次世代校務DX実現に向けて校務システムのクラウド化や生成AIの活用が広がる
文部科学省は、教員の働きやすさ向上と、教育活動の一層の高度化を目指し、「次世代の校務DX」を推進している。この次世代の校務DXを実現する上で求められているのが「校務系・学習系ネットワークの統合」「校務支援システムのクラウド化」「データ連携基盤の創出」だ。このような次世代の校務DXに向けた取り組みについて、MM総研は全国の教育委員会を対象に電話アンケート調査を行い、「校務DXに向けたICT整備動向調査」(2025年3月時点)としてとりまとめている。同社の調査から見えてきた校務DXの現在地と、これからの可能性を見ていこう。
都道府県間に存在する温度差
教員の校務を支えるICTツールとして「統合型校務支援システム」がある。これは教務系、保健系、学籍系、学校事務系などの機能を統合したシステムであり、校務における業務負担の軽減や情報の一元管理、共有に寄与してきた。文部科学省によると2024年3月時点での統合型校務支援システムの整備率は9割を超えるなど、多くの教育現場で整備され、校務効率化を実現してきた。その一方でこの統合型校務支援システムの多くは、ネットワーク分離によるオンプレミス型の運用で利用されてきた。そのため、校務用端末は職員室に固定されており、柔軟な働き方が行えないといった課題や、1人1台の学習者端末の活用で生み出されている膨大な学習系データと、校務系データとの連携が困難であるといった課題が生じている。
こうした課題を解決するべく文部科学省は2023年3月に「GIGAスクール構想の下での校務DXについて〜教職員の働きやすさと教育活動の一層の高度化を目指して〜」という報告書の中で「校務系・学習系ネットワークの統合」「校務支援システムのクラウド化」「データ連携基盤の創出」などが次世代の校務DX実現に向けて求められることなどを提言した。
この校務支援システムのクラウド化が、「次世代校務支援システム」だ。MM総研は「校務DXに向けたICT整備動向調査」(2025年3月時点)において、次世代校務支援システムの導入率や共同調達意向などについて調査を行っている。
それによると、次世代校務支援システムの導入率は電話アンケートに回答した自治体全体の約10%にとどまるという。導入予定は2025年度から2029年度以降を合わせて29%であり、検討中・未導入の自治体が約6割と多数派だ。導入を検討している自治体は2025年度から2029年度にかけて分散しており、既存システムのリプレース時期に合わせて分散的に進んでいくとみられている。
本調査を担当したMM総研 研究主任 高橋樹生氏は「これらの結果を見ると、都道府県ごとに温度差があります。特に人口規模の小さい自治体では、導入や検討が進んでいない傾向が強く出ています。これは人的や財政的なリソース不足が足かせになっているのではないか、と読み取りました。というのも、次世代校務DXは、実現に向けて取り組むべき事柄が多いのです。校務システムのクラウド化だけであればそこまで大きなハードルではありませんが、これまでの閉域網での運用から、ゼロトラストの考え方に基づいたセキュリティ対策を講じた上で、校務系・学習系ネットワークを統合していくことも必要です」と指摘する。加えてこれらの環境を整備するためには自治体のセキュリティポリシーではなく、教育委員会独自の教育情報セキュリティポリシーを策定するなどの検討も求められる。こうした背景により、次世代の校務支援システムの導入検討が進んでいない状況だ。
校務支援システムのSaaS化が進む
次世代校務支援システムの導入については、都道府県単位の共同調達が推奨されている。調達事務や運用コスト軽減、小中学校間でのデータ連携の強化などを目的としており、「共同調達の具体的な動きがある」と回答した自治体は全体の28%に上った。加えて、都道府県から「共同調達の案内はあった/実施予定と聞いている」と回答した自治体は26%と、半数以上の自治体が共同調達に向けた動きがあるようだ。一方で、「都道府県から何も知らされていない(案内がない)」と答えた自治体は45%だった。「共同調達への対応も、都道府県ごとに温度差があります。一方で、共同調達に賛成する自治体は全体の71%と、共同調達自体のニーズは高いようです。特に小規模自治体ほど賛成の割合が高い傾向にありました。というのも、そもそも校務支援システム自体が導入されていない自治体も存在しており、そういったデジタル化が遅れていた自治体(市区町村)が多い方が、都道府県ごとの共同調達による整備が行いやすいためです」と高橋氏は語る。
それでは、校務支援システムのインフラ環境は、今後どのように変化していくのだろうか。MM総研は次世代校務支援システムを導入中、または検討中の自治体を調査したところ、次世代校務支援システムで利用予定のインフラ環境として、SaaS型を検討・採用している自治体が28%、PaaS型/IaaS型が5%、オンプレミスが2%となった。すでにインフラ環境の検討が進んでいる自治体の多くはSaaS型がメインとなっており、従来のオンプレミス型からクラウド型への移行が進みつつあるようだ。

外資ベンダーが先行する生成AI
ネットワーク構成の見直しも進んでおり、校務系ネットワークを学習系などと統合する方針を持つ自治体は44%に達している。高橋氏は「2023年5月に調査した際には、ネットワーク統合の方針を掲げる自治体は10%程度でした。現状では全体の7%ですが、文部科学省からの次世代校務DXの指針が浸透したことに伴い、校務系と学習系ネットワークの統合に向けた動きがが進みつつあるようです。一方で、ネットワーク分離を維持する方針の自治体も約45%あるようで、引き続き文部科学省による推進、アセスメントなどを通じたベンダーによる支援が求められます」と語る。
校務関連ソフトウェアの利用率およびベンダー別利用率を見ると、国内ベンダーは校務支援システム、学習eポータルでの利用率が高い傾向にある。一方で汎用クラウドや生徒の端末管理を行うMDMなどは、外資ベンダーの製品を利用する傾向が強い。これは端末に強く関連するソフトウェアであるためと考えられている。一方で、汎用クラウドとMDMで使用しているベンダーが異なっていたり、複数ベンダーの製品を使っていたりするケースもある。その場合、単一のMDMでは情報をうまく管理しきれず、情報漏えいを引き起こすリスクも存在するため、注意が必要だ。
これら校務関連ソフトウェアの中でも注目が集まっているのが生成AIだ。校務における生成AIの導入率を見ると、自治体ベースでの生成AI導入率は17%となっている。直近2年は数〜10%で推移してきたことから、生成AIの活用は着実に広がっているといえるだろう。「まだまだ生成AIの校務活用は試行段階ではありますが、使われている生成AIツールの中でも外資系ベンダーが存在感を強めています。生成AIツールを利用している216自治体(市区町村)の中ではグーグルが提供している『Google Gemini』が46%と最多で、OpenAIの『ChatGPT』が42%、マイクロソフトの『Microsoft Copilot』が34%と続きます。生成AI市場全体ではOpenAIが先行していましたが、校務活用に限ると端末や汎用クラウドを通じて利用が広がっているグーグルやマイクロソフトの生成AIのニーズが高いようです。その他の生成AIツールが9%ありますが、今回の調査では国内ベンダーの名前は挙がりませんでした。生成AIについては単純に一つのベンダーの製品を使うというよりは、用途に応じて使い分けをしていくようになるでしょう」と高橋氏は語った。
クラウド化やネットワークの統合、そして生成AIの活用に至るまで、次世代校務DXに関連する動きは今後さらに加速していきそうだ。