2025年10月に迎えたWindows 10 EOS(サポート終了)に伴うWindows 11搭載PCへのリプレース需要が大きく伸び、MM総研の調査によると2025年度の国内PC出荷台数は過去最大を記録したという。その直後となる今年は、特需の反動としてPCの需要が大きく減少することを、これまでのEOSの経験から理解している。しかし法人市場においては、その落ち込みは想定よりも緩やかな印象がある。需要を下支えしているのはデジタルトランスフォーメーション(DX)とAIの二つの要素だろう。特にAIは人手不足や人材不足を補う唯一の手段と理解されており、業種や規模を問わず企業や組織においてAIの活用が必須の状況となっている。そのAIの活用に欠かせないのがAI PCだ。法人向けではすでにAI PCの普及が進んでいるが、一方で目を見張る加速感は感じられない。しかしAI PCの普及を加速させるニュースが報じられた。4月16日にインテルがAI PC向けプロセッサーの新製品を発表したのだ。この新しいプロセッサーは法人市場におけるAI PC普及の起爆剤になりそうだ。

EOS終了後もAIが需要を喚起
国内法人向けPC市場は成長軌道

 MM総研の調査によると2025年度(2025年4月〜2026年3月)の国内PC出荷台数は過去最大となる前年度比32.6%増の1,805.9万台を記録した。その中で法人向けは前年度比33.6%増の1,349.1万台を占める。いずれの前年度比で30%以上の大幅な増加となっているが、前年度の出荷台数も大きい。

 2024年度(2024年4月〜2025年3月)の国内PC出荷台数は前年度比約26%増の1,361.7万台で、そのうち法人向けが前年度比約36%増の1,009.9万台だった。数字が続いてしまうが、さらにその前年度の2023年度(2023年4月〜2024年3月)は全体で1,079.5万台、法人向けは740.2万台だった。こちらもMM総研の調査となる。

 さらにMM総研は2026年度の国内PC出荷台数について全体で1,123万台、法人向けが807万台になると予測している。この予測では2025年度比で全体が37.8%減、法人向けが40.2%減という、大幅に需要が縮小することを示している。この予測に悲観しかないのだろうか。

 2023年度当時、企業でDX推進が加速し、またWindows 10 EOSに向けたリプレース需要が伸びていた。2023年度の国内PC出荷台数は全体で1,079.5万台であったのに対して、2026年度は需要が大幅に縮小した結果、全体で1,123万台と予測されており、法人向けも807万台(2023年度は740.2万台)の予測である。市場規模は確実に底上げされていると言えまいか。

 ただしMM総研は2026年度の出荷台数減少について「2025年末ごろからのメモリーなどのパーツ価格高騰に伴うPC価格上昇への懸念」や「今後も新製品を中心に断続的な値上げが予想され、価格は前年度比20%超の上昇となる公算が高い」など、価格に関する需要への影響を指摘している。

 つまりEOSによって需要が先取りされ、特需後に落ち込むという影響はあるにしても、DX推進やAI活用の進展によって法人市場のPC需要は底堅い。しかしPCの価格が高騰しているため、本来の需要が実績につながっていない部分もあるとみることもできる。

 インテルが日本を含む全23の国と地域に在住の5,050名のビジネスパーソンを対象に2025年5月に実施した「AI PCグローバルレポート」によると、AI PCへの理解度について、日本は52%が「よく理解している」もしくは「理解している」と回答した。

 またAI PC導入の障壁について日本は「初期コスト」と「運用」がいずれも44%で最も高い障壁だと回答している。一方で77%がAI PCの導入に向けて追加投資を許容しており、65%が「AI PCへの移行を決めている」もしくは「AI PCの導入を計画している」と回答している。

AI PCは欲しいけど
高くて手が出せない

 このように国内法人市場ではEOS直後の現在、出荷台数の落ち込みはあるもののAI活用やDX推進を文脈にPCの需要は着実に底上げされており、特にAIの普及と活用の拡大がPC、中でもAI PCの成長に寄与すると考えられる。

 AI PCという名称の通り、AI活用に適したPCであることは誰もが理解できよう。その名称のおかげもあり、AI活用とAI PCが連動して導入の検討に挙げられる。しかしAIへの関心が高まり、実際の活用が進む中で、AI PCの成長に目を見張る加速感が感じられない。それは、なぜか。

 筆者が取材の現場でよく耳にするのが「AI PCの価格」についての声だ。先ほどのインテルの調査結果の通り、「AI PCに関心がある」「AI PCを使ってみたい」「AI PCを導入したい」という声をよく聞く。逆に「AI PCは不要」だとか「従来のPCで十分」といった否定的な意見は聞いたことがない。

 ではなぜAI PCの導入に踏み切れないのか。AI PCへの関心を聞いた後に続くのが「欲しいけど高くて手が出せない」という声だ。現在のAI PCの価格が従来のPCの価格よりも高いのは当然である。なぜなら現在、AI PCは各PCメーカーの製品ラインアップの上位に位置付けられているからだ。AI PCの中でも高いスペックが要求される「Copilot+ PC」は、各PCメーカーの製品ラインアップの頂点に君臨している。

 AI PCに搭載されるAI処理専用プロセッサーであるNPUのAI利用時の効果や、Copilot+ PCで利用できる「リコール」や「改善された Windows 検索」(AIを活用したセマンティック検索)などの業務利用での効果などへの関心は高いものの、AI PCおよびCopilot+ PCを本格的に導入するには大きな投資が必要となる。

 「欲しいけど高くて手が出せない」というジレンマに陥っている現在、日本の法人向けPC市場はいまAI PCが本格的な普及期の目前にいる。あと一歩でAI PCが国内法人向けPC市場の大きな成長を促すのだ。そしていよいよ、その一歩を踏み出す起爆剤が登場した。今年4月16日にインテルが発表したAI PC向けの新しいプロセッサーである「インテル Ultra Core シリーズ3」(以下、Core シリーズ3)だ。

インテルが日本を含む全23の国と地域に在住の5,050名のビジネスパーソンを対象に2025年5月に調査を実施した。65%が「AI PCへの移行を決めている」もしくは「AI PCの導入を計画している」と回答している。
出所:インテル

搭載プロセッサーの進化が
AI PCの世代を