業種を問わず進む工場のデジタル化

Factory Digitization

 矢野経済研究所は2022年度の工場のデジタル化市場規模を調査した。2022年度の工場のデジタル化市場規模は前年度比101.7%増の1兆7,040億円を見込んでいる。

 市場成長の背景として、工場におけるIoT活用の広がりを挙げる。近年の大型の製造装置・生産機械などの高額な設備にはIoT機能が組み込まれている。IoT機能が組み込まれていることによって、工場の生産設備・機器の保全やライン稼働監視などでの次世代型のメンテナンスとして、IoT・クラウド・AIなどの活用が始まっているのだ。さらにメンテナンス面だけでなく、検品や品質保証、高度な自動化・生産最適化、現場作業者の業務支援・研修・トレーニングといった業務でもIoTが活用され始めている。

 2023年度の工場のデジタル化市場規模は前年度比103.4%増の1兆7,620億円に拡大する見通しだ。拡大の背景として、製造業の国内回帰と設備投資の増大を挙げる。国内の工場の新設や半導体生産能力の増強方針を打ち出した国策「日の丸半導体」、急激な円安や経済安全保障、中国で事業を展開するチャイナリスクに対応した結果、製造業は国内を中心に事業展開する見込みだ。また、国内の設備投資計画は日銀短観(2023年3月調査)によると強めとなっており、製造装置・生産機械向けが投資の主体となるものの、工場向けIT・IoT投資にも波及し、市場の拡大につながると矢野経済研究所は予測している。

CPSとデジタルツインに今後の注目集まる

 同調査では、工場のデジタル化で今後注目される技術であるCPS(Cyber-Physical System:現実世界で収集したデータをサイバー空間で解析し、解析したデータを現実世界で活用するシステム)や、デジタルツインについても調査している。近年IoTが普及し始め、製造ライン上に多くの計測機器やセンサー、工業用カメラが設置され、さまざまなデータがクラウド上に収集されている。データがクラウド上に蓄積されることで、CPSやデジタルツインの実現性が促進されると分析している。

 CPSやデジタルツインを活用することで、実世界のモニタリングや高精度なサイバー空間でのシミュレーションが実現する。その結果、通常のメンテナンスサービスとは異なるモノ・コト一体型サービスが提供可能になるのだ。

 またCPSが実現されれば、業務が効率化され開発時間が大幅に短縮されるだけでなく、製品の有用性を設計担当に還元することも低コストで可能になる。さらに、蓄積されたデータを源泉とし、競争力の向上につながる見込みだ。

 今後の製造業は、製品販売で収益を得るだけでなく、CPS・デジタルツインを活用したユーザー企業へのサービス提供にビジネスモデルを転換する製造業も増加すると矢野経済研究所はみている。

連結会計市場ではSaaSでの提供が今後拡大

Consolidated Accounting

 アイ・ティ・アールは、連結会計市場規模予測を発表した。同調査では、連結会計を「法制度に対応するための制度連結機能に加え、企業グループの連結決算業務の早期化や効率化を支援する管理会計機能として、関連会社からのデータ収集、連結精算処理などの機能を備えるもの」と定義し、分析している。2021年度の連結会計市場の売上金額は前年度比20.2%増の40億5,000万円と、急速な拡大となった。

 市場拡大の背景には、既存ユーザーである大企業でのシステム刷新や拡張案件が増加していることがある。さらにグループ企業数が中堅規模の企業でも新規導入や機能拡張が活性化していることも市場拡大の要因となっている。これらによって、2022年度の同市場は前年度比21.0%増と、引き続き高い成長を見込んでいる。この高成長は今後も継続し、2021〜2026年度にかけての年平均成長率は14.0%、2026年度には市場規模が78億円に達する予測だ。

 また、パッケージ市場、SaaS市場別の調査も実施した。SaaS市場の2021年度の売上金額は10億5,000万円と、規模は小さいながらも、前年度比2倍強の急速な拡大となった。SaaS市場拡大の背景として、クラウド移行の進展がある。その結果、2021〜2026年度にかけての年平均成長率は、パッケージ市場が4.4%減と縮小するのに対し、SaaS市場は38.8%増と高い成長率を予測している。

コラボレーティブワークスペース市場は好調に成長

Collaborative Workspace

 IDC Japanはコラボレーティブワークスペース市場規模予測を発表した。2022年度のコラボレーティブワークスペース市場は、2〜3年市場をけん引した業務のデジタル化に向けた新規需要が減少した一方、デジタルワークスペースの活用を前提とした業務効率化に向けた追加投資が多く見られた。結果として同市場の売上金額は前年比10.0%増の3,334億5,600万円と高い成長となった。2023年以降も好調な成長が予測され、2022〜2027年にかけての年平均成長率は6.4%、2027年度には市場規模が4,537億7,400万円に達するとみている。

 好調な成長を支える背景には、企業の緊密なシステム間の統合と、生産性向上の需要がある。単なる業務のデジタル化から、生産性向上・従業員の能力開発や連携によるビジネス機会創出などの課題解決に企業の要求が移っているのだ。こうした機運の高まりは同市場の成長を今後も支える予測だ。

 また、生成AIサービスも同市場に影響を及ぼす見込みだ。生成AIサービスの活用で、業務が効率化され、本質的な働き方の変革や従業員の配置転換につながるとみている。

 同社 Software & Services シニアマーケットアナリスト 太田早紀氏は同市場が今後の成長を続けるための取り組みについてこう語る。「ITサプライヤーは、生成AIの活用・ガバナンス策定支援、ハイブリッドワークの環境構築に向けたビジネスコンサルティング機能の強化に積極的に取り組むべきです。また、人的資本開示を契機とした従業員エクスペリエンス改善への取り組み支援による新たな事業機会の開拓を行い、継続的な国内企業におけるデジタルワークスペース活用を通じた生産性向上への取り組みを推進すべきです」