愛媛県独自のCBTシステムが実現する個別最適な学びとICT指導力向上
愛媛県では、2021年度に県独自のCBTシステム「えひめICT学習支援システム」(Ehime ICT Learning System)を開発し、2022年1月から試験運用をスタートしている。2022年度に本格運用を開始した本システムは、現在ではCBTと連携した多様な機能を提供している。システム名の頭文字を取って「EILS」(エイリス)と呼ばれる本CBTシステムの進化と活用の効果を愛媛県教育委員会に聞いた。
CBTとPBTを一元管理する
愛媛県の学びの現場で積極的に活用されているEILS。その開発のきっかけを愛媛県教育委員会事務局 指導部 義務教育課 担当係長 渡部 匡氏は次のように語る。「2020年度、GIGAスクール構想によって児童生徒1人1台の学習者用端末と、高速なネットワーク環境が全国の小中学校に整備されました。これを機に、児童生徒の学習の成果と課題を早期に把握し、個別最適な学びを実現すること、教員の採点・集計業務の負担縮減を実現し、教員が一人ひとりの児童生徒に丁寧に関わる時間の創出につなげていくことを目指し、県独自のCBTシステムの開発を進めました」
CBTとはComputer Based Testingの略称であり、紙ではなくPCやタブレットなどのコンピューターを使って試験を行うシステムを指す。問題の提示から回答、採点、集計がオンラインで完結するため、教員にとっては採点業務や返却作業といった業務負担が縮減できるメリットがある。試験を受ける児童生徒にとっても試験結果が迅速に分かったり、より多角的な分析結果が得られたりするなど、メリットが大きい。文部科学省は、2027年度から全国学力・学習状況調査において全ての教科でCBT化を実施する方針を示しており、「文部科学省CBTシステム」(MEXCBT:メクビット)を活用したCBTによる試験実施が段階的に進められている。
MEXCBTや他社のCBTシステムも存在する中で、愛媛県はなぜ県独自のCBTシステムの開発を進めたのだろうか。その背景について渡部氏は「GIGAスクール構想における個別最適な学びや業務効率化を実現する上で、教員が日常的に活用できるCBTシステムの導入が効果的だと判断しました。テスト結果が瞬時に分かるため、学習の進捗状況を把握しやすく、主体的な学習につながります。また、教員にとっては採点業務の負担縮減を実現できます。また、提供される分析結果からさまざまな課題の把握もでき、授業改善につなげることも可能です。さらに、EILSには教員自身が作問できる機能があり、定期テストや小テストでも活用可能な点が最大のポイントです」と話す。
2024年度には、CBTだけでなく紙を利用した試験方式であるPBT(Paper Based Testing)を自動採点し、結果をEILS上で表示する機能も試験的に導入した。これは紙のテストをスキャンして、コンピューター上で採点、集計ができるようにしたものだ。この「EILS-PBT」による採点業務のデジタル化によって、1クラスの採点業務にかかる時間は半減し、教員の9割以上が採点業務の負担縮減を実感したという調査結果が出ている。

EILSが提供する多彩な学び
EILSで提供している機能はCBTだけではない。人気書籍ランキングや感想などの共有が行える読書記録アプリ「みきゃん通帳アプリ」、タイピングや計算の検定アプリなどが搭載されているほか、地域の話題を取り上げて作成した読み物教材「ⓔスタ学習帳」なども用意されている。「ⓔスタ学習帳は新聞記事を活用した地域の読み物教材を題材に、読解力問題を育成するための問題を提供するコンテンツです。もともと紙で提供されていたものをCBT化しました。ⓔスタ学習帳をはじめとしたドリル教材などはEILSの『コンテンツバンク』という機能に集約されており、宿題などに活用されています。2024年3月末に実施した調査では、EILSのテストや宿題・課題での活用率は小中学校で100%と高く、特にタイピング検定やみきゃん通帳などの機能が活発に活用されています」と渡部氏。
タイピング検定機能によって、愛媛県の小中学生のタイピングスピードは非常に速くなっているという。渡部氏は「社会人の場合、一般的に1分間に100〜200キー(文字数の場合50〜100文字)程度打てれば十分に実用的なスピードだと言われています。本県では小学5年生の段階で1分間に打てる文字数の平均が100を超えており、2025年11月に実施した調査では108.5文字という結果でした。この結果を見ても、本県の児童生徒のタイピングスピードは速いといえるでしょう」と語る。
個別最適な学びやICT指導力に寄与
EILSの活用は教員ばかりでなく、児童生徒の学びにも良い効果をもたらしている。EILS導入以降、全国学力・学習状況調査の児童生徒質問調査における「授業は、自分に合った教え方、教材、学習時間になっていた」という質問項目の肯定率が増加しており、EILSが個別最適な学びの実現に大きな効果をもたらしていることが分かるだろう。
愛媛県教育委員会ではEILSのさらなる活用を目指し、機能強化を予定している。例えば、読解力検定アプリやⓔスタ学習帳の完全自動採点への対応だ。また、児童生徒の英語力向上を目指し、読んだ英文の発音を自動で確認してくれる「スピーキングチェック」機能や、聞いた英文をタイピングして正確性をチェックする「リスニングチェック」機能などの搭載も予定している。生成AIを活用することで英会話練習ができる教材の開発も予定しており、日常的に英会話に親しむ環境を整備することで、児童生徒の英語力向上を図る。EILSはAWSを基盤に開発しており、開発会社のシンプルエデュケーションと連携しながら児童生徒の個別最適な学び実現に向けた機能強化を進めていく方針だ。
CBTシステムからスタートしたシステムでありながら、タイピングやみきゃん通帳アプリ、読解力、英語力を育成するアプリなどの実装により、児童生徒の学びをサポートする存在として、テストにとどまらない価値を提供し続けているEILS。文部科学省が調査する「令和6年度学校における教育の情報化の実態等に関する調査結果」においても、愛媛県は「教員のICT活用指導力の状況」が5項目中4項目においてトップを獲得しており、その背景の一つに、EILSの導入をはじめとしたICT環境の積極運用があるようだ。
愛媛県教育委員会では、EILSを使った作問の仕方やコンテンツバンクに掲載されている問題の活用方法などを紹介した「学力向上だより」を教員に向けて発行しており、こうした丁寧な情報発信によって日常的にEILSを活用する機運をさらに高めていくという。

