社員の行動が伴ったDXを目指すべき
生成AIを使いこなせる人材の育成が近道

2023年2月1日に津坂美樹氏が日本マイクロソフトの新しい社長に就任した。津坂氏は米ボストン コンサルティング グループ(BCG)で経営コンサルタントとして活躍。20年間のニューヨークオフィス勤務を経て、東京オフィスでCMO(最高マーケティング責任者)に就任し、2期6年にわたって経営会議メンバーを務めた。BCGでデジタルテクノロジーを駆使して顧客のビジネストランスフォーメーションを支援してきた津坂氏は、日本マイクロソフトでは顧客にどのようなトランスフォーメーションを支援していくのか。入社の経緯と日本マイクロソフトでのビジネスの展開について話を伺った。

テクノロジーを使いこなすため
ヒトのアップスキリングが必要

編集部■■30年以上にわたってボストン コンサルティング グループ(以下、BCG)で経営コンサルタントとして活躍されてきました。BCGでの仕事においてITとどのように関わってきたのかを教えてください。

津坂氏(以下、敬称略)■■BCGでは20年間のニューヨークオフィス勤務を経て、2008年より東京オフィスに在籍しました。ニューヨークオフィス勤務時は金融と消費財の業界を担当し、顧客のM&AおよびPMI(ポストマージャーインテグレーション)を数多く手掛けさせていただきました。

 その後、コンサルティング業界のビジネスモデルが業界軸からファンクション軸へと変わり、私はグローバルの責任者として全ての業界のマーケティングと営業に8年ほど携わりました。そして東京オフィス勤務となり、BCGのCMO(最高マーケティング責任者)と経営会議メンバーを2期6年務めました。

 こうした仕事の経験から、責任が大きくなるほどITの重要度が高くなることを実感しました。例えばマーケティングアクションを起こすにもデジタルテクノロジーの利用が不可欠ですし、その効果を検証する際もデジタルテクノロジーを活用しなければ実証できません。またPMIにおいても合併する企業双方のビジネスを効果的につなげるために、システムやデータの連携が必要です。こうしたことからBCGでの仕事は必ずITのパートナーと一緒に取り組みました。

編集部■■米国の企業はDXへの取り組みが進んでいる印象がありますが、日本の企業のDXへの取り組みをどのように評価していますか。

津坂■■例えば米国のグローバル企業ではDXへの投資に対して得られる成果は30%と言われています。一方の日本の企業は、コロナ禍以前は14%と言われていました。グローバル企業の半分未満の成果しか得られていなかったのです。コロナ禍を経て日本の企業や社会のデジタル化が進み、現在はようやくグローバル企業と同等の30%に追い付いています。しかし米国でも日本でも企業ではDX投資に対して30%しか成果が得られていないのです。

編集部■■30%しか成果が得られていない原因は何でしょうか。

津坂■■人材育成において「70:20:10の法則」(ロミンガーの法則)というものがありますが、これはDXの成果に影響を与える要素の比率にも当てはまります。まず「10(%)」はどのようなアルゴリズムで物事を動かすのか、目標を達成するための基本的な考え方や問題を解決するための手順の重要性です。「20(%)」はアルゴリズムをどのようなシステムに乗せるのか、デジタルインフラの重要性です。そして最も大きな要素である「70(%)」を占めるのはヒトとプロセスです。

 10と20の部分にどんなに投資をしても、ヒトの行動とプロセスが伴わなければ効果は得られないということです。先ほどの30%しか成果が得られていない原因は、まさしくこの「70」の部分、ヒトとプロセスにあるのです。どんなにピカピカと輝くテクノロジーを用いても、現場が使いこなせなければ効果が得られないのです。

編集部■■日本の企業や社会のDXを前進させるために、日本マイクロソフトでどのような活動をしたいとお考えですか。

津坂■■皆さんと一緒に取り組むことが本当に大事だと考えています。マイクロソフトには数多くの優秀な社員がいますが、当社だけでは成し遂げられません。カスタマー、パートナー、デベロッパー、そして当社の社員が一体となって取り組まなければより良い、より多くの成果を得ることはできません。

 先ほどの70:20:10の法則の通り、会社が新しい動き方ができるようにするためにはテクノロジーの活用だけではなく、ヒトのアップスキリングも必要です。テクノロジーをより上手く使えるようにヒトが学ばなければなりません。

 デジタル人材の育成において、生成AIの活用はとても有効な手段です。例えばChatGPTに普段使っている言葉でアプリケーションの作成をお願いすると、AIが必要なプログラミングのコードを教えてくれます。プログラマーでもない私が、1人でアプリケーションを作れるのです。

 全員がプログラミングを習得する必要はなく、生成AIのようなテクノロジーを使いこなせるアップスキリングをすればいいのです。

 ある調査によると、平均的な能力を持つコンサルタントと優秀なコンサルタントがChatGPTを利用した場合、平均的な能力を持つコンサルタントの能力が大幅に伸びたという結果が得られています。一方で優秀なコンサルタントの能力が伸びるかというと、必ずしもそうではありませんでした。ですからスキルアップできる人にこそ、ChatGPTのような生成AIを積極的に活用してもらうことが重要だと考えています。

