新しい普通科の “STEAM探究科”を新設
探究を軸にした学びで学校の魅力につなげる

篠山鳳鳴高校の探究ルーム。3Dスキャナーや3Dプリンターをはじめとした先端機器が整備されており、探究活動やものづくりが行える場所だ。

兵庫県立篠山鳳鳴高等学校(以下、篠山鳳鳴高校)は、来年で創立150周年を迎える歴史ある学校だ。その篠山鳳鳴高校は、2024年度から新しくSTEAM探究科をスタートした。これは同校がこれまで展開してきた普通科総合科学コースを改編し、3Dプリンターやドローンなどの先端技術を用いた探究活動を軸とした実践的な学びに取り組む学科だ。2022年度から設置が可能になった「新しい普通科」として、探究を軸にした学びに注力する同校の取り組みを見ていこう。

探究ルームにはFLASHFORGEの「Adventurer5M Pro」をはじめ複数台の3Dプリンターが整備されている。Adventurer5M Proは出力が早く、授業で扱いやすいと好評だ。
レーザー加工機「Beambox」も整備されており、ものづくりがしやすい環境だ。

デジタルの強さを学校の強みに

 文部科学省は、高等学校の普通科改革や教科等横断的な学習の推進による資質・能力の育成を実現するため、「新時代に対応した高等学校改革推進事業」において「普通科改革推進事業」を進めている。篠山鳳鳴高校もこの普通科改革推進事業の採択校であり、STEAM探究科の新設も本事業の取り組みによるものだ。

 特色のある普通科としてSTEAM探究科を新設した背景について、篠山鳳鳴高校の教育企画部長 STEAM探究科長 主幹教諭である細見祥平氏は「本校がある丹波篠山市は少子高齢化が進み、慢性的な定員割れが続いていました。交通手段も限られているため、周辺の丹波市や三田市からの生徒の進学も少ない状況でした」と振り返る。そこで同校が魅力として打ち出したのが、デジタルへの強さだ。もともと同校ではChromebookを整備した際に、30台の同時接続に耐え得るネットワーク回線を整備するなど、円滑なオンライン授業が行える環境の整備を進めていた。現在は1人1台の学習者用端末をiPadに切り替えて運用し、普通教室にはその環境と相性の良いApple TVが設置されている。また体育館にも4Kプロジェクターが設置されているなど、デジタル面での環境整備が充実している学校だ。

 また兵庫県は県全体で高大接続改革推進事業を行っており、篠山鳳鳴高校は本事業の指定も受けている。この高大接続推進事業において地域探究の学びに取り組んでいた篠山鳳鳴高校は、STEAM探究科においてこの探究の学びを社会探究として発展させると同時に、生徒が身近な課題として考える内容を科学的な視点やデータ分析などの視点から検証して課題解決を図る学びを実践している。

 STEAM探究科独自のカリキュラムとして同校は、STEAM探究(Ⅰ〜Ⅲ)、鳳鳴探究基礎、デジタルメディアの合計7単位を設置している。普通科の総合的な探究の時間は3単位であることを見ると、探究の時間が多いことが分かる。「STEAM探究は各学年で実施する探究活動です。リサーチクエスチョンを立ててデータを収集しながら分析したり、その結果をまとめたりします。デジタルメディアは2年生の授業で実施します。これはデジタル機器を使い、データサイエンスの学びをスムーズに取り組めるよう設定した科目です」と細見氏は語る。

STEAM探究科1年生の「鳳鳴探究基礎」の授業では、「石を探究する」をテーマに、武庫川の河原から採取した石について探究した。貸し出し用のChromebookで画像検索をしたり、磁石で石の性質を調べたりとさまざまな角度から石の正体を調査していた。

石の正体を探究する

 実際に取材したSTEAM探究科1年生の授業では、武庫川沿いの河原から採取した石をテーマに探究活動を行っており、生徒たちは自分たちが立てたリサーチクエスチョンに対して、資料やデータ収集を行い、石の正体を分析・考察していた。授業ではChromebookを用いて地質図を参照する姿や、磁石を用いてその石の性質を調べる姿が見られた。細見氏は「この石の採取場所は武庫川沿いにある油井という場所なのですが、その地名と石の黒さを結び付けて、石の性質を研究しようとする視点が見られました。また、割れた石から鉄のにおいがしたことで、石に含まれる鉄分が酸化して黒くなったのではないかという仮説を立て、それを磁石で確かめる姿もありました」と生徒の視点を評価する。授業は篠山鳳鳴高校の探究ルームで実施されたが、この石を3Dスキャナーでスキャンし、3Dプリンターで出力する取り組みも行われていた。この石は今後、ストーンアートに活用する予定があるが、探究活動の中でその形状が変わる可能性がある。そのため、3Dプリンターによる出力で石のレプリカを作ってストーンアートに活用することを目的としている。

 篠山鳳鳴高校はDXハイスクールにも指定されており、今回探究活動を行った探究ルームには前述の3Dスキャナー、3Dプリンターのほか、レーザーカッターやドローン、高性能デスクトップPCやノートPCなどが整備されている。また、この探究ルームのほかにPC教室も整備されており、アドビの「Adobe Creative Cloud」が円滑に使えるよう16GBメモリ搭載の高性能デスクトップPCが導入されているという。篠山鳳鳴高校では普通科でも映像制作の授業があり、それらの授業で活用されていく方針だ。

 篠山鳳鳴高校の教諭 横井真一氏は「DXハイスクールに指定されたことで、デジタル版のブリタニカ百科事典を導入するなど、探究活動で使える環境を充実させています。今後は調べるだけでなく、プロトタイプ的に何かを作るものづくりの力も養っていきたいですね。二学期から三学期では篠山鳳鳴高校の探究をテーマに、学校の困りごとの解決に取り組みます。その中でデジタル機器を使いながらものづくりを実践していけたらと考えています」と展望を語った。