戸田中学校に新たに開設した「STEAM CAMPUS」とは

戸田市教育委員会は戸田市立戸田中学校において、複数の特別教室にICT機器を配置した「STEAM CAMPUS」を設置し、2025年11月11日に開設セレモニーを実施した。インテル、ダイワボウ情報システム（DIS）とともに取り組むSTEAM教育の在り方について見ていこう。

　ICT教育の先進自治体として知られている埼玉県戸田市。同市は2021年からインテルと最新テクノロジーを活用したSTEAM教育についての共同研究に取り組んできた。その取り組みの中で同市の小中学校に展開されてきたのが「STEAM Lab」だ。STEAM LabとはハイスペックPCを中心に、動画編集ソフトや3Dプリンターなどを配備し、その環境の中でSTEAMの学びを行える教室だ。

　その環境をさらに発展させ、複数の特別教室に最先端のICT機器を配備した「STEAM CAMPUS」を開設したのが、戸田市立戸田中学校だ。戸田市は本STEAM CAMPUSを活用し、インテルおよびDISと連携したSTEAM教育の共同研究に取り組む。

　本STEAM CAMPUSの開設セレモニーに登壇したインテル 代表取締役社長 大野 誠氏は戸田市との関わりを次のように振り返る。「戸田市さまとは4年前から『STEAM教育ならびに21世紀型スキル育成教育の推進に関する覚書』を締結し、STEAM教育への共同研究を進めてきました。当時、STEAM Labで生徒たちがビデオ編集をしている微笑ましい光景を覚えています。関係者の皆さまのおかげでSTEAM Labは18の指定校に広がりを見せました。また文部科学省の『DXハイスクール』（高等学校DX加速化推進事業）の取り組みにおいても、このSTEAM Labのような先進ICT環境が整備された教室の展開が進められており、1,000校以上の指定校に広がっています。今回戸田中学校に整備したSTEAM CAMPUSはこれまでのSTEAM Labの進化形ともいうべき存在であり、これまで1教室で展開していた限定的な環境ではなく、学校全体でSTEAM教育を実施する発展的な取り組みです」と語る。

　具体的には、これまでメディアルームのみに整備されていたSTEAM教育環境を、戸田中学校の理科室、木工室、音楽室、美術室といった特別教室にも拡大する。これにより、従来課題となっていたSTEAM教育環境の不足解消に加え、より教科に密接に紐付いたSTEAMの学びが実践できるようになる。

　インテルとともに戸田市のSTEAM教育の共同研究に取り組むDISの代表取締役社長 松本裕之氏は「3年前、STEAM Labの環境を活用し、ドローン飛行を行った算数の授業を見せていただいて以来、この教室の大ファンです。IT人材の枯渇が社会問題となる中で、こうしたSTEAM教育を行える場でIT人材の育成を進めることは日本の未来のためにも重要です。産学官の3者が一体となってこのような場を開設し、共同研究を進めていくことが非常に楽しみです。当社は全国に100拠点以上を展開する『顔の見えるディストリビューター』であり、地域密着型のビジネスを展開しています。だからこそ地域の先生方の大変さを現場を見て理解しています。商品を納入するだけでなく、その後のサポートも全力で行っていきます」と語った。

　戸田市教育委員会の教育長を務める戸ヶ崎勤氏は、今回新たに戸田中学校に開設されたSTEAM CAMPUSについて「まずはこのようなわくわくする学びの場を提供いただいたことに、関係者の皆さまにあらためて御礼申し上げます」と述べた後、その重要性について次のように説明した。

「次期学習指導要領に向けた議論が始まっています。キーワードとしてあげられているのは『社会に開かれた教育課程』であり、教科等の学びを実社会に結びつけて展開していくことの重要性が指摘されています。さまざまな調査の中でも日本の子供たちは理数系の学力は高い一方で、その学びに対しては『楽しくない』と回答する子供が少なくありません。『努力は夢中に勝てず、義務は無邪気に勝てない』というように、無邪気に学ぶ子供たちの知的好奇心を引き出す学びの実現が重要です。また、社会に開かれた教育課程を実現する上では、産業界と積極的に連携していくことも重要です。教員だけで考えていくのではなく、本物や一流、最先端のものに触れていくことが非常に重要になります。戸田市ではこれまでもPBL（課題解決型学習）を重視してきましたが、近年このPBLを第二フェーズに進めていこうとしています。その上でのキーワードが『ものづくり』であり、これを通して子供たちの知的好奇心を育んでいきます」（戸ヶ崎氏）

