

AIを効果的に活用できる人材育成の勘所
AI活用のビジョンを明確化して共有し
学習の時間と費用、スキル活用の場を提供
少子高齢化が進み、人材不足が深刻化している日本で事業を維持、成長させるにはAIの活用が欠かせない。AIを活用することで人手による作業を自動化できたり、膨大な情報の整理や分析といった高度なスキルと長い時間を要する作業を、誰もが短時間に処理できるようになったりする。AI活用において処理をしてくれるのはAIであるが、AIへの指示やAIが出した成果を活用するのは人である。そのためAIの効果を引き出すには、相応のスキルを備えた人材が必要になる。ではAI活用に適した人材はどのように確保・育成すればいいのだろうか。「AI人材育成白書」を発行する日本リスキリングコンソーシアムに話を伺った。
AIを有効活用できる人材の育成に
個人と企業の両輪で取り組む
日本では労働人口の減少や、地方と都市部、大企業と中小企業のデジタル格差およびデジタル人材不足が大きな課題となっている。一方で働き方の変革も求められ、多様な働き方を選択できるインクルーシブな社会の構築と、それに対応した人材育成も求められている。
特に近年、ビジネスにおいてさまざまな可能性を秘めているAI技術が急激に進化する中で、日本は他国と比較してAI利活用が伸び悩んでいるという課題がある。そのボトルネックとなっているのがAI人材の育成だ。
AI人材の育成において企業の取り組みの実態や課題を示しているのが、日本リスキリングコンソーシアムが発行する「AI人材育成白書」だ。日本リスキリングコンソーシアムは官民が一体となり、地域や性別、年齢を問わず日本全国のあらゆる人のデジタルスキルを向上させ、ビジネスや組織にイノベーションをもたらす人材を育成することを目的に、2022年6月16日に発足した組織だ。政府が「デジタル田園都市国家構想」の実現を目指し、2026年度までに230万人のデジタル推進人材の育成目標を掲げるなどの、社会的なリスキリング需要の高まりが背景にある。
AI人材育成白書では「AI人材」を「技術者や開発スキルを有するスペシャリストではなく、生成AIを活用して業務で具体的な成果を上げることができる人材」と定義しており、そこには日本リスキリングコンソーシアムの会員約6,000名を対象に実施したAI学習に関する調査に基づき、その育成に関する現状と提言がまとめられている。
AI人材育成白書では「個人のAIニーズと企業の環境整備のギャップ」が読み取れる。所属する企業や組織からAI利用環境が提供されていないが、個人的にAIを利用している人が33%超と、企業が環境を提供して業務利用している人(約31%)を上回っており、個人のニーズに企業の環境整備が追いついていない傾向が見られる。これは中小企業で顕著だという。
またAIについて学習するきっかけについて「AI技術に興味があったから」や「業務の効率化が必要だと感じたから」が主な回答となっており、個人としてのキャリアアップよりも興味関心や業務課題解決への期待が大きい傾向が見られる。またAIスキルレベルが高い人ほど「業務効率化」をきっかけとする回答が多い。
AIのスキル習得における課題としては「適切なトレーニングや教材が見つからない」「必要な事前知識が不足している」「どんなことを学べばよいかわからない」など、学習を開始する際の「学び方」に関する課題が多い。また学習の継続では「学習に必要な時間を確保することが難しい」が最多となっている。
またAIスキル習得を継続するに当たり企業や組織からの支援が期待されている。期待される支援は学習に必要な「費用」と「時間」の提供と、「実務でAIスキルを活用する機会」といった「場」の提供だ。これらの調査結果からAI人材育成には個人と企業が両輪となって取り組むことが重要であると分かる。