日本マイクロソフト
代表取締役社長 津坂美樹

社内の引き出しの多さに惹かれ
社外の引き出しの広さに驚く

編集部■■経営コンサルタントからテクノロジーカンパニーである日本マイクロソフトに入社した経緯と理由を教えてください。

津坂■■これまでBCGで活動してきた中で、近年は仕事の内容の多くがデジタルテクノロジーを活用したビジネストランスフォーメーションに関するものでした。特に日本のお客さまを支援していて、デジタルテクノロジーをうまく活用できていないことに懸念を抱いていました。そうしたさなかに日本マイクロソフト社長就任の声を掛けていただいたのがきっかけです。

 かつてマイクロソフトのサティア・ナデラCEOにお会いした時に、彼がどのようにしてマイクロソフトのビジネスを変えてきたのか、そのために社内の文化や社員をどのように変えたのか、自身もどのように変わったのかといったテクノロジーだけではない、カルチャーやピープルについてのお話を伺って感銘を受けました。

 サティア・ナデラCEOは経営者やエンジニアとしてはもちろん、人間的にも素晴らしい方です。その彼のリーダーシップの下で作り直されたマイクロソフトの企業カルチャーに惹かれたこと、そしてお客さまのデジタル化を支援していく上でマイクロソフトが持つ引き出しが多いことが日本マイクロソフトへの入社の決め手でした。

編集部■■実際に日本マイクロソフトに入社されて、社内の印象はいかがでしたか。

津坂■■マイクロソフトは製品やサービスの多さ、世界屈指の時価総額など、世界をリードする企業の一つであり、そのすごさは外からも感じていましたが、実際に中に入ってみるとそれ以上のすごさを感じています。

 特に社内の引き出しの多さと、社外の引き出しの広さ、アイデアやプランを実行に移すスピードの機敏さを入社して目の当たりにしました。

 また本社のシニアリーダーシップチーム(SLT)が優れたバランスの上で経営を行っていることも入社して知りました。例えばSLTのメンバーのマイクロソフトの在籍期間は25年以上の人と10年以上の人、私のように最近入社した人が、ほぼ3分の1ずつで構成されています。

 SLTのメンバーだけではなく社員全体もほぼ同様の構成で、長年在籍している人がその経験を生かす風土がある一方で、最近入社した人が「なぜこういうやり方をしているのか」「なぜこういうことをしないのか」という新鮮な意見を言える環境があります。このようにあらゆる経歴を持った人たちで構成される組織が、一体となって常に進化していることに驚きました。

中小企業のクラウド利用を促進し
クラウド利用を5年間で10倍に

編集部■■日本マイクロソフトで取り組むビジネスの方向性や目標を教えてください。

津坂■■マイクロソフトは2023年1月に、全ての製品とソリューションにAIを組み込むことを宣言しました。そしてセキュリティ製品を含めたマイクロソフトの製品の全てにCopilotが組み込まれます。

 マイクロソフトはAIを活用することでお客さまの限界を超えるお手伝いができると考えています。AIの活用によってクリエイティビティを高めるだけではなく、より多くのことを達成できる、より多くのことを学べるなど、無限の可能性を追求できます。あらゆる人々や組織がAIを取り入れてビジネスや生活に活用していくことを、パートナーさまと連携しながら支援していきます。

 私は日本のクラウドとAIの領域において、ナンバーワンを目指します。ただし市場シェアが大きければいいというわけではありません。クラウドやAIの話題が出たときに、まずマイクロソフトに相談してもらえる存在になることが重要だと考えています。

 幸いにも生成AIの話を日本マイクロソフトに聞きたいという要望を多くいただいており、さまざまなお客さまと生成AIに関して議論したり、活用方法を検討したりしています。本社とアジアリージョンは日本市場での継続的な成長に向けて日本への投資を行っていく方針を決定していますので、これからも積極的に活動を進めていきます。

 お客さまのリソースで最も足りないものは、お金ではなく時間です。Copilotを活用すると生産性が上がり、ほかの何かをするための時間を生み出せるという素晴らしい成果はすでに得られています。その成果をもっと高めて、さらに時間を削減でき、より多くの余裕を生み出せる製品やソリューションを提供したいと考えています。

編集部■■日本市場におけるこれからのビジネス展開において、パートナーとの協業をどのように進めていきますか。

津坂■■日本の企業数の99.7%を中小企業が占めています。中小企業庁によると2020年時点で中小企業の付加価値額は日本の全付加価値額の約50%以上を占めているといいます。中堅中小企業がクラウドをもっと利用して最新のデジタルテクノロジーを活用することで、日本市場の活性化につながると確信しています。

 ダイワボウ情報システム(DIS)さまには日本マイクロソフトが立ち上げたプロジェクトの中心的な役割を担っていただいており、DISさまの全国のパートナーさまへの支援を通じて中小のお客さまのDXを推進していただいています。

 昨年から進めている今後のクラウド利用を5年間で10倍にするという目標は変わっていません。このプロジェクトをさらに拡大し、DISさまとDISさまのパートナーさまと一緒に、日本のDXを進展させられると期待しています。