kintoneとAI-OCRによる医療業界の業務短縮
症例登録からDXや早期治療を推進

5月29日、サイボウズがメディアセミナーの医療業界編を実施した。医療業界編では、サイボウズのkintoneを基盤として、北九州総合病院が日本メディカル情報サポートと連携して開発した医療データ登録ソリューション「MEDITAL」の経緯が紹介された。本稿では、この新たな医療データ登録ソリューションよって実現した業務効率化や、医療業界からIT業界に求められる将来展望について解説する。

骨折転倒の増加に懸念
患者の症例登録の障壁

北九州総合病院
副院長
整形外科医
福田文雄

 現在、日本社会では高齢者が増加しており、いわゆる「団塊世代」は今年75歳を迎えた。医療問題も深刻な課題を抱えている。団塊世代の人々が90歳になる2040年には「大腿骨近位部骨折」がピークに達すると言われ、現在の25万症例から30万症例になると予測される。具体的な症状を挙げると、縦と横の骨量が細くなり容易に折れやすくなる骨粗しょう症があるが、この患者は推定1,590万人。例えば、立っている状態から転んで手を突いた、足の付け根や太ももを打撲しただけでは骨折はしにくいが、骨粗しょう症の状態で骨が弱いと骨折に至ってしまう。こうした骨折は日本で3分に1件起こっており、3人のうちの1人は寝たきりになるという。この骨折転倒により、介護費用の負担も重くなる。仮に5年間介護を受けたとき、1人当たり1,540万円以上の介護費用がかかってしまうのだ。

 北九州総合病院 副院長 整形外科医である福田文雄氏は、大腿骨近位部骨折に関する実情をこう話す。「世界でも、大腿骨近位部骨折は問題になっています。世界標準では、手術のタイミングとして発症から48時間以内と指標を示しています。日本でも2021年に『大腿骨頸部/転子部骨折診療ガイドライン 2021(改訂第3版)』が発行されていますが、時間は『なるべく早期に手術を推奨』という文言になっています。実情として、入院してから手術するまでに3~4日程度待機する状態が続いているためです。そこで症例登録や手術までの待機時間を短縮すべく、日本脆弱性骨折ネットワークである『FFN-Japan』で大腿骨近位部骨折データを登録することで日本の医療の質を評価する取り組みを行っています。急性期の病院である当院では、入院時、手術時、退院時のデータのほか、30日後、120日後の経過観察や薬の投薬状況を登録するシステムを組みました。登録作業には項目上医師だけでなく、看護師、理学療法士などリハビリテーション職、薬剤師など、多職種でデータを登録しないといけません。症例登録は医師事務作業補助者の医師クラークが、FFNJや日本整形外科学会症例レジストリーである『JOANR』に登録してくれます。しかし、登録先が分散しているため現場は大変です。症例登録で活用する電子カルテは個人情報を扱うため、外部システムに接続してはいけない状態です。電子カルテ自体もWordテキストのようになっており、Excelのように構造化されていません。非常にデータが収集しにくい状態なのです」

分散するデータを集約
AI-OCRで入力を不要に

日本メディカル情報サポート
取締役 
鈴木孝充

 病院での登録作業は、手入力である場合が多い。そのため、さまざまな知識を要する症例登録の作業はベテランにはこなせるが、新人は遂行しきれないケースもあり得るという。「こうした負担による残業増加などを踏まえ、医療データ登録を省力化する『MEDITAL』を開発しました。レジストリーへの自動登録が可能になり、AI-OCRで症例登録をすることで、夜間残業の削減を実現しています。今までベテランがやっても30分程度かかっていた症例登録が5分程度で済み、ストレスが軽減されています。従来の症例登録では電子カルテを見ながら手入力でPCやタブレットに登録していたところを、AI-OCR機能を使うことで入力ミスも減っています」

 MEDITALでの作業工程としては、まず手書きで記入しているフォーマットをタブレットなどのカメラで撮影する。次に人間が書いた手書き文字をAIが解析してデータとして読み込ませる。実際に読み込んだデータが正しいかは人間が確認する。そこで間違いがなければ、本物の症例登録にデータを送るといった手順だ。カメラで撮ったデータはタブレットに一切残さないよう設計されている。「自動で読み込んだデータを人間が確認すればそのまま症例登録できるAI-OCR技術は、医療業界からすると革新的な機能です」と福田氏は語る。

kintoneで院内DB開発
医療DXは異業種交流で促進

AI-OCRによってkintoneへの登録作業を短縮するMEDITALのUI。

 日本メディカル情報サポート 取締役の鈴木氏からは、開発の経緯がこう紹介された。「今回の開発目標としては、当初から症例登録をいかに効率化するかということがありました。そのため、最初は一回データを入力すれば別のシステムにも自動登録できる院内DB(データベース)を作りました。しかし、医師クラークの方からは入力があるなら手間は変わらないという指摘があり、次に入力の簡素化に向けてAI-OCRの機能を搭載しました。電子カルテの画面を撮ったらAI-OCR機能によって必要な項目が院内DBに登録される仕組みです。しかしこちらは、電子カルテから必要な情報を見つける知識が要るため、医師の仕事は増やさずに、医師クラークの仕事を改善する仕組みが必要でした。そこで、FFNJの大腿骨近位部骨折関連の申請フォーマットを取り込むシステムにアップデートしたところ『これが便利です!』と承諾を受け、話がまとまりました。実際に医師クラークの方が触れる環境を作ってPoCとフィードバック行えたことがよかったなと思います。こうした触れる環境を作ることに関しては、kintoneはとても強いです。1週間程度の周期で開発とフィードバックを繰り返してスピーディーにプロトタイプを作り続けられたことで、スムーズに開発が進みました」

 福田氏は、医療DXの取り組みへの助言や今後の将来展望についてこう締め括る。「医療業界では、さまざまな困りごとが存在します。こうした異業種間での連携において、一番大事なポイントは実際に現場を見てもらうことです。今回の開発では、現場の医師クラークとのヒアリングを通して問題を確認し合い、オンラインを繰り返しながら開発と検証をしながら1年10カ月程度かけてMEDITALの開発に至っています。医療DXの取り組みを立つためには、困りごとの収集、業務の言語化、それを時間や予算に換算する定量化、スモールスタートでのPoC、パートナー企業との連携が重要です。パートナー企業探しに当たっては異業種交流が欠かせません。日々の業務に追われる医療従事者が、適切なITベンダーを見つけることは困難です。そのためIT業界の方が医療関連の学会に来て、医療の実態や問題点の洗い出しなどの議論に参加し、両業界での連携を促進することが現場の問題解決につながると考えています。将来展望としては、MEDITALを全国展開していきます。今年は100カ所の病院への導入を検討しています。また、ほかの診療科に展開していく目標もあります。最終的に電子カルテを提供しているベンダーと業務提携してデータを自動収集し、患者のデータが管理しやすくなる世界が作ることが、私の今後の医療DXの夢です」

 このように少子高齢化の中でさまざまな課題を抱える医療業界に対しては、IT業界の技術をうまく連携していくことが求められる。こうした異業種交流が、社会課題を解決する一歩となるだろう。