「AI人材育成サイクル」の構築と
AI活用に求められるスキルセット
個人と企業が一体となってAI人材育成の加速とAI活用の促進に取り組み、継続的なビジネスの成長につなげるために、日本リスキリングコンソーシアムは「AI人材育成サイクル」の構築を提言している。AI人材育成サイクルとは「個人の意欲(モチベーション)」「企業・組織の環境整備(ハード面)」「企業・組織の成果につなげる仕組み(ソフト面)」の三つの要素で構成されており、これらの要素が連動することで以下の好循環が生まれるという。
① 個人が意欲的に学ぶ
↓
② 企業が学びを支援する
↓
③ 学んだスキルを実務で生かせる
↓
④ 成果が評価される
↓
① 個人が意欲的に学ぶ
↓
② 企業が学びを支援する
↓
③ 学んだスキルを実務で生かせる
↓
④ 成果が評価される
AI人材育成サイクルでは個人のAIへの興味が学習の出発点となり、個人のAIに対する興味関心の高さがAI活用を促進し、AI学習の意欲の源泉になると提言している。そして次のスキルセットを習得するべきだという。まず技術そのものだけでなくAIの基本概念や生成AIの活用方法、「AIが何を得意とし、何が苦手か」といった特性を正しく理解する「AIリテラシーと広範な理解」だ。次に自身の業務上の課題を発見して、その解決手段としてAIを活用し、具体的な成果(情報収集力向上、業務効率向上など)につなげる「実務応用力と課題解決能力」だ。
そしてビジネスの成長や業務改善、地域社会の課題解決といった目的を達成するための「手段」としてAIを捉え、市場や顧客のニーズを理解した上でAI活用を検討できる「ビジネス理解と問題発見力」、適切なプロンプトを作成することなど生成AIツールを効果的に使いこなす「ツール活用力」も求められる。
企業はAIを組み込んだツールやシステムを導入するなど、AIスキルを実務に結び付けられる環境を整え、必要な時間やリソース、適切な教材の提供、座学だけでなく実務経験を通じた学びの機会づくりといった学習支援をする。
さらに経営層がAIを導入する目的や意義といったビジョンを明確にして従業員と共有し、コミットメントを示すことも重要だ。これにより組織全体のAI活用の方向性が明確になり、従業員の理解とモチベーション向上につながる。

人とAIの効果的な協調関係を視野に
AIを使いこなすスキルの習得が必要
AIスキルの習得や活用に対する評価・認定制度や、キャリアアップにつながる明確なパスを提示することも学習意欲の向上や人材育成の促進に有効だ。実務でスキルを活用できる制度を整えることによって従業員の学習意欲がさらに高まり、AI人材育成サイクル全体が好循環を生み出すことが期待できるという。
なお日本リスキリングコンソーシアムでは生成AIやAI関連のプログラムを約400件提供しており、そのレベルは初級・中級・上級・経営者層向けと多岐にわたる。
AI人材育成を進める上で次の四つのポイントに留意すべきだとアドバイスする。まず繰り返しになるが「経営層の理解とビジョンの明確化」だ。経営層のAIスキル・知識の不足やAI活用に対するビジョンの不明瞭さが、AI活用推進のボトルネックになり得る。経営層がAI活用で期待できるチャンスと、それに伴うリスクを理解し、自社がAIを活用して何を目指すのか、具体的なビジョンを明確に示して組織全体で共有することが重要だ。

次に「リスキリングの推進と実行支援」だ。既存の従業員のリスキリングは急務だが学習時間や予算の確保、適切な教材や学び方の提供、そして学んだスキルを実務で活用する機会の提供を同時に整えなければならない。これも繰り返しになるが、個人の意欲だけに頼らず、企業は学習を支援する仕組みとスキル活用を促進する仕組みの両面からサポートを強化するなど、企業側からの積極的な働きかけをすべきだ。
「デジタル活用を目的化しないこと」も重要な視点だ。AIなどのデジタル技術の導入自体が目的となり、解決すべき本来の業務課題が見失われてしまうリスクがあるからだ。AIはあくまでも課題解決や価値創出の「手段」であることを忘れず、ビジネスや業務の目的達成につながる活用を常に意識する必要がある。
最後に「変化への対応と学習継続文化の醸成」も意識すべきだろう。AI技術は急速に進化しており、一度学べば終わりではない。従業員が学び続ける意欲を持ち、変化に対応していくための継続的な学習文化を組織として醸成することが求められる。
仕事に必要なスキルが変化し続ける中で、生成AIの進化・普及によりリスキリングは特定の層や職種だけでなく、全ての働く人にとって日常的かつ必須の活動となっている。企業はこれを個人の努力に委ねるのではなく、経営戦略として位置付け、組織的に推進することが求められている。
人間がAIに「取って代わられる」という視点ではなく、人間がAIを「使いこなして」より高い成果を出すためのスキルや、AIでは代替できないクリエイティブな思考力、問題解決力、人間関係構築力などを強化することに焦点が当てられると考えられる。人とAIの効果的な協調関係を築ける人材の育成が、今後より一層求められていくことだろう。

