段階的な情報集約が
建設業の業務効率化を推進

5月27日、サイボウズは建設業界をテーマとしたメディアセミナーを開催した。本記事では、同社が実施した「建設業界における業務効率化の実態調査(2026年)」の調査結果や最新の建設業における業務効率化事情の解説に加え、経済産業省の「DXセレクション2025」でグランプリに選ばれた後藤組によるDX事例についても紹介する。

建設業界の実態調査によると
約6割が事務作業の量が変わっていないと回答

 セミナーではまず、サイボウズが実施した「建設業界における業務効率化の実態調査(2026年)」の調査結果が紹介された。本調査は、2026年3月にインターネット上で建設業の従事者1,000名を対象に行われたもので、「建設業の業務効率化を阻む原因の一つには『情報の散在』も含まれているのではないか?」という仮説を確かめるために行われた。

 調査結果のポイントは三つ挙げられる。一つ目が、2024年4月に時間外労働の上限規制が開始される前と比べて、事務作業の量が「特に変化はない」と答えた建設従事者が60.3%に上ったことだ。「減った」「どちらかと言うと減った」と答えた建設従事者は合計で26.1%にとどまっており、現場の事務負担の削減は依然として伸び悩んでいる実態が示唆される。

建設従事者の大多数は事務作業にかかる負担に変化がないと回答しており、時間外労働の上限規制が導入されている中で、看過できない状況にあるといえる。
属人化や人手不足といった人員に関する事柄が、現場の事務負担が削減されない根本的な原因として挙げられている。

 その背景として、事務作業で非効率が発生する原因について最も根本的な要因を調査したところ、建設業従事者の20.6%が「担当者が少なく、一人に業務が集中している(属人化)」、17.3%が「慢性的な人員不足」を原因として挙げている。

 二つ目が、63.7%の建設事業者が「情報迷子」の経験があると回答したことだ。情報迷子とは、必要な情報を誰が持っているか分からない、またはどこにあるか分からない状態を指す。建設業界では、仕事に必要な情報が一元化されていない企業が依然として多いことが見て取れる。

「よくある」と回答した建設事業者が12.2%、「たまにある」と回答した建設事業者が51.5%と、半数以上が仕事に必要な情報が一元化されていない現状に課題を持っている様子がうかがえる。

 三つ目が、63.6%の建設従事者が「情報が1カ所に集約されれば手戻りの削減につながる」と回答したことだ。多くの建設従事者が、情報の散在や確認のしづらさが手戻りの一因になっていると認識していることが見て取れる。

 それでは具体的にどのように情報を集約し、現場を変えていけばいいのか。サイボウズと後藤組の取り組みをそれぞれ見ていこう。

集約された情報プラットフォームの作成は
段階的に構築していく必要がある

サイボウズ
営業本部
ソリューション営業部・部長
事業戦略本部
産業まるごとDXチーム
雲岡純司

 サイボウズ 営業本部 ソリューション営業部・部長 事業戦略本部 産業まるごとDXチーム 雲岡純司氏は、建設業の現場から同社に寄せられる相談の傾向についてこう語る。

「大きく三つのカテゴリーに分けられます。一つ目が、現状利用中のツールに関する相談です。利用中のツールが業務に合っておらず、無理に使っていたり、高機能である一方で価格が高かったりするといった相談があります。二つ目が、情報を一つにまとめたいという相談です。各現場の現状把握に時間がかかっていることや、社員の行先の共有ができていないこと、さらに協力会社とのやりとりが円滑に進んでいないことが挙げられます。三つ目が、やりたいことが『kintone』でできるのかどうかです。そもそもkintoneで何ができるかをはじめとして、勤怠管理を紙から移行したい、ワークフローを電子化したいといった問い合わせが増えています」

