地域密着の決済手段で経済活性化を目指す
デジタル地域通貨「京丹波GREEN Pay」

少子高齢化が進む地域では、地域経済の停滞が課題になっている。活性化のためには、観光客の購買意欲を高めるとともに、継続的な消費を促す工夫が求められる。地域住民に対しても、地域内で積極的に消費をしたいと思わせる施策が必要だ。今回は、地域経済の活性化を目指す京都府京丹波町が、NTTビジネスソリューションズと共に実施するデジタル地域通貨「京丹波GREEN Pay」の取り組みを取材した。

京都府京丹波町

京都府のほぼ中央部に位置する人口1万2,189人(2025年7月末時点)の都市。庁舎は京丹波町の森林資材を使用して建てられており、菓道家 津田陽子氏のタルトや焼き菓子が楽しめる「こだちカフェ」を備える。町のシンボルでもある「美女山」は、一説によれば美女が横たわっている姿に似ていることがその名の由来とされており、登山コースとしても人気が高い。

積極的な消費を促すためには

 少子高齢化の問題は、地域経済の停滞にも影響を及ぼしている。地域経済を活性化するには、観光客による消費を盛り上げるだけでなく、地域住民にも積極的な消費を促す必要がある。

 そこで観光客と地域住民に向けて、積極的な消費を促す取り組みを実施するのが、京都府京丹波町だ。同町はNTTビジネスソリューションズと協力し、京丹波町内で使えるデジタル地域通貨「京丹波GREEN Pay」の提供・運用を開始した。

 京丹波町 総務部 企画情報課 主査 倉澤晋平氏は、京丹波GREEN Payの取り組みを開始した背景を次のように語る。「京丹波町は少子高齢化と地域経済の停滞という課題に直面しており、地元消費の喚起と交流人口の定着が急務になっています。現在当町には年間400万人程度の交流人口が訪れているため、交流人口が生み出す地域への付加価値を定着させることを目指し、京丹波GREEN Payの導入を決めました」

多種多様な加盟店で利用可能

 京丹波GREEN Payは、スマートフォンに京丹波GREEN Payのアプリをインストールし、アカウントを作成することで利用可能だ。チャージはクレジットカードか、京丹波町の本庁や特定の加盟店をはじめとした、店頭チャージに対応する場所での現金チャージにて行える。

 チャージが完了したら、京丹波町内の加盟店に設置されているQRコードを読み取り、決済金額を入力することで支払いができる。もしくは京丹波GREEN Payにて支払い用のQRコードを表示し、加盟店側がそのQRコードを読み取ることでも支払えるのだ。現在京丹波町内には、飲食店、スーパーマーケット、小売店をはじめ、ガソリンスタンド、家電販売、建築リフォームなど多種多様な加盟店が68店舗存在する。なお、加盟店は今後も増加する予定だ(どちらも2025年7月時点)。

 NTTビジネスソリューションズ 京都ビジネス営業部(現 三重ビジネス営業部) 野田丈志氏は、京丹波GREEN Payの特長をこう話す。「地域密着型の決済手段なので、プッシュ通知やお知らせ機能にて、京丹波町の観光情報やイベント情報を流せます。ほかにも加盟店のクーポンなどもタイムリーに発信可能です。ユーザーに地域の魅力を伝えながら、地域経済の活性化に貢献できる仕組みになっています。また地元の方の協力により、小売店や飲食店だけにとどまらず、さまざまな業種の加盟店で使える点も強みです」

 京丹波GREEN Payの導入によって目指す目標は、主に三つあるという。まず一つ目は、地域経済の活性化による経済の好循環の構築だ。京丹波GREEN Payの導入によって、今まで町外に消費が流れていたところも、地域内での消費に変わることが期待できる。町内での消費が増えると、消費者と生産者が互いに顔を合わせる関係をより築けるようになる。そうした直接のやりとりが、将来的には地域経済の活性化につながると考えているそうだ。

 二つ目は、決済データを活用した消費者の可視化と政策立案の効率化だ。京丹波GREEN Payの決済データを分析することで、町内外の消費者について、どういった年代の人々がどこで消費をしているかという詳細な情報を得られる。今後はこの情報を、町の政策や企画の立案に活用していく。

 三つ目は、持続可能な町づくりだ。京丹波町では「地域SDGs活用プラットフォーム」という取り組みを実施している。この取り組みは、京丹波町のSDGsに関する活動を行うと、景品との交換や地域への返還ができる「京丹波サンクスポイント」がもらえるものだ。京丹波サンクスポイントは、京丹波GREEN Payのポイントと交換が可能になっている。このポイント交換が行えるメリットを生かして、多様な人々が地域SDGs活用プラットフォームの活動に参加することを目指す。こうした取り組みを通して人とお金の流れを構築し、持続可能な町づくりを進めていくという。

高齢者のユーザーが多い状況に

 では、利用者の反応や反響はどうなっているのだろうか。倉澤氏は「利用者数や決済金額などは当初の想定通りで、取り組みは順調に進んでいます。利用者からは『決済が楽になった』『お知らせ機能が使いやすい』など良い感想をもらっています」とユーザーのリアクションを話す。

 また、実際に導入してみて意外だった点もあるそうだ。「キャッシュレス決済は若い方が使うイメージがありましたが、京丹波GREEN Payは高齢者のユーザーが多いです。財布を落とすリスクがなくなるため、本人はもちろん、家族がアプリをインストールしてあげているケースもあります。キャッシュレス決済の新しい側面が見えてきましたね」(倉澤氏)

 続けて倉澤氏は、京丹波GREEN Payの取り組みを踏まえた京丹波町の中長期ビジョンを次のように話す。「今回の成功モデルを軸に、キャッシュレス決済にとどまらない地域のDXを進めていきます。地域住民はもちろん、交流人口や関係人口との接点も拡大し、経済コミュニティーと共に持続的に発展する町づくりを目指します」

 最後にNTTビジネスソリューションズ 京都ビジネス営業部 河野主義氏は、本取り組みを踏まえた同社の展望をこう話した。「NTT西日本グループは京丹波町さまだけでなく、ほかの自治体さまとも連携して地域通貨の取り組みを行っています。京丹波町さまの事例を生かして、日本全国さまざまな地域を活性化していきます」