
兵庫県高砂市では、義務教育期間の「学び」と「育ち」の系統性や連続性を重視し、小中一貫の質の高い教育に取り組んでいる。高砂市立高砂中学校(以下、高砂中学校)と高砂市立高砂小学校(以下、高砂小学校)は、この小中一貫教育の下ICTを活用した授業や校務を推進しているほか、2026年度には文部科学省リーディングDXスクール事業の生成AIパイロット校のB区分(校務利用)に指定されており、生成AI活用にも積極的に取り組んでいる。すでに校務にとどまらない広がりを見せている生成AI活用の現在について、高砂中学校での公開授業の様子にフォーカスし紹介していこう。
Gemを活用した個別最適な学び
高砂中学校は、2024年度から兵庫県教育委員会の「教育データ活用研究事業推進」の指定校として、「Google Workspace for Education」の「Googleフォーム」を活用した「心の健康調査」を行っていたほか、「Google Classroom」を活用して各種配布物や教材の配信を行うなど、汎用的なソフトウェアとクラウド環境の活用に取り組んできた。またAIドリル教材の「Qubena」などを使い、学習者用端末を活用した学びに取り組むほか、保護者との連絡ツールに「スクリレ」、教員間の連絡ツールに「LINE WORKS」を導入するなど、多様なツールを活用した校務効率化を推進している。2025年度にはリーディングDXスクールの認定校として、個別最適な学びと協働的な学びの充実、校務DXなどの先進的な取り組みの事例の発信も行った。
そうした環境の中で、2026年度にはリーディングDXスクール事業における生成AIパイロット校に指定された。本事業の生成AIパイロット校は、児童生徒の学習活動において生成AIを活用する「A区分」、教員の校務効率化に生成AIを活用する「B区分」、AIを含む情報活用能力の育成に向けた教材実証を行う「C区分」の三つに分かれており、高砂中学校はこのうちB区分の校務利用に当たる。
高砂市では前述した通りGoogle Workspace for Educationを教育クラウドとして活用しているため、その教育向け生成AIである「Gemini for Education」(以下、Gemini)を校務でも活用している。前年度のリーディングDXスクール認定校時にも、一部校務での生成AI活用は進められており、今回の生成AIパイロット校での取り組みはそれをさらに発展させたものになる。
校務における生成AI活用に関して、高砂中学校の校長を務める橋本尚人氏は次のように語る。「学習指導案のたたき台や、学級通信の作成といった文書作成によく使われています。また学校行事でも活用しています。ある学年のクラスから『野外活動で行うキャンプファイヤーの出し物で演劇をやりたい!』という意見が出た際に、担任がGeminiに演劇に必要な登場人物や演劇のテーマを設定させました。そうすると生徒たちから『テーマ音楽を作ろう!』といった声が上がって新たに音楽を作るなど、話し合いが大いに盛り上がりました」
この演劇は、実際のキャンプファイヤーで上演され非常に好評だったという。学校行事の準備は教員にとって負担が大きいが、Geminiを活用することで生徒たちの意見を取り入れ、楽しみながら準備が行えた事例といえるだろう。
高砂中学校では、こうした校務から始まり、現在では授業での学習活動にも生成AIの活用が広がっている。公開授業で実施された1年2組の国語科書写の授業では、Geminiで特定用途向けの専用AIである「Gem」を作成し、学習に活用していた。具体的には、生徒自身が書いた「永」の字を撮影し、教員が作成した「書写作品評価Gem」に読み込ませると、作品の「よきところ」(良いところ)と「あしきところ」(改善すべきところ)というコメントで批評してくれるのだ。
教員1人ではクラス全員の作品に逐次フィードバックを行うことは困難だが、このようにGemを活用した評価を行える環境を整えれば、生徒は批評を受けて練習を重ねることができ、より良い書写作品を仕上げることが可能になる。Gemを活用することにより、個別最適な学びの実現につながる。

教員の介在が教育の質を上げる
こうしたGemを活用した授業は、3年2組の理科でも実施されていた。本授業では果物や野菜、調味料など身近な物を使って電池を作ることを目標としている。授業の中では電流を大きくするために、電池をどのように工夫すればいいのかをGemに相談し、班で共有しながら電池の作り直しを行っていた。Gemは答えではなく、ヒントのみを与えてくれるように設定されており、自分たちで考えながらより良い電池を作れるよう工夫を重ねていた。授業では教員が進行状況を見ながら、適宜アドバイスを行う様子も見られた。前述した書写活動でも必要に応じて教員によるサポートが介在したほか、最終的な書写作品は教員へ提出して評価が行われた。
公開授業後に行われた講演会に登壇した鹿児島市教育委員会 教育DX担当部長 文部科学省学校DX戦略アドバイザーの木田 博氏は講演の中で、教育で生成AIを活用する条件や、具体的な活用例を紹介すると共に、「ヒューマン・イン・ザ・ループ」という概念の重要性を指摘した。ヒューマン・イン・ザ・ループはAIの活用サイクルの中に、人を介在させることにより、精度の向上や倫理面の担保を行う設計思想だ。木田氏は前述した書写での生成AI活用を高く評価した上で「生成AIによる回答の最終的な判断・選択は人間が行うべきであり、AIに委ねてはなりません。書道でも正しい字形ではないかもしれませんが『味がある』字であることがあるでしょう。こうした字に対する評価はAIではなく、人間が行うべきです。そのため、授業で活用する場合は『この部分は生成AIではなく、人間が判断するべき』だというポイントをきちんと作っておく必要があります」と教育現場で生成AIを活用する上での心構えを語った。
本講演会のあいさつにおいて橋本氏は「本事業の真の目的は、単なる書類作成の自動化や業務効率化ではなく、生成AIの活用によって生まれた時間と心のゆとりを、生徒たちと直接向き合う時間や、分かりやすい授業のための教材研究・教材作成の時間へと質的に転換することにあります。高砂市が推進する小中一貫教育において、デジタル学習基盤を活用した授業を小学校から中学校まで9年間継続し、生成AIを中心としたデジタルとアナログの融合を強固なものにしていきます」と今後の方針を語った。
