奥州市に対する問い合わせを生成AIチャットボットが自動で回答

問い合わせ対応の手間を削減するために、AIチャットボットを設置する自治体が増えている。しかし、数多くのFAQから近しい内容の回答を引き出す形式のチャットボットだと、必ずしもユーザーが求める回答が返ってこない場合がある。また、より多くの質問に対応していくために、職員が定期的にFAQを追加する業務も発生してしまう。そこで今回は、正確な回答と職員の業務負担軽減を目指し、生成AIチャットボットを導入した岩手県奥州市を取材した。

岩手県奥州市

岩手県の内陸南部に位置する人口10万5,162人(2026年6月30日時点)の都市。ロサンゼルス・ドジャースで活躍する(2026年7月時点)大谷翔平選手の出身地として知られる。そのほか、歴史テーマパーク「歴史公園えさし藤原の郷」、日本最大級のロックフィルダム「胆沢ダム」、日本唯一の牛専門の博物館「牛の博物館」といった観光スポットを備える。

週次のデータ更新・追加が課題に

 生成AI活用の取り組みは、自治体にも広がっている。特に生成AIチャットボットはさまざまなシーンで導入が進んでおり、岩手県奥州市も導入を決めた自治体の一つだ。

 奥州市 総務部 行革デジタル戦略課 デジタル戦略係 主任 佐々木慶太氏は、同市が生成AIチャットボットの運用を開始した目的と背景を次のように語る。「住民の利便性向上と職員の負担軽減を目的に、運用を開始しました。背景には、当市が2023年1月から公式ホームページ上で運用していたAIチャットボットが関係しています。従来のAIチャットボットはユーザーの質問をAI技術で理解し、事前に作成したQ&Aデータベースから適切な回答を選択して提供するものでした。しかし運用していく中で課題が発生し、それを解決するために生成AIチャットボットの導入を決めました」

 では、AIチャットボットの運用に当たって発生した課題とは何だったのだろうか。佐々木氏はその課題をこう説明する。「AIチャットボットで使用していたQ&Aデータベースには、FAQを1,500件ほど用意していました。さらに週次で回答できなかった質問を確認し、担当者にデータの更新・追加を依頼していました。しかし、そのデータの更新・追加作業が滞っていました」

音声による質問・回答にも対応

 奥州市は2026年3月9日から、生成AIを活用したチャットボットを開設した。「生成AIチャットボットは、当市のホームページの情報を基に回答する形になっています。週次でホームページの情報をクローリングし、回答に反映を行っています。担当者が手動でFAQを追加する手間がなくなった上、AIとの会話を通して回答が行えるようになったのです」(佐々木氏)

 本生成AIチャットボットは、奥州市のホームページで使用可能だ。ホームページの画面右下には奥州市の公式マスコットキャラクター「おうしゅうたろう」のアイコンがあり、クリックするとチャットボットが立ち上がる。そこからAIとの会話を始められるのだ。回答できる内容は同市のホームページに掲載されているものになるため、人口や市の概要といった基本情報のほか、住民票や戸籍、税金などの手続きに関することも24時間尋ねられる。

 奥州市 総務部 行革デジタル戦略課 デジタル戦略係 係長 菊池知之氏は、生成AIチャットボットの特長を次のように話す。「もともとのAIチャットボットは、相手が出してきた質問に対して、正しそうな回答を引っ張ってきていました。一方生成AIチャットボットは、ユーザーの質問の意図を読み取り、関連しそうなデータをホームページから見つけ、そのデータを自然言語で回答します。そのため、AIチャットボットよりも正しい回答が返ってくる確率や、適切な言葉で回答される確率が上がっているのです」

 次いで佐々木氏は、利用者に向けた生成AIチャットボットの工夫をこう語る。「チャットボットを立ち上げた際に出る説明文は、『みんなの質問にミーが答えるビン!まだまだ勉強中だから、回答できないときもあるけど、みんなのためにがんばるビン!』と、おうしゅうたろうの口癖を踏まえたものにしています。またチャットボットの枠の色は濃い青にし、MLB球団『ロサンゼルス・ドジャース』のユニフォームに用いられるドジャーブルーを意識しました。このようにおうしゅうたろうや、当市の出身である大谷翔平選手にゆかりのある色に近しいものを使うことで、市民に親しみを持ってチャットボットを使ってもらえるようにしています」

 また、2026年6月からは新機能も追加された。「音声機能を追加しました。生成AIチャットボットの左下にあるマイクのアイコンをクリックすると、音声入力で質問が行えるようになります。回答も音声でしてくれます。テキスト・音声共に日本語を含め、タガログ語、韓国語、中国語など、8言語で対応ができるようになっています」(佐々木氏)

生成AIチャットボットの使用イメージ

コア業務への注力が可能に

 佐々木氏は、生成AIチャットボットに期待することをこう話す。「まずユーザーの立場で言うと、いつでもどこでも使えることによって、わざわざ市役所に電話をする手間が削減できます。職員の立場で言うと、そうした問い合わせの電話が減るため、コア業務へ注力していけることに期待しています。ほかにも、生成AIチャットボットの質問内容やカテゴリーはデータとして集積されるため、そのデータを政策に生かすことも可能だと思っています。例えばごみの捨て方に関する質問が多かった場合は、そもそも周知の方法に問題があると考え、改善を行えるのです。さらに、生成AIチャットボットに当市に対する意見やクレームが書かれる場合もあるため、クレーム対応時間の削減にもつなげられるのではないかと考えています」

 最後に菊池氏は、生成AIチャットボットを踏まえた奥州市の展望を次のように語った。「窓口の対応業務も、簡単なものは生成AIに任せられるのではないかと考えています。例えば観光案内所へ来た方に対し、生成AIを通して観光情報を伝えるといった活用が可能だと思っています。また、当市がデジタルトランスフォーメーション(DX)の取り組みを始めてから5年ほどたつこともあり、現在は次に何を行うかを考え始めています。そこで出ている話題が生成AIの活用であるため、今回の生成AIチャットボットを足がかりに、どの業務に生成AIが使えるかを検討していきたいですね」