Top Interview

産業界全体、政府自治体、教育機関、医療機関に向けて
テクノロジーを活用した日本の再活性化に貢献する

デジタル化に後れを取っていた日本だが、ようやく DX に着手し、取り組みの加速を目指す企業が増えてきた。またコロナ禍への対応を契機に官民ともにリモートワークを取り入れた「働き方改革」が一気に加速している。こうした環境を好機と捉え、日本マイクロソフトの代表取締役 社長 吉田仁志氏は「Revitalize Japan」(日本社会の再活性化)を最優先課題に掲げ、「Transform Japan, Transform Ourselves, Transform Together」を合言葉にテクノロジーを活用した日本の再活性化に貢献していくと意気込む。同社の具体的な取り組みについて吉田氏に話を伺った。

DX 推進で見落としがちなポイントと
DX の成功に必要な四つの要素

日本マイクロソフト
代表取締役 社長
吉田 仁志 氏

編集部■米国の大学を卒業後に海外のさまざまなテクノロジーのトップカンパニーで活躍されてきましたが、マイクロソフトの印象はいかがでしたか。

吉田氏(以下、敬称略)入社して痛感したのは自社のビジネスモデルを大きく変革していることです。マイクロソフトのミッションは「地球上のすべての個人とすべての組織が、より多くのことを達成できるようにする」です。これに基づき、お客さまの DX を支援していますが、まず自らのビジネスモデルを大きく変革しています。

 お客さまの DX を支援するというビジネスモデルへ転換するために、従来のソフトウェアのライセンス販売から製品戦略、プロセス、人材、全てを作り変えているところが素晴らしいところだと感じました。

編集部■社長に就任されてから「お客さまに寄り添うマイクロソフト」という言葉が使われるようになりました。「お客さまに寄り添うマイクロソフト」は吉田社長が打ち出されたメッセージだと伺っておりますが、そこにはどのような思いが込められ、日本マイクロソフトはどのような姿を目指していくのですか。

吉田■お客さまの成功を支援するには、向かい合って話をすることよりも肩と肩を並べて、寄り添いながら変革のお手伝いをすることが必要だと考えたからです。先ほどお伝えしたように、マイクロソフト自身が DX に取り組み、それがどれだけ難しいことかを身をもって体験しています。その過程で学んだことをお客さまに共有しながら、お客さまのお役に立ちたいと考えています。

 お客さまと同じ目線で、一緒になって成功に向けて進む姿勢を企業文化として根付かせたいという思い、「お客さまに寄り添う」という姿勢を目指しています。

編集部■"Revitalize Japan"(日本の再活性化)を最重要課題として表明していますが、日本の企業および各産業界において、 DX を成功させるために必要な要素は何ですか。

吉田■すでに数多くの企業が DX に着手していますが、重要なのはデジタル化やシステムの刷新だけではありません。 DX を進めるにあたり、見落としがちなポイントが三つあります。

 一つ目は「断捨離」です。人に託したり技術に託したりすることで、本当に必要なものに集中することです。二
つ目はイノベーションを起こしやすくする環境を整える、すなわち「儲かる仕組みづくり」です。そして三つ目が「すばやい決断」です。社会や市場の変化に後れを取ることなく素早く変革し続け、ビジネスモデルをいかに変え続けられるかが鍵になります。

 そして DX を成功させるには次の四つの要素が不可欠です。まず「ビジョンと戦略」です。組織が向かう方向を明確にして、それを実現するアプローチを定める必要があります。そして変革を前進させる「組織文化」作りと「独自性」です。他社との差別化ポイントや、自社の市場価値を見いだして、独自のポジションを築くことも必要になります。

 最後にこうした変革を実現するための「人材」が不可欠です。「スキルを習得する」だけではなく「デジタルを使いこなせる人材」を育成することこそが重要です。

 日本マイクロソフトは IT 人材不足の解決に向けて、2020 年よりデジタルスキルの習得支援施策である「グローバルスキルイニシアチブ ジャパン」を開始しました。企業や NPO、政府や自治体と連携して、 2022 年の末までに20万人の人材育成を目指しています。

中堅中小企業のクラウド利用を
今後 5 年間で 10 倍にまで伸ばす

編集部■ニューノーマルに向けた社会の構築に向けて行政のデジタル化、リモートとオンサイトが混在するハイブリッド環境、高度化するセキュリティ上の脅威への対応、デジタル人材の不足など、 DX 推進にあたっての課題が山積しています。日本マイクロソフトはこれらの課題の解決や目標の実現に向けて、政府、自治体、市場や顧客を含めた日本全体の DX を支援すると表明しています。具体的にどのような支援を行うのですか。

吉田■あらゆる分野で DX は必要ですが、当面の計画 は"Revitalize Japan"を実現するエンジンとなるデジタルインフラ、ハイブリッドワーク、セキュリティなど、マイクロソフトの DX の経験を生かしてお客さまの DX や働き方改革を支援し、その波を産業界全体のみならず、政府自治体や教育機関、医療機関にも広げることです。