 続けて、雲岡氏はこの相談内容の背景にあるものを次のように話す。「利用中のツールに関する相談が寄せられていることから、建設業の各企業さまはツールをすでに導入し、活用していることが分かります。建設業の各企業さまのITリテラシーは、ベンダーが思っているよりも低くはないのです。また、情報を一つにまとめたいという相談の背景には、工事写真の整理や図面・見積もりの作成など、目の前の業務ごとにツールを導入してきた状況があります。その結果、個別業務は最適化された一方で、社内にデータが散在する状態となっています。こうした状況が、先ほどの調査結果にもあった、事務負担が減少していないという現状につながっていると考えられます。さらに、導入したツールでカバーできない業務はExcelなどの汎用ツールで補完しているため、情報が部門を横断して連携されにくいという課題もあります。建設業の企業さまは、デジタイゼーション(電子化)は進んでいる一方で、デジタライゼーション(業務フローやプロセス全体のデジタル化)には至っていないと言えるでしょう。こうしたことから、今後は情報を統合し、連携できるクラウドサービスやSaaSを選択する視点が重要になると考えられます」

中小企業庁「IT導入補助金2025の概要」を見ると、建設業は約1万613件と全業種の中で最多の採択件数を誇り、補助金を積極的に活用してツール導入を進めていることがうかがえる。

 こうした現状に対してサイボウズは、二つの観点から提案をしている。一つ目は、CADなどの専門ツールは残しつつ、データ連携によって情報を1カ所にまとめるという考え方だ。二つ目は、総務や人事など一般的な企業にもあるホリゾンタルな業務については、Excelの活用や単機能のSaaSを多数導入するのではなく、kintoneのような情報集約プラットフォームを活用するというアプローチだ。「まずは情報集約プラットフォームに、ホリゾンタルな業務情報を集約します。その後、専門業務のツールで扱うデータを連携し、参照できる環境を整えます。続いて、建設業は1社で完結せず協力会社も多いため、協力会社にデータを入力してもらう、もしくは共有します。そうすることで、全社で必要なデータが1カ所にまとまった状態を、段階的に構築していくことが重要です」(雲岡氏)

 情報を1カ所に集約することで、情報の共有や探索が行いやすくなるのに加え、AI活用にもつなげられる。その一方で、情報を集約する際の落とし穴について雲岡氏はこう話す。「情報を集約するためには、誰かがその情報をインプットする必要があります。しかし、『システムを作ったので入力してください』と社員に依頼するだけでは、現場の入力負担が大きく、結果として運用が定着せず失敗に終わるケースが少なくありません。こうした落とし穴を避けるためには、使い慣れたツールでのデータ入力や、当社がリリース予定の電卓・スライダー・QRコード・音声入力などのインターフェースを備えたノンデスクワーカー向けアプリ『kintone Touch』の活用、IoTセンサーによる自動入力、AIを用いた紙や音声のデータ化、CADをはじめとした専門ツールとのAPI連携などにより、人が手で入力する工程を最小限に抑える必要があります」

業務の効率化と若手の戦力化を目指した
後藤組のDX事例

後藤組
DX事業部
部長
笹原尚貴

 続いて登壇した後藤組 DX事業部 部長 笹原尚貴氏は、同社がkintoneを活用してデジタルトランスフォーメーション(DX)を進めた背景についてこう語る。

「DXを進めた理由は二つあります。一つ目は、少子高齢化に伴う人手不足です。ベテランの技術者が高齢化していく中で、若手をいかに戦力化していくかが重要なポイントです。そのためには、ベテランがこれまで暗黙知で行っていた業務を形式知化する必要があり、その実現にはデータ活用が欠かせませんでした。二つ目は、AIの時代を見据えたことです。当社の社長が、これからはAIの時代になるため、今まで取得できていなかったアナログデータを収集する必要があるという問題意識を持っていました。こうした理由からDXを進めようとしましたが、当社は紙やファクス、電話といったアナログなデータが中心でした。そこで、kintoneを導入して、まずはアナログ業務のデジタル化とデータ蓄積に取り組みました。さらに、社長自らが音頭を取り、手当を支給するなどして、社員全員にkintoneのアプリ作成を促しました」