三つの軸で生成AIの活用を促進
社員の意識を変える取り組み
ビジネスにおいて、生成AIを取り入れる企業が徐々に増えてきた。業務改善や新たなビジネスの創出などの切り札として、期待されているものの、自社で取り入れるとなると導入に二の足を踏んでいる企業は少なくない。そうした中で、生成AIが普及する以前から業務や顧客に提供するサービスにAIを活用し、先進的な取り組みを進めているのが、ベネッセコーポレーションだ。そんな同社の取り組みから、生成AIの活用やAI人材の育成におけるヒントを探っていこう。
生成AIへの正しい知識を持ち
ビジネス価値の創出につなげる

國吉啓介 氏
企業が生成AIを導入するに当たって、重要となるのが、生成AIを活用する人材の知識やスキルだ。「生成AIというと『何でもできる魔法のツール』のように過剰な期待が先行してしまう部分があると感じています。生成AIの活用においては、生成AIの可能性を理解し、自社の業務に落とし込めるかが大切です。生成AIへの正しい知識を持ち、ビジネスに活用できるかを見極める目利き力を持つ人材をどれだけ増やせるかによって、ビジネスの在り方も変わってきます。社内で生成AIの活用が浸透すれば、そこから発展させて、最終的に生成AIを活用した自社サービスの展開といった新たなビジネス価値の創出にもつなげられるでしょう」と話すのは、ベネッセコーポレーション データソリューション部 部長 國吉啓介氏だ。
しかし、生成AIの導入にはさまざまな障壁も存在する。「社内で『こういうツールを使いたい』といった要望が上がった際に、セキュリティ面での懸念などから企業側が利用を禁止するケースがあります。また、積極的に使う人と使わない人に差が生まれたり、導入しても社内に浸透していかなかったりすることも課題として挙げられます。生成AIは導入したら終わりではなく、その先のビジネスにつなげていくことが重要です」と國吉氏は説明する。
ベネッセコーポレーションでは、こうした生成AIに関するさまざまな課題を乗り越え、ビジネスでの活用を促進させている。
道具としての導入からスタート
働き方の変革にもつなげる
では、実際どのようにして生成AIの導入を進めていったのだろうか。「当社では、『道具』を増やす、『働き方』を変える、『価値』をつくるという三つの軸で生成AIの活用を進めています」と國吉氏は説明する。
一つ目の軸として、道具を増やすために導入したのが、セキュアに社内で使えるAIチャットサービス「Benesse Chat」だ。2023年4月にグループ社員約1万5,000人に向けて展開を開始した。「自社データと組み合わせて社内情報検索の利便性を向上させる道具として、社内専用の相談AIを開発しました。議事録やアンケートなどの文章の要約、アイデアのブレインストーミング、サンプルプログラムコードの生成といった用途で利用できます。まずは社内で道具として活用してもらうことから始めて、社員の意識を変えていきました」(國吉氏)
二つ目の軸として、働き方を変えるために行ったのが、生成AIを活用してWebサイトの制作・運用を改革する「次世代型Webサイトプロジェクト」だ。同社のパートナー企業であるメンバーズ、ビービットと共同で実施した取り組みとなる。「次世代型Webサイトプロジェクトは、これまで人的な工数が多く発生していたWebサイト制作・運用における業務プロセスを、生成AI、ノーコードツールなどを用いて抜本的に変えていく取り組みです。『進研ゼミ 中学講座』のWebサイト制作において、制作期間を8週間から3週間に短縮し、人的リソースの7割削減を実現しました。生成AIの活用によって、人手不足や業務効率化などの課題を解決することで、社員の働き方の変革につなげられます」(國吉氏)
三つ目の軸として、価値をつくるために行っているのが、生成AIを活用した顧客向けサービスの展開だ。「子供の興味を基にアイデアやテーマを発見できる『自由研究お助けAI』、教科質問や学習法相談ができる『チャレンジ AI学習コーチ』などさまざまなサービスを展開しています。生成AIの活用の仕方を考え、実装面で工夫をするなど開発に力を入れて取り組んでいます。サービスの展開で実現できるのは、新たなビジネス価値の創出だけではありません。サービス開発を通して、社員の生成AIに関するスキルが向上するなど人材育成にもつながっています」(國吉氏)