　また戸ヶ崎氏は、次期教育指導要領で『デジタル学習基盤』が大きなキーワードになっていることに触れ、「最先端の学びができる空間」としてのSTEAM CAMPUSの価値を力説した。「私が小学校のころ、学校には家庭にはないさまざまなものがあり、わくわくする楽しさがありました。このSTEAM CAMPUSが、その楽しさを創出する場になることに、大きな期待を持っていますし、このモデルが戸田市から全国に展開していくことで、日本の教育がわくわくする学びの場になるトリガーとなることを期待しています」と語った。

　インテルは、30年ほど前から、教育現場へのハード・ソフト両面での支援を行っている。インテル パブリックセクター事業本部 公共・文教事業推進部 文教事業推進マネージャー 大西清香氏は「ハード面ではPCを始めとした学びに関連した環境設備の支援であり、STEAM Labの実証研究もその一つです。DISさまを始め、多くのパートナー企業の協力のもと、全国の教育現場にテクノロジーの環境整備の支援を行ってきました。ソフト面では教員研修や教材などの提供です。当社では『インテル Skills for Innovation』（以下、インテル SFI）というフレームワークを用いて、子供たちが次世代のイノベーターとして活躍できるスキルセットやデザイン思考、マインドセットを育む教育プログラムの提供や、先生方のための研修教材の提供を通じて、教育の在り方を変えるお手伝いを行っています」と語る。このインテル SFIは150カ国以上の国で展開されており、グローバルで14万人以上の教員が活用しているという。またDISはこのインテル SFIをベースとした教員研修を日本で初めて開発しており、戸田中学校の教員研修で活用される予定だという。

　DISは、今回の戸田中学校のSTEAM CAMPUS整備における三つの支援をワンパケージで提供している。同社の教育ICT推進グループ マネージャー 前田健太郎氏は「STEAM CAMPUS構想で私たちが目的とするのは、探究的な学びの基盤となる情報活用能力と、その育成に向けたSTEAM教育環境の推進ならびに支援です。具体的には、環境支援、活用支援、普及支援の三つを柱としています。まず環境支援では、学校全体の創造性を育むSTEAM環境の整備を行っています。二つ目の活用支援では、このSTEAM CAMPUSを最大限に活用してもらうため、インテル SFIをベースとした当社の研修プログラムを提供していきます。三つ目の普及支援では、当社は国内最大級かつ地域密着型のディストリビューターとして、全国のパートナーさまと連動し、全国に本環境の普及展開を進めていく支援を行います」と語る。

　その中心となっているSTEAM CAMPUSの環境整備では、前述した通り戸田中学校のメディアルームのほか、理科室、木工室、音楽室、美術室といった特別教室への展開を行う。メディアルームはこのSTEAM CAMPUSのコア（核）となる学習環境「Core Lab」と位置づけ、PBLを中心とした探究・総合的な学習や教科学習、プログラミング学習などの学びを行うための環境を整備した。具体的にはハイスペックPCを整備し、動画編集も快適に行えるほか、アクティブラーニング形式での学びを行いやすいよう可動式の什器を設置している。また、理科室は「Science Lab」、木工室は「TEch Lab」、音楽室は「Music Lab」、美術室は「Art Lab」と位置づけ、それぞれの環境にハイスペックPCを整備したほか、各特別教室の教科に応じた最先端のICT機器を整備することで、教科横断的な学びの中で創造的な学びを実現できるよう支援している。本STEAM CAMPUS構想は、戸田中学校を皮切りに全国への拡大を目指していく予定だ。

　戸田中学校の研修主任からはこれらのSTEAM CAMPUS環境の活用に向けて「教員が6つの専門チームに分かれて研修に励み、新しい環境を最大限に活かす準備を進めています。生徒の学びを深く、面白く、笑顔あふれるものにすることを願い、試行錯誤を通じて自信を育む場にしていくべく、取り組みを進めていきます」と展望が語られた。