生成AIを活用して自由度の高い
観光プロモーション動画を制作

魅力的な観光プロモーション動画は、集客に大きくつながる。しかし大がかりなものを撮影しようとすると、観光スポットを撮影のために封鎖したり、高度な編集技術が必要になったりして、大幅な手間やコストがかかってくる。そうした課題を解決するために、生成AIを観光プロモーション動画の作成に取り入れたのが、奈良県天川村だ。今回は、奈良県天川村がNTT西日本・地域創生Coデザイン研究所と共に実施した「生成AIを活用した観光プロモーション動画制作」を取材した。

奈良県天川村

紀伊半島の中央部に位置する奈良県の村。世界遺産「紀伊山地の霊場と参詣道」の構成要素の一つである「大峰山寺」や、修験道の隆盛とともに大峯信仰の登山基地として栄えてきた「洞川温泉街」、音楽や芸能の神様として有名な弁財天女を祀る「天河大辨財天社」、巨石・奇石や大小の滝などが景観をつくる「みたらい渓谷」などさまざまな観光地がある。

観光振興に関する連携協定を締結

 生成AIは日々進化を続けている。利用者が入力した質問への回答精度はもちろん、画像や動画の生成におけるクオリティーも上がってきているのだ。そこで、生成AIをNTT西日本、地域創生Coデザイン研究所と協働で観光プロモーション動画制作に活用したのが、奈良県天川村だ。NTT西日本 奈良支店 ビジネス営業部 ビジネス推進担当 要川拓野氏は、生成AIを用いた観光プロモーション動画を制作した背景について「本件は、当社と奈良県さまが2024年9月17日に締結した『ICTを活用した観光・産業振興等に関する連携協定』を踏まえ、さまざまな観光分野の取り組みを行う中で話が挙がったものです」と切り出す。

 ICTを活用した観光・産業振興等に関する連携協定とは、NTT西日本が持つICTをはじめとした技術力を生かし、豊かで活力ある奈良県を目指していくものだ。観光・産業振興のほか、地域活性化や県民サービス向上に関することなどについて、ICTを活用した取り組みを推進していく。

 要川氏は「天川村さまのプロモーション動画制作の話題が挙がった際、ICTを活用して何か作れないかという話になりました。そこで、生成AIを使って手間なくプロモーション動画を作成しようとなったことが、制作に至った背景です」と続ける。

公式Instagramで動画を公開

 天川村の観光プロモーション動画は、動画および音楽を生成AIで作成した。現在は天川村の公式Instagram「天川村/tenkawa vill【公式】」にて公開中だ。内容は、首都圏に住む女性が夢で天川村を旅して、現実に戻った後でも天川村を恋しく思うものになっている。動画の中では「みたらい渓谷」や「面不動鍾乳洞」などの観光スポットを巡っていく。女性は夢の中で白い竜のような生物と天川村を旅するのだが、竜の背中に乗って空を飛ぶシーンがあるなど、自由度の高い内容になっている点が特長だ。

 地域創生Coデザイン研究所 コンサルティング事業部 主任研究員 リードCoクリエーター 富坂直昭氏は、プロモーション動画作成の流れをこう説明する。「まずは天川村さまの観光素材として何を使用すればよいのかを、天川村さまと当社で洗い出しました。その上で動画のコンセプトを天川村さまと考えていき、動画を作り込みました。動画はやりとりを繰り返すことで改善を重ねながら、NTT西日本やNTT西日本の子会社である当社、そして奈良県さまや天川村さまと共に制作を進めていきました」

 ではなぜ、首都圏に住む女性が夢で天川村を旅するというコンセプトに決まったのだろうか。天川村 企画観光課 主事 田島 蓮氏は、その理由をこう語る。「旅行先を決める際、女性の方が『ここへ行きたい』といった希望をより出すのではないかと考えたためです。その上で都会や仕事に疲れた人が、異世界のような天川村に飛び込むのが面白いのではないかと思い、このコンセプトに決定しました」

 生成AIを使う際に付きまとう問題が、著作権だ。生成AIが他人の著作物を学習していたら、大きな権利問題に発展してしまう。要川氏は今回の生成AI活用において、著作権侵害のリスクを起こさないために気を付けた点をこう話す。「生成AIをどう扱うかは、当社内でも一定の議論が行われています。そのため生成AIの成果物を発表する際は、著作権を侵害していないか、他者に不快な思いをさせるものではないかといった、当社内のガイドラインをしっかり確認しています。今回の観光プロモーション動画も、法的問題に引っかかっていないかなどをきちんと確かめた上で、公開に踏み切っています」

周囲の反響はポジティブ

 富川氏は今回のプロモーション動画を踏まえ、今後実施したいことをこう語る。「当社は昨年度から、奈良県さまの観光データの見える化事業を請け負っています。その中で天川村さまは、今後の観光消費額を伸ばす視点で考えると、20〜30代の女性に多く来てもらうのが大事だということが見えてきました。プロモーション動画は2025年5月9日に公開されたばかりなので、今後の人流データを見て、どれくらいの効果があったか検証していきたいと考えています」

 それでは、現時点での反響はどうなのだろうか。「Instagramでは『すごい!』という声をいただいています。天川村の村長からも『ここまでリアルに作れるのなら、こういう取り組みもありなのではないか』との感想をもらっています」(田島氏)

 奈良県 観光局 観光力創造課 課長補佐 船本広大氏も、今回の取り組みについての感想を次のように語る。「従来の写真によるリアルなプロモーションだけでなく、生成AIを使ったイメージを膨らませたプロモーションが打てたことは良かったと感じています。周囲からも、さまざまなポジティブな声をいただいています。加えて、地域の方が今回のプロモーション動画で喜んでくれているのが一番うれしいですね」

 最後に船本氏は、今回の生成AI活用を踏まえた奈良県の展望をこう話した。「AIは、動画制作以外の分野でも活用できると考えています。今後もNTT西日本さまとの話し合いを通して、検討を重ねながら多様な展開をしていきたいです」