社員のスキルレベルを把握して
個々の成長に必要なサポートを提供
ベネッセコーポレーションでは、社員一人ひとりのスキル支援にも力を入れている。「生成AIを活用する人材のスキル支援には、オンライン学習プラットフォームの活用や社内ワークショップの実施が効果的です。当社では、『Udemy』を利用したコース受講や専門家を招いたセミナーを通じて、基礎知識と実践的スキルの習得を図っています。また、プロジェクトベースの学習やケーススタディの分析を行うことで、実際のビジネスシーンでの応用力を高めています。最新のテクノロジートレンドを把握するための情報発信なども継続的に実施しています」と國吉氏は語る。
人材育成や人材管理の面でも課題を抱える企業は少なくない。ベネッセコーポレーションではどのような取り組みを行っているのだろうか。國吉氏は「人材の育成や人材管理には、明確な目標設定とニーズの把握が不可欠です。年間を通じて、メンバーと上司の間で課題やパフォーマンス(成果)を確認し、適宜、軌道修正をしながら目標達成への方向付けを行っていきます。そして、定期的なフィードバックを行うことで、社員のスキルアップを支援します。また、社員の現在のスキルレベルを把握し、個々の成長に必要なサポートを提供しています。多様なスタイルに応じた学習機会を設け、継続的な学びを促進することも重要です」と説明する。

最後に國吉氏は、企業での生成AI活用の促進に向けて、「まずは小さくても始めてみることが大切です」とアドバイスする。そして、五つの導入のポイントを挙げた。
一つ目が「体験機会を作ること」だ。自分自身が生成AIを使ってみることから始め、実際の利用体験を通じて、そのメリットや効果を体感しておく必要があるという。
二つ目が「誰の、何のためのものなのかの特定」だ。具体的にどのようなユーザーや顧客に対して価値を提供したいのかを明確にする必要がある。ターゲットを絞る上で、一つ目で行う自分自身の利用体験が役に立つだろう。
三つ目が「差別化の検討」だ。生成AIを利用するだけであれば、誰でも同様に行える。自社の持つ独自の情報やリソースなどを組み合わせることで、競合との差別化を図れる。
四つ目が、「プロセスの設計」だ。ユーザーや顧客からの入力(プロンプト)を受け取り、それに対する適切な応答を返すまでのプロセス設計を行う。その際に、顧客の行動を想像しながら、起こり得る問題を対処できるように、プロセスを組んでいくことが重要となる。
五つ目が、「入力と出力の調整」だ。生成AIの入力(プロンプト)と出力を調整し、顧客の期待値とのギャップが生じないように注意しながら、内容や形式を最適化する。
この五つのポイントを基に、検討を進めていけば、生成AI活用の第一歩を踏み出せるだろう。

生成AI活用を促進する教育や事例ポータルを整備し業務を効率化するハウツーを学びながら活用
2022年11月にChatGPTがリリースされ、生成AIという技術への注目が集まる中、いち早くその業務利用に踏み切ったのがNECだ。同社は2024年5月8日から、NECグループの従業員を対象に「NEC Generative AI Service」の提供をスタートした。複数のLLM(大規模言語モデル)が利用できるだけでなく、業務に使うに当たって懸念されるさまざまなリスクに配慮されたツールだ。現在グループの従業員約6万人が利用しているというNGSの概要と、社内で生成AIの活用を促進するために実施しているNECの取り組みを見ていこう。
利用実態も監査可能な
マルチLLMの社内生成AI

川戸勝史 氏
NECは2023年4月に「NECグループにおけるChatGPTの利用について」というプレスリリースを発表している。その中で同社は、社内業務や研究開発、ビジネスにおいて、ChatGPTを積極的に利用していくことを国内外に宣言している。同リリース内では機密性やデータ保護、情報セキュリティなどを考慮した上で利用を進めることに加え、NECグループ専用のChatGPT環境の整備を行うことなどが記載されている。
NEC 経営システム統括部 シニアプロフェッショナル 川戸勝史氏は「コンシューマー向けにリリースされたChatGPTが与えたインパクトは非常に大きなものであった一方で、入力された情報が学習されてしまうような情報流出の懸念がありました。そこで従業員が安全に生成AIを使うために、社内利用向けの生成AI『NEC Generative AI Service』(以下、NGS)の利用を、2024年のゴールデンウィーク明けとなる5月8日からスタートしました。NGSを整備するに当たって、生成AIを適切に利用できるルールの策定を行ったことに加えて、利用実態も監査可能な形でアーカイブしています。例えば生成AIを利用していたことで従業員が訴訟トラブルに巻き込まれた場合でも、その使い方を調べて裁判所に提出できる環境を整えています。生成AIを活用するに当たり、会社としてリスクを最小限に抑えるための仕組み作りを行っています」と語る。
NGSでは、マイクロソフトがOpenAIと提携して提供する「Azure OpenAI Service」を採用し、GPT-3.5をはじめGPT-4、GPT-4o、GPT-4.1など、次々リリースされるLLMへの対応を進めているほか、NECが独自に開発した「cotomi」や、Anthropicが提供する「Claude」、Googleが提供する「Gemini」など、複数のLLMを利用できる。これにより、特定ベンダーに偏ることのないLLM運用を実現している。主な活用用途はビジネス文書の作成や長文ドキュメントの要約、翻訳、開発業務におけるコード生成などだ。「当社のCEOや役員の過去の発言を学習させることで、経営視点のアドバイスをしてもらうような活用にも取り組んでいます」と川戸氏は語る。
全社的なオンライン教育から
成功事例の発信で生成AI活用を促進

