VISION
目のピント調節機能をテクノロジーが代替する
次世代型眼鏡の「オートフォーカスアイウェア」とは?
目で物を見る働きをする「視覚」。それを担う人の目は、水晶体がカメラのレンズのように厚み変えて屈折率を調節することで、遠くや近くの対象物にピントを合わせる。こうした水晶体の機能を、テクノロジーが代替し、見え方の機能拡張を図っているのがViXionだ。眼鏡型デバイスであるオートフォーカスアイウェアが広げる、これからの視覚の在り方を見ていこう。
水晶体の仕組みを代替する技術
ViXionは、眼鏡やコンタクトレンズをはじめとした光学機器・ガラスメーカーのHOYAから分社独立した企業だ。分社以前から暗所での見え方に困難がある人を対象とした暗所視支援眼鏡「MW10 HiKARI」の開発、提供を行っており、ViXionとして独立した現在も販売を継続している。
ViXion 代表取締役 CEO 南部誠一郎氏は「MW10 HiKARIは暗い場所で物が見えにくくなってしまう方に明るい視界を提供するハンズフリーのデバイスです。この製品を開発する過程で、特別支援学校の生徒などに製品のフィードバック評価をお願いしていました。その中で当社の開発責任者が、特別支援学校に赴いた際に、弱視の生徒が授業を受ける際に非常に苦労していることを知りました。それがオートフォーカスアイウェア開発のきっかけでした」と振り返る。
弱視とは、眼鏡やコンタクトレンズなどをしても対象物がよく見えない状態を指す。オートフォーカスアイウェアはそうしたユーザーの見え方も矯正できるデバイスだ。「本当に強い弱視の方だと本製品ではサポートできない場合もありますが、眼鏡ではサポートできない視力の方でも、オートフォーカスアイウェアであれば文字が見えるケースが少なくありません」と南部氏は語る。
そもそも「見える」とはどういう状態だろうか。人の眼球には水晶体があり、これが厚みを変えることで屈折率を調整し、対象物にピントを合わせる。オートフォーカスアイウェアで採用している「オートフォーカスレンズ」は、この水晶体の仕組みを再現している。
南部氏は「簡単に言うとこのオートフォーカスレンズ部分は、密閉された容器の中に液体が入った状態です。この液体が形状を変えることで厚みを変え、光学的な調整を行ってピントを合わせます。眼鏡でいうブリッジの部分にTOFセンサーが搭載されており、赤外線で対象物との距離を測ってピント調整をしています」と説明する。
これらのテクノロジーは、視力1.0程度の健康な視力の人間と同程度の見え方ができるように設計されているため、例えば300m先の対象物にピントを合わせるようなことはできないという。

2. 眼鏡フレームの下部には充電用のUSB-Type-Cポートがある。最大約15時間稼働するバッテリーを搭載しており、1日使用にも耐え得る。左右には視度調整レバーがあり、これでレンズの調整を行う。
3. アウターレンズは取り外し可能だ。乱視などの度が入ったレンズは一部の眼鏡店や家電量販店などでオーダーできるようにする予定だという。
老眼の進行を遅らせる効果も!?

南部誠一郎 氏
オートフォーカスアイウェアは「ViXion01」と「ViXion01S」をラインアップしている。ViXion01Sは2025年5月下旬の販売を予定しており、現在はViXionのオンライン通販サイトで先行予約を行っている(執筆時点)。ViXion01は2023年6月29日からKibidangoおよびGREEN FUNDINGでクラウドファンディングを実施し、支援者への製品発送を行ったほか、家電量販店などの店頭での販売も行っている。
「クラウドファンディングでご支援いただいたユーザーの分析を行ったところ、特に老眼の悩みを抱えるユーザーが多くいました。その中でも目立っていたのが、複合的な視力の悩みです。例えば近視の場合、遠くはぼやけますが近いところははっきり見えます。しかしそこに老眼が加わると、近くも遠くもぼやけてしまいます。見え方に合わせて眼鏡を複数種類作る必要があり、一本にまとめたい、といったニーズに合致しました」と南部氏は語る。
ViXion01は2023年6月29日からのクラウドファンディングスタートに併せて、二子玉川蔦屋家電1階の「蔦屋家電+」において実機展示も行った。「店頭では実際にViXion01の先行体験を行っていたのですが、弱視の子供が実際にViXion01をかけてみたら『眼鏡より見える!』と、保護者の方と一緒に喜んでもらえました」と南部氏は当時を振り返る。

今後発売予定のViXion01Sは、ViXion01と比べて約40%軽量化し、デザインを大きく刷新した。ViXion01は近未来的なサングラスのような形状をしていたが、ViXion01Sは通常の眼鏡のような形状だ。南部氏は「オートフォーカスレンズは近視と遠視には対応できますが、乱視には対応できません。そのため、ViXion01Sではオートフォーカスレンズにアウターレンズを重ねるような仕組みを採用し、アウターレンズを自分仕様にカスタマイズできるようにしました」と語る。乱視対応やブルーライトカットのレンズなど、ユーザーの希望に応じたアウターレンズを重ねることで、個々人の課題に対応できるようにしたのだ。
「オートフォーカスアイウェアのコアユーザーは50〜60代です。老眼などに対する視力サポートはもちろんですが、本製品はオートフォーカスレンズによって、ユーザー自身の目のピント調節機能を代替する効果もあります。これによって、眼精疲労や全身の倦怠感などを軽減できますし、老眼の進行を遅らせることも期待できるでしょう。歯科医師や漫画家、仏像を掘る彫刻師など、手元の物を注視する職業の方々にも使っていただいており、当社のエンジニアなども日常的に利用しています。今後PCユーザーにとっての必須アイテムになるとうれしいですね」と南部氏。
一方で課題もある。現在ViXion01Sで採用しているオートフォーカスレンズはレンズ経が小さく、ピントを合わせられる視界の範囲が狭い。「今後はレンズを大型化することで、より広い視野でピントを合わせられるようなレンズモジュールの開発に取り組んでいきます。眼鏡店で販売されているレンズと、オートフォーカスアイウェアが採用している可変レンズを組み合わせることによって、さらなる付加価値も生み出せるでしょう」と南部氏。オートフォーカスアイウェアは既存の眼鏡と共存していく形で、これからも人の視覚をサポートしていく。


発売予定のViXion01Sを一足先に試用させてもらった。まずピント合わせを行う。自分の目の位置に合わせてレンズを移動させ、離れた場所にある対象物を見ながらピント調整を行った。このキャリブレーションが完了すると、遠くを見ても近くを見ても、レンズが自動で調整してスムーズにピントが合うようになる。筆者は近視と乱視のため、ややぼやけは残ったものの、普段眼鏡をしない状態ではほぼ見えない状態の遠くを見てピントがスムーズに合う感覚には驚いた。一方、やはりレンズ経が小さいためピントを合わせられる範囲が狭いと感じた。南部氏は「近視に対応したアウターレンズを作り、レンズから外れた視界もカバーしつつ、目のピント調節機能をオートフォーカスレンズに代替してもらうような活用も可能です」と語る。視界の違和感なく使いつつ、眼精疲労を抑えて作業に取り組めるということだ。ViXion01Sのアウターレンズを組み合わせた活用も魅力的だが、やはり自動でピントが合うという感動をさらに自然に味わうためには、レンズ経の今後の進化にも期待したいところだ。