 その際にOne customer at a time、つまり一人ひとりのお客さまに寄り添うことがとても重要であり、それぞれの分野に沿った支援を進めていきたいと思っています。 具体的には大企業向けにはそれぞれの産業における成功事例を構築することで業界全体の DX の推進・活性化につなげます。

編集部■中堅中小企業のクラウド利用を促進するにあたり、マイクロソフトクラウドの強みは何ですか。

吉田■まずお伝えしたいのは、マイクロソフトはIaaSからSaaSまで、お客さまのさまざまなニーズに応えられる包括的なビルディングブロックを持っていることです。世界 60 以上のリージョンに設置されたデータセンターを基盤とする"デジタルインフラ"としてのクラウドプラットフォームから、Microsoft TeamsやMicrosoft 365などのコラボレーションや生産性向上を支援するSaaSを提供しています。

 さらにオープンソースの開発者コミュニティのGitHubやローコード・ノーコードのPower Platformまで、レゴのブロックを組み合わせるように最適なサービスを活用して DX を進めることができます。

 これら全てのソリューションを支えるのがセキュリティです。マイクロソフトのクラウドは、データやデバイスなどを包括的に保護することができます。今後5年間でこの分野に対して 200 億ドルの追加投資を行い、お客さまの安全な環境を保つことにコミットしています。お客さまにはセキュリティは是非マイクロソフトにお任せいただきたいとお伝えしたいです。

 業種業態を超えた多様なパートナーエコシステムも強みの一つです。 Microsoft Teams をはじめとした Microsoft 365 と連携しているソリューションや Azure 上の各種業種向けソリューションなど、パートナーさまが持っているさまざまなソリューションと共にクラウドを提供したいと考えています。

クラウドシフトを加速させて
パートナーと顧客の DX を一緒に推進

編集部■年頭所感では"Transform Japan, Transform Ourselves, Transform Together"を合言葉に、日本マイクロソフトが全員一丸となり、テクノロジーを活用した日本の再活性化に貢献することを掲げ、三つの重点分野を表明しています。どのような分野に注力するのですか。

吉田■まず「業種ごとの DX 推進」は、先ほどもお伝えしたマイクロソフトクラウドの強みであるデジタルインフラ、ハイブリッドワーク、セキュリティなどを生かして、お客さまの DX や働き方改革を支援し、その波を産業界全体のみならず政府自治体や教育機関、医療機関にも広げて日本全体の変革を進めます。

「サステナビリティへの取り組み」では、このたび環境保全に関する取り組みの効果を定量的かつ可視化できるMicrosoft Cloud for Sustainability を提供し、お客さまが自らの目標を達成できるように支援を開始しました。

 日本でもすでにさまざまな業界でお客さまとの取り組みを始めており、この 1 年で大きな進捗を目指します。またマイクロソフト自身も 2030 年までにカーボンネガティブを達成するという自社の目標を掲げており、クラウドを提供するデータセンターを環境に配慮した設計にしています。

 「ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)」については、少子高齢化、長寿社会となっている日本では「人生 100年時代」へ向けてたくさんの人々が長く幸せに暮らし、キャリアを続けていけるようにする必要があります。あらゆる人々が人種、性別、年齢、国籍や職歴などにかかわらず、互いを尊重し共に豊かに生きることができる文化が欠かせません。こうした多様性の実現にあたって、さまざまな個性を尊重し、生かす文化の醸成を図り日本社会に活力をもたらす取り組みを進めていきます。

編集部■Revitalize Japan(日本社会の再活性化)の実現や国内の企業や社会の DX の推進に向けて、パートナーに期待する役割は何ですか。

吉田■Revitalize Japan(日本社会の再活性化)を実現するには、今後 5 年間で中堅中小企業のクラウド利用を10 倍にまで伸ばす必要があると考えています。それを実現するために日本マイクロソフトが立ち上げたプロジェクトの中心としてダイワボウ情報システム(DIS)さまに参画いただいており、全国の販売店さまへの支援を通じて中堅中小企業さまの DX を推進していただいています。

 これも DX の一環になると思いますが、昨年度の GIGA スクール関連ビジネスの推進にご尽力くださいました販売店の皆さま、ありがとうございました。さらなる DX 推進に向けて本格的にお客さまへクラウド提案を行い、お客さまのクラウドシフトを加速させようとしている販売店さま、その先にいらっしゃるお客さま、皆さまと一緒に DX を進めていきたいと思います。
編集部■ありがとうございました。

Microsoft Japan Co., Ltd.President and CEO
Microsoft Corporation Corporate Vice President
HITOSHI YOSHIDA

profile
吉田 仁志 氏
神奈川県出身。米国タフツ大学卒、伊藤忠グループ事業会社入社。スタンフォード大学大学院コンピュータ・サイエンス修士号取得。ハーバード大学ビジネススクールMBA取得。1997年ケンブリッジ・テクノロジー・パートナーズ 代表取締役社長。2006年SAS Institute Japan 代表取締役社長。2015年日本ヒューレット・パッカード 代表取締役社長執行役員。2019年10月より現職。