分野横断的なAIや数理を学ぶ
“創造デザイン工学科”とは

鹿児島県霧島市にキャンパスを持つ鹿児島工業高等専門学校は、1963年に設立された国立高等専門学校だ。地域社会や産業界と連携した実践的な技術者育成に取り組んでいる。同校では、2026年度入学生から現行の5学科体制を見直し、新たに「創造デザイン工学科」への改組を行う。ものづくりの技術に加え、AIやプログラミング、リベラルアーツやデザインなど、幅広い知識とスキルを学べる創造デザイン工学科を設置する狙いを聞いた。

より主体的に学べる環境へ

 高等専門学校(以下、高専)は、中学校を卒業した学生が入学し、5年間の一環教育を受ける高等教育機関だ。国立高専は全国に51校あり、社会が必要とする技術者を育成することを主な目的として、地域密着型の人材育成に取り組む高専が多い。

 鹿児島高等専門学校(以下、鹿児島高専)もそうした高専の一つだ。「未来の技術を創る人を育てる」を教育理念として掲げており、「機械工学科」「電気電子工学科」「電子制御工学科」「情報工学科」「都市環境デザイン工学科」の5学科で専門教育に取り組んでいる。鹿児島高専 校長 上田悦子氏は「本校では、5年ほど前から『Well-being志向教育』に取り組んでいます。前任の校長が、科学技術の発展が目指すところは、人の幸せの実現であり、それに貢献できる人材を育てることが重要だと考えたことが、本教育をスタートさせたきっかけです。このWell-being志向教育では学生一人ひとりが自ら考え、自ら学んだことを世の中にどう生かせるのかを、主体的に学ぶことを目指しています。本校ではこうした主体的な学びを『自ら考え』『自ら学ぶ』という二つの柱からなる『Positive Education』と表現しており、現在の校章にもこのメッセージを反映しています」とその学びの在り方を語る。

 2026年度入学生からは、新たに「創造デザイン工学科」への改組を実施する。これまでの5学科を創造デザイン工学科の1学科にまとめ、1学科3類5コースでの学びを展開する。これまでも実践されてきた主体的な学びをさらに発展させ、個別の学科で完結していた学びを、類や学年といった分野を横断させることで、より学生が主体的に学べる教育環境を構築する。

 創造デザイン学科は、専門分野によってⅠ類、Ⅱ類、Ⅲ類で構成される。鹿児島高専 教務主事 副校長 德永仁夫氏は「1年生の段階では、これら全ての分野が集まって混合クラスを編成し、その中で一般科目の共通教育や専門教育に取り組みます。具体的には、ものづくりの基礎となる製図やモデリング、マイコンやインターネットを使ったIoTの技術を学ぶ工学基礎実習や、AIを応用したものづくりの基礎を学ぶ創造デザイン工学Ⅰなどの授業を実施します。こうした授業で力を入れていくのが、分野横断的な学びです。PBL(プロジェクト型学習)やプログラミング、IoT機器を使いこなす学びを1年生のうちから実践することで、AI人材やDX人材として必要な素養を養っていきます」と語る。

現在の鹿児島高専は電子機器のハードウェア、ソフトウェア、ネットワークを実践的に学ぶ情報工学科をはじめ、五つの学科で技術者教育に取り組んでいる。

1人1台のマイコンで学ぶ

創造デザイン工学科では、学生一人ひとりがこのM5Stackというマイコンを持ち、マイコンの基本的な使い方や、IoT、インターネットといった技術を学ぶ。

 それでは、実際の授業ではどのような学びに取り組むのだろうか。鹿児島高専 グローバルアクティブラーニングセンター副センター長 電気電子工学科 准教授 今村成明氏は「一つ目に、AIや機械学習の導入教育に位置付けられる『創造デザイン工学基礎』があります。前期ではWord、Excel、PowerPointの使い方などの情報リテラシー教育を学び、後期ではAIや機械学習の導入教育を実施します。2年生や3年生ではこの授業で、AIや機械学習を活用したものづくりを実施する計画です。二つ目は『工学基礎実習』です。本実習ではマイコンを使います。来年度の入学生からは、1人1台のPCに加え、『M5Stack』というマイコンを教材として購入してもらい、マイコンの基本的な使い方、マイコンとインターネットを用いたIoT技術についてを学ぶ予定です。『情報技術基礎』ではPythonプログラミングを学びます」と語る。

 上田氏は「これまでは、進学した学科によってはプログラミングあまり好きではなかったり、マイコンというデバイス自体を知らなかったりする学生もいましたが、来年度の創造デザイン工学科では1人1台のマイコンを用いて、ものづくりの基礎を全員が学ぶ環境を整えます。2年生以降は五つのコースに分かれますが、例えば都市環境デザインコースに進んだ学生でも、マイコンプログラミングでモーターの動きなどを学び、自身が設計したものが動くという経験をすることは、将来的に設計する自身の建築物などにとってもプラスになるでしょう」とカリキュラムの狙いを話す。

 鹿児島高専は、文部科学省が実施する大学・高専機能強化支援事業「高度情報専門人材の確保に向けた機能強化支援」に採択されている。創造デザイン工学科への改組もこの事業と連動して進んでいる。鹿児島高専は本事業の基金を用い、AIや機械学習をはじめとしたICT教育や、PBLの拠点となる建物の建設も進めている。具体的には、機械学習を学ぶためのPCやサーバー整備、PBLに向くアクティブラーニングルームの整備などを行う。本施設は2026年10月ごろから稼働を開始する予定だ。

 上田氏は「生成AIを筆頭に、これから技術がどのように進化し、流行していくかは未知数です。現在情報人材や半導体人材が足りないと言われていますが、果たして10年後その状況が同じなのかは分かりません。時代が急速に変わる中、多様な状況に柔軟に対応できる学校の形、教育内容に変化させていく必要があります。時代をキャッチしながら、新しい教育を提供できる高専として、これからも変化を続けていきます。これから本校に進学してくる学生には、自分の力で人の役に立つことをしたい、わくわくする物を作りたいという気持ちで、5年間楽しんで学んでほしいですね。現在在籍している5学科の学生に対しても、DXやIT、AIといった時代の流れに即した教育を展開していきます」と語った。