屋内の暑さ指数を可視化して
大田区民の熱中症防止に取り組む

40度を超える暑さが各地で起こり、熱中症は社会問題になっている。熱中症患者を減らすには個人の対策はもちろん、自治体を挙げての対策も必要になる。例えば住民が利用する施設内に熱中症の警戒を促す仕組みがあれば、限界に気付かず倒れてしまう人を減らせるだろう。今回は熱中症対策のためのコンソーシアムを設置する東京都大田区が、リコー、リコージャパンと共に行う熱中症防止の取り組みを取材した。

東京都大田区

東京都の東南部に位置する人口74万5,621人(2025年10月1日時点)の都市。東京の空の玄関口「東京国際空港」があるほか、多摩川古墳群の散策や四季折々の花が楽しめる「多摩川台公園」、大正時代から空の安全信仰を集める「穴守稲荷神社」など多数の観光スポットを備える。日本では全国に24カ所しかないボートレース場の一つ「ボートレース平和島」もある。 画像提供:大田区

産学官連携での熱中症対策

 年々猛暑日が増加し、2025年は複数の地域で40度を超える酷暑の年になった。この暑さによって熱中症は社会課題となり、自治体を挙げての熱中症対策も行われている。

 そうした中で東京都大田区は、熱中症対策を産官学連携で進める取り組みの「大田区熱中症対策コンソーシアム」を2024年6月1日に設置した。本コンソーシアムは大田区、東邦大学、大塚製薬の3者をコアとし、2025年3月31日時点で26団体が参画している。

 大田区 企画経営部 SDGs未来都市推進担当課長 佐藤達生氏は、本コンソーシアムの目的をこう語る。「大田区熱中症対策コンソーシアムは、民間企業さまのノウハウやスピード感をお借りし、行政だけでは達成できない熱中症対策の強化を目的としています。民間企業さまが持つ技術で対策につなげるとともに、学術機関で当区の熱中症搬送データを分析していただき、医学的知見を用いた効果的な啓発物を作成するといったことを実施しています」

 続けて大田区 企画経営部 企画課 大田区公民連携デスク 政策・企画担当係長 課長補佐 市川 一氏も、本コンソーシアムの現状を次のように話す。「本コンソーシアムにより、今まで熱中症にあまり関心のなかった企業さまにも、熱中症対策に取り組んでもらえています。行政だけでなく民間企業さまも巻き込む形で、区民を熱中症から守っています。必ずしも行政が関与しなくても、民間企業さまのノウハウをもって熱中症対策に取り組んでもらう効果も狙っています」

体育施設のWBGT値を測定

 大田区熱中症対策コンソーシアムには、大田区に本社を持つリコー、並びにリコーの関連会社であるリコージャパンも参画している。この参画を基に開始したのが、大田区の屋内体育施設における熱中症対策の取り組みだ。

 具体的には、大田区内で2025年10月までに移転予定がなく、冷房設備のない屋内体育施設3カ所にセンサーを設置する。このセンサーには、温度や湿度などの環境情報を検出するリコーの「固体型色素増感太陽電池EH環境センサー」を使う。そしてこのセンサーで、暑さ指数(WBGT値:Wet Bulb Globe Temperature値)を測定するのだ。

 測定したWBGT値はモニターに表示することで、運動中の体育施設利用者に注意喚起を行う。なお本取り組みの実施期間は、2025年6月から気温の下がる同年10月までの予定だ。

 リコー リコーフューチャーズBU Energy Harvesting戦略室 室長 田中哲也氏は、センサーに色素増感太陽電池を用いる理由をこう説明する。「本取り組みのセンサーに使っている色素増感太陽電池は、次世代太陽電池と呼ばれる有機系の太陽電池です。複合機の事業を行う当社がなぜ太陽電池の研究開発を実施しているのかというと、それは複合機に使われている主要部品が、実は太陽電池と非常に似ているからなんです」

 色素増感太陽電池は太陽光ではなく、室内光を吸収して発電する。この太陽電池で発電した電力を使って、温度・湿度・照度・気圧を取得するセンサーを動かすため、センサーは電池交換や配線の必要がない。

 センサーで取得した情報はWBGT値に変換し、Bluetooth・ゲートウェイを介してクラウドへ上げていく。クラウドに上がってきたWBGT値は、リアルタイムでWebブラウザーから確認できる。全国どこにいても、センサーを設置した体育施設の暑さを把握可能だ。

危険度表示の様子&システム概要
危険度表示の様子&システム概要

利用者に行動の変化をもたらす

 佐藤氏は取材時点(2025年9月)における、本取り組みの反響をこう話す。「体育施設を利用した方にアンケートを実施したところ、多くの方から肯定的な意見をいただきました。モニターを確認した方からは、『数値を見て休息を心がけた』『水分補給を行った』といった、実際の行動に変化が起きた回答をもらいました。こうした反応を見ると、体育施設利用者の安全確保につながった面があったのだと実感しています」

 続けて佐藤氏は、本取り組みを踏まえた大田区の展望を次のように語る。「引き続き現在行っている取り組みを検証し、効果的な熱中症対策を通じて、区民の皆さまの安全安心につなげていきます。また大田区熱中症対策コンソーシアムで多くの企業さまと連携できましたが、我々が公民連携で目指すのは、自治体、民間企業、区民の三方がそれぞれメリットを感じる連携です。今後もこの理想的な公民連携を実現していきます」

 さらに田中氏も、リコーの展望を「今回の取り組みを実証実験で終わらせず、取得したデータや利用者の声を分析し、今後の社会実装に向けて動いていければと思っています。熱中症患者を減らすためのサービスにまで展開していきたいです」と話す。

 またリコージャパン エンタープライズ事業本部 公共事業部 第四営業部 部長 鳥居久仁広氏は、リコージャパンの展望を「全国の自治体でも、サイネージのコンテンツの一つとして熱中症対策を扱ってもらえればと思っています。今後も熱中症になる方々を少しでも減らせるように役立っていきたいです」と語る。

 最後にリコージャパン パブリックサービス本部 自治体事業部 地方創生推進室 室長 星 久光氏も、リコージャパンの展望を以下のように話した。「リコーにとってなじみ深い大田区さまと連携できたことは、大きな成果の一つだと感じています。引き続きリコーのサービスを通じて、社会問題に対する手を打っていきたいです。これからも全国の自治体さまに対して、熱中症対策に関する普及活動をしていきます」