 それでは、実際に後藤組の事例を見ていこう。kintoneを活用した業務効率化の事例として、三つが挙げられた。一つ目が勤怠管理だ。従来の勤怠管理は、自己申告に近い形で月末にまとめて入力する運用であり、残業時間の正確な把握などができていなかった。そこで、kintone上で有給や残業の申請を行い、打刻データを集約する仕組みを構築した。しかし、現場社員がタブレットを頻繁に操作するのは困難であった。そこでkintoneのAPIを活用し、自社開発の顔認証サービスと連携することで、現場の負担を抑えた打刻を実現している。

自社開発の顔認証サービスとkintoneを組み合わせた勤怠管理システムは、協力会社にも利用されている。利用している協力会社からの要望を受け、2026年3月に「FaceStamp」という名称でkintone連携サービスとしてリリースした。

 二つ目が「生コン車トラッキングアプリ」だ。コンクリート打設時、従来はミキサー車の到着時間が分からず現場で待機し続ける必要があり、休憩も取りにくく、打設状況も現場に行かなければ把握できなかった。生コン業者の協力もあり開発された本アプリでは、輸送状況や打設状況をkintoneに集約することで、タブレットからリアルタイムに確認できるようになり、待機時間の削減や空き時間の有効活用につながっている。

生コン業者が出発時にkintone上のボタンを押すと、現場への到着予定時刻が自動で通知される。タブレットで到着予定時間を確認できるようになったことで、空き時間の有効活用につながり、残業時間の削減にも寄与している。

 三つ目が現場の安全書類のペーパーレス化だ。改善前は、現場ごとに紙の書類を用意し、新規作業員に手書きで記入してもらい、内容の転記やファイリングまで社員が対応する必要があり、転記作業の手間などが課題となっていた。協力会社にも協力を依頼し、これまで紙で記入していた安全書類をkintone上で入力してもらう仕組みに変更した。作業員がスマートフォンで現場のQRコードを読み取って入力すると、情報はkintoneに自動蓄積されるため、転記作業の削減につながっている。

安全書類を手書きで記入していた従来は、その内容の転記やファイリングが社員の負担となっていたほか、現場には常に書類が積み上がっている状況だった。QRコードを読み取り、kintone上に入力する形式へ変更することで、転記作業の削減や現場の整理整頓につながっている。

 また後藤組では、データの集約によって、従来はベテランにしかできなかった業務を若手でも担える体制の構築を目指している。その取り組みの一例として、危険行動・不具合情報の活用がある。現場で発生した不具合やクレーム、事故情報などをkintoneに集約し、それらのデータを基にチェックリストへ自動反映する仕組みを構築することで、若手でも事実に基づいてリスクを確認できる体制を実現している。

過去の危険データが現場のチェックリストアプリに自動反映される仕組みを構築した。そうすることで、工事着手前の施工前検討会において、自動抽出された過去事例を基に、若手を交えながら具体的な対策を話し合えるようになったという。

 さらに後藤組では、生成AIとkintoneの連携も進めている。使い勝手の良さと見栄えを良くするために部材の構成や位置関係を整える「納まり」は、従来は現場代理人ごとの異なる判断の下で行われ、品質のばらつきが生じていた。その上、納まりは図面上に現れず、若手では対応が困難だった。そこで後藤組では、過去の図面や現場チェックデータを学習したAIアシスタント「施工締まり提案AI」を開発。AIが質問に回答することで、属人化していた技術の標準化と若手育成の加速につなげている。

施工締まり提案AIの開発によって、これまでベテランから手取り足取り教わる必要があったノウハウを、AIに問いかけるだけで取得できるようになり、若手でも自ら判断できる環境を整えている。