こうした生成AIの活用を進める上では、ユーザー側でのスキル習得も欠かせない。「生成AIは決してブラックボックスではなく、入力した内容に対してそれらしいことを答えるというのが本質です。そのため、どのように指示をすれば望む回答が出てくるかを理解している従業員は使いこなしが早いですし、逆にそれを理解していなければうまく使いこなせないのが実情です。そのためまずは、年1回の頻度で全社員にオンライン教育を実施し、生成AIとは何かといったことや、活用に生じるリスクなどの基本を伝えています。その上で、NGSを使うユーザーに対してプロンプトの書き方などの学習コンテンツも用意し、従業員がいつでも参照できるようにしています。この学習コンテンツはマニュアルのようなものから、トピックごとの短い動画のようなものまで多様に用意しており、従業員が学びやすい環境を整えています」と川戸氏。
加えて、NECの社内で生成AIを活用した事例を蓄積していくための「事例活用ポータル」も用意している。生成AIを先進的に活用している従業員が、その成功事例を発信することで他の従業員の活用に生かしていくのだ。
川戸氏は「サーチエンジンで他社の生成AI活用事例を検索すれば、これらの事例も出てきますが、やはり社内で上手くいった活用方法、自身と似た業務をしている人たちの成功事例は非常に参考になります」と語り、今後はこれらのナレッジを生かして、生成AIの活用が進んでいない業務で役立てられるような仕組み作りに取り組んでいきたいと述べた。生成AIの活用コンテストなども開催しており、それらのイベントと連携しながらナレッジの蓄積を進めていく方針だ。

業務に生成AIをプラスして
作業効率を向上させる工夫も
このような事例を公開している従業員に傾向はあるのだろうか。「IT活用に先進的な従業員が多い傾向にありますが、それにとどまらない人たちも目立ってきています。具体的には、業務のことはよく知っているけれど、ITに関してはあまり詳しくないようなベテラン層です。生成AIの活用に対して、最初は右も左も分からなかった、という人たちが、自分たちがよく知っている業務をさらに効率化していくために生成AIが効果的に使えると知り、積極的に使うようになっているようです」と川戸氏は語る。業務知識が豊富な従業員が生成AIを活用することで、これまで抱えていた業務に対しての困りごとを解決していく流れができているのだ。
NSGには、活用状況の可視化が行えるダッシュボードが用意されている。ダッシュボードでは頻繁に使っている人や、逆に活用頻度の少ない人などを色分けして表示できるため、活用傾向が一目見て分かるようになる。このダッシュボードの画像をNSGに読み込ませて、利用者の傾向分析や特異点など、人の視点からでは気付けないトレンドの変化を生成AIに指摘してもらうような活用も行っているという。
川戸氏は「先月のマンスリーアクティブユーザーを見ると2万8,000人と、約半数近くが利用してくれていることが分かります。今年度は本格的な業務での活用を増やしていきたいと考えています。また昨今、AIエージェントというキーワードが登場していますが、当社でも数十の業務でこのAIエージェントを利用しており、今後この数をさらに増やしていく方針です。いわゆるChatGPTのようにプロンプトを人が入力するより、それが組みこまれた業務システム、業務プロセスで従業員が成果を出していく方向にシフトしており、本年度は従業員が意識しなくても生成AIのメリットを享受して業績を上げていくことを目指しています」と今後の展望を語った。