「Starlink Business」は、大規模な低軌道衛星コンステレーション(衛星群)によって提供される次世代の衛星通信サービスだ。「インマルサット」や「イリジウム」といった従来の衛星通信と比べ、高速かつ低遅延の通信性能を実現しており、衛星通信を“非常用・限定用途”から“日常業務で活用できる基幹インフラ”へと進化させる。これにより、これまで拠点化が難しかった場所でも新たな業務拠点の開設が可能となり、現場のデジタルトランスフォーメーション(DX)推進と業務の高度化を実現する。
ビジネスモデルや働き方を革新
「Starlink Business」で利用する「Starlink」は、米SpaceXが提供する衛星インターネットサービスだ。最大の特長は、地球低軌道を周回する多数の衛星を活用することで、空が開けていれば海上や山間部でも高速かつ低遅延のインターネット接続が可能な点にある。地上にケーブルを敷設する必要がないため、光回線が未整備の山間部や離島などの地域でも通信環境を確保できる。また、従来の衛星よりも低い高度(約550km)を飛行するため、データ通信の遅延が少なく、動画視聴やWeb会議もスムーズに利用可能だ。利用方法も簡便で、専用のアンテナとルーターの電源を入れるだけで自動的に衛星と接続される。
さらにKDDIは、24時間365日のサポート、カスタマーコンソールWeb、保守体制、閉域網接続、関連商材との組み合わせといった付加価値を提供している。これにより、従来は通信環境の制約から拠点設置が困難だった場所でも業務展開が可能となり、現場のDXを大きく前進する。
また海事業界では、通信環境の改善が福利厚生の充実につながることから、従業員確保という社会課題への対応策としても注目されている。こうした観点からも、Starlinkの導入はビジネス機会を広げる要因になる。
BCPからテレワークまで幅広い用途に対応
Starlink Businessは、災害時の通信確保やBCP(事業継続計画)の高度化にも有効だ。拠点規模にもよるが、KDDIでは地震による回線断を想定し、地上回線とStarlinkを組み合わせた冗長構成を推奨している。
実際に同社の高輪本社では、固定回線の冗長化に加え、複数台のStarlink Businessや衛星電話機能を備えた「インマルサットBGAN」を併用しているという。また「Local KDDI WVSプラン」では、閉域網とStarlinkを直結することでインターネットを介さないセキュアな通信環境を構築でき、DDoS攻撃などのリスク低減が可能になる。
こうした用途はBCP対策にとどまらない。建設業や一次産業、海運業など通信環境の制約が大きかった分野では、デジタル化やリモートワークの導入が進みにくいという課題があった。これに対し、Starlink Businessは新たなワークスタイルを実現する手段となる。従来は、山間部での通信のために長距離移動が必要であったり、海上では長期航海中に情報から孤立したりする状況があった。しかしStarlinkによって高速通信が可能になり、オフィスと同等の環境を“通信不感地帯”に持ち込めるようになるのだ。これにより、現場での報告業務をその場で完結できるなど、業務効率が大きく向上する。さらに家族との連絡や日常的な情報アクセスも可能となり、働きやすさや人材定着にも寄与しているという。
加えて、下り最大475Mbpsの高速通信により、クラウドアプリの利用やZoom、Teamsを用いた高画質な遠隔支援も現場で実現できる。従来は現場と本社で分断されていた業務がリアルタイムに統合され、クラウド上で一体的に処理されることで、迅速な意思決定と次のアクションにつながる。
新たなビジネスチャンスの創出
SIerやITベンダーにとっても、Starlink Businessは新たなビジネス機会を創出する。例えば、監視カメラ映像のリアルタイムAI解析やIoTセンサーによるデータ収集など、自社のシステムに組み込むことで付加価値の高いサービス展開が可能になる。
KDDIは、これまで接続できなかった現場のデータが活用可能となることで、IoTやAIを軸としたDX市場が大きく拡大すると見込んでいる。さらに、Starlinkを通信基盤としてクラウドやセキュリティソリューションを連携させることで、パートナー企業による高度な統合サービスを支援するプラットフォームとしての役割も担うという。
サービスプランは、利用形態に応じて3種類が用意されている。「Localプラン」は、国内の任意の場所に、Starlink Businessを利用するために必要な専用の端末設備「Starlinkキット」を設置して利用する。「有線回線が引きにくい場所ですぐに使いたい」「山間部や離島などの現場でもシームレスにつながりたい」「Web会議ツールと併用して活用したい」といったニーズに対応するプランだ。「Globalプラン」は、海上や海外を含む任意の場所にStarlinkキットを設置して利用する。「Globalシェアリングプラン」は、海上や海外を含む任意の同一拠点内で一つの衛星通信回線を2台のStarlinkキットにひも付けてサービスを利用するプランだ。
またStarlinkキットは、建物や施設に固定して利用するタイプのほかに、ノートPCサイズで持ち運びが可能な可搬型の端末も用意している。拠点の基幹インフラとして安定した大容量通信を支える固定型と、場所を問わず機動的にオフィス環境を持ち出せる可搬型を、用途に合わせて最適に使い分けられるのだ。例えば、現場事務所や避難所には高性能な固定型を設置して、多人数での同時接続やクラウド連携による業務継続を盤石にする一方、移動の多い最前線の作業現場では可搬型を用いることで、通信環境が脆弱な現場において即座に報告業務を完結できるだろう。
導入事例としては、日本取引所グループのBCP対策や大林組の建設現場での活用が挙げられる。特に大林組の事例では、大規模な工事を伴わず短期間で通信環境を構築できる点が評価されている。山間地でもクラウドや業務アプリを快適に使えるようになり、建設DXとワークスタイル変革を実現している。
宇宙空間を活用したブロードバンド通信が一般化する中、KDDIは中期経営戦略「Power-to-Connect 2028」で掲げるデジタルベルト構想を通じ、日本全体をカバーする低遅延ネットワークとAI基盤の構築を目指している。Starlink Businessは、その中核を担う通信インフラの一つとして、今後さらなる活用の拡大が期待される。

