整える必要がある。しかし面積が広い自治体の場合、役所と出張所の距離が大幅に離れてしまうため、職員が直接会ってコミュニケーションを取ることは難しい。京都府京都市左京区もそうした悩みを抱える自治体の一つだった。

 そこで左京区が2025年3月25日に日本HP、さつきと締結したのが「左京区北部山間地域における災害時等のデジタル化推進に関する協定」だ。左京区役所 地域防災係長 中出浩司氏は、締結の背景を次のように話す。「左京区は南北35km、東西12kmと広い管轄区域を持つ行政区です。市街地に左京区役所を構えるほか、北部山間地域には花背出張所と久多出張所という2カ所の出張所を設置しています。しかし花背出張所から左京区役所までは約18km、久多出張所から左京区役所までは約24km離れており、両出張所は区役所まで片道1時間程度かかります。そのため、災害が発生した際の区役所と出張所の迅速かつ円滑な情報共有を課題としていました。特に北部山間地域は、その地域に通じる道路が限られているため、大規模な災害が起きると孤立してしまう懸念があります。そこで日本HPさまとさつきさまにご協力いただき、リモートで情報共有が行える機器を貸与していただく形で、本協定の締結に至りました」

無償貸与のデジタル機器を活用

 本協定は、日本HPとさつきが無償貸与するデジタル機器などを左京区役所、花背出張所、久多出張所に設置し、災害時および平常時の業務で積極的に活用するという内容だ。デジタル機器などの実証実験や効果検証をする中で、日本HPとさつきはそれぞれ必要に応じて助言や情報提供なども行っていく。協定期間は、2025年3月25日から2030年3月31日までの5年間だ。協定期間終了時に期間継続の有無を3者で確認し、継続する場合は1年間ごとに協定を継続することとなる。

 本協定で日本HPは2製品を貸与した。まず一つ目は、ビデオバー「Poly Studio USB」だ。日本HP ハイブリッドワークソリューション・ペリフェラル事業本部 エンタープライズ営業本部 アライアンス&ビジネス開発マネージャー 是枝日登志氏は、Poly Studio USBの特長を次のように語る。「1対1でコミュニケーションを取る際は、ノートPCに標準で付属するWebカメラやマイクで十分な場合があります。しかし災害対策では、場所対場所のコミュニケーション、つまりは複数対複数で話す状況になります。そのときに誰が今話しているのか、どんな表情で話しているかを的確に捉えられるデバイスが、Poly Studio USBです」

 二つ目は、大容量インクタンクプリンター「HP Smart Tank 7305」だ。是枝氏は、HP Smart Tank 7305の特長についてこう話す。「コミュニケーションを取る中で、会話のほかに重要なものが資料です。状況によって紙で共有した方がよい場合と、クラウドで共有した方がよい場合があります。HP Smart Tank 7305はプリント機能だけでなくスキャナー機能も付いているため、紙媒体とクラウドのインターフェースとして使用可能です。またHP Smart Tank 7305は大容量タンクを搭載し、インクの交換頻度を大幅に減らせるので、メンテナンスが楽な製品になっています。肝心なときにインクが切れている事態になりにくく、いつでも使える点も特長です」

協定締結式の様子

左から日本HP ハイブリッドワークソリューション・ペリフェラル事業本部 本部長 山口純一氏、左京区役所 区長 森元正純氏、さつき 代表取締役社長 祖父江洋二郎氏。
日本HPは左京区にプリンター・ビデオバーを貸与し、さつきは電子黒板・スタンド・PCユニット・ポータブル電源を貸与する。左京区は平常時・災害時にこれらを活用していく。
協定締結式では山間地域における災害発生を想定したライブデモを実施。Google Earthの写真と災害現場との違いを比較表示し、ペンで補足情報を書き込むなどの活用例を実演した。

平常時も活用し地域連携を目指す

 さつきが貸与したのは、65インチの電子黒板「MIRAI TOUCH Biz ChromeOS搭載モデル」(以下、MIRAI TOUCH Biz)、MIRAI TOUCH Biz専用スタンド、PCユニット、ポータブル電源の4製品だ。さつき ITソリューション事業部 事業推進部 マネージャー 柳 颯人氏は、MIRAI TOUCH Bizの特長を次のように話す。「MIRAI TOUCH Bizはモニターの下部にカメラを搭載しています。ですので本製品の下に紙媒体を置けば、その内容をMIRAI TOUCH Bizに大きく映し出して共有ができます。また本製品に搭載しているChromeOSは、Googleアカウントでログインが可能です。そのため災害時用のGoogleアカウントを作成しておき、そのアカウントへ災害対策に必要な情報を入れておくという活用ができます。左京区の職員は、MIRAI TOUCH Bizに災害時用のアカウントでログインすれば、どの拠点にいても必要な情報をすぐに見られるのです」

 中出氏は、本協定を踏まえた左京区の展望をこう語る。「災害時はもちろん、平時からさまざまな形で活用していきたいです。今回貸与していただいた機器によって、左京区役所や各出張所のそれぞれの周辺地域の方とつながっていきたいと考えています」

 続けて是枝氏も、同じく日本HPの展望をこう話す。「今回貸与した製品は企業での活用がほとんどだったので、左京区さまでの活用は、当社としては非常に新しいケースです。今後もこの協定における機器利用の中で新しい使い方を学んだり、情報共有をしたりしていくことで知見を広げ、ほかの自治体さまに向けてもデジタルトランスフォーメーション(DX)の支援をしていきたいと思っています」

 そして最後に柳氏も「今回の協定をきっかけに、MIRAI TOUCH Bizがソフトウェアや周辺機器など、さまざまなソリューションのハブとして活躍する環境をつくりたいです。皆さまが安全で快適に過ごせる社会づくりに貢献する取り組みを、MIRAI TOUCHブランドで展開したいですね」とさつきの展望を語った。