医療分野でのAI活用は黎明期から普及期に

Medical×Artificial Intelligence

 矢野経済研究所は診断・診療支援AIシステム市場予測を発表した。同調査によると、診断・診療支援AIシステム市場は好成長が予測され、市場規模は2021年の25億円から、2022年には38億円に増加する見込みだ。

 好調な市場成長の背景には、医療分野でのAI活用が黎明期から普及期にシフトしていることがある。AI製品、サービスが画像診断の分野で活発に利用されているだけでなく、放射線画像分野を中心に30品目以上のAIを利用した医療機器が薬事承認・認証を取得したように、AI製品、サービスの認定が進んでいるのだ。さらに、AI製品・サービスを取りまとめる医療AIプラットフォームの構築や、国策として医療公的データベースの構築が進められているように、デジタル基盤の整備が進展している。

 また、制度もAIの普及を後押ししている。新型コロナウイルス対策として、AI製品の早期承認がなされただけでなく、性能向上などが見込まれるAIを活用したソフトウェア医療機器などに対して、改良計画を事前に承認する「医療機器の特性に応じた変更計画の事前確認制度」が2020年より導入された。加えて、2022年度の診療報酬改定によって、医療機器としての目的性を有するプログラム「プログラム医療機器」を使用した診療を算定する「プログラム医療機器等医学管理加算」が新設され、放射線診断における診療報酬の算定である「画像診断管理加算3」の施設要件としてAI活用が追加されている。

 これらの動きや、社会的なデジタル治療の機運の高まりも合わさり、医療分野でのAIやデジタル技術の活用は今後ますます加速すると矢野経済研究所はみている。

※事業者売り上げ高ベース。※2022年以降は予測値。
※AIなどを搭載した診断支援システム、AIなどを搭載した診療支援システムのソフトウェアを対象として、市場規模を算出した。

2027年はAIアプリケーションが多様化

 制度化やサービスの市場展開が進んでいるため、将来的な市場展望も明るい見通しだ。2027年の診断・診療支援AIシステム市場規模は165億円を予測している。

 市場規模拡大の背景としては、AIアプリケーションの多様化を挙げている。今後の診断・診療支援AIシステムは、医療機関の課題解決型としての利用や、各種診療・医療データを統合管理し、解析することで新たな知見を見いだすAIなどの開発が見込まれているのだ。AIアプリケーションの多様化によって、診断・診療支援AIシステムのターゲットとなる疾患や診療科が拡大、多様化すると予測されている。

 さらに生成AIにおいても、医用画像の生成、患者への医療情報の提供といった取り組みが進められ、新たなソリューションの開発が見込まれている。

 こうしたAIアプリケーションの多様化、および新たなソリューションの開発によって、AI搭載型の医療機器製品数が増加するとともに同市場は継続的に成長すると矢野経済研究所は予測している。

デスクレスSaaS市場は好調な成長を続ける

Deskless Software as a Service

 デロイト トーマツ ミック経済研究所はデスクレスSaaS市場の規模予測を発表した。同調査では、デスクレスSaaSを「フィールド、店舗などのノンデスクワーカーの生産性向上、業務効率化を推進するソリューション」と定義している。また、デスクレスSaaSを「ノーコードモバイル帳票作成」「ビジネスチャット(現場系)」「音声(映像)コミュニケーション」「動画マニュアル作成支援」の四つのツールに分類し、分析している。2022年度のデスクレスSaaS市場は、前年度比139.1%増の224億円と、大幅な拡大となった。

 市場拡大の背景には、Wi-Fi環境の整備とスマートフォンなどの定着によって、各種クラウド型ツールが急速に浸透したことがある。

 分野別に拡大要因をみると、「ノーコードモバイル帳票作成」では、多拠点展開や大型案件を筆頭とした横展開、全社案件の獲得により、市場が拡大。「ビジネスチャット(現場系)」では、現場の報告・連絡・相談の質やスピードの向上を図れるツールの有用性によって、市場が拡大した。また、「音声(映像)コミュニケーション」では、小売業や飲食業などの回復に伴い、リアルタイムの双方向コミュニケーションが可能な同ツールの需要が拡大。「動画マニュアル作成支援」では、人材不足を解消するために、迅速なスキル向上、作業の標準化を実現する同ツールの需要が増加したことで、市場の拡大につながっている。

 大型の資金調達の活発化や、認知度向上による大型案件なども見込まれることから、2023年度の同市場は、前年比143.3%の321億円、2027年度には年平均成長率37.8%の1,157億円と好調な成長を続けるとデロイト トーマツ ミック経済研究所はみている。

※2023年度以降は予測値。

ユーザー企業ごとの戦略が市場成長のカギ

Client Virtualization

 IDC Japanはクライアント仮想化関連市場の規模予測を発表した。同調査では国内クライアント仮想化市場を、シンクライアント市場、クライアント仮想化ソフトウェア市場、クライアント仮想化ソリューション市場を含むものとして分析している。2023年の国内クライアント仮想化関連市場の成長率は2.7%を予測した。

 GDPおよびIT投資がプラス成長したことにより、国内クライアント仮想化市場でも投資と需要の復調が見込まれている。加えて、DaaSとモバイル仮想化ソリューションを中心に、ハイブリッドワークでの情報漏えい対策として、クライアント仮想化ソリューション全般の需要が拡大するとIDC Japanは分析している。結果として、国内経済・ICT市場の回復と同時期の2027年以降に、コロナ禍以前の水準に回復する見込みだ。

 また同調査では、Optimistic(楽観シナリオ)とPessimistic(悲観シナリオ)のケースを分析している。Optimisticでは、2023年は3.5%のプラスに成長し、2026年にはコロナ禍以前の水準に回復。リモートワークの企業数が増加することから、市場全体の継続的な成長が見込まれる。一方、Pessimisticでは、経済の停滞により社会の在り方が大きく変容し、同市場全体もその影響を受ける予測だ。結果として、2024年までマイナス成長となり、プラス成長に転じるのは2025年以降になると分析している。

 今後の同市場の成長には、ユーザー企業ごとの戦略の構想が重要だ。ITリテラシーやエンドポイント環境の成熟度からユーザー企業の全体像を把握し、その企業に適したハイブリッドソリューションの創造が生産性向上、業務効率化につながると同社 Infrastructure & Devices シニアマーケットアナリスト 渋谷 寛氏は分析する。

※2022年は実績値。2023年以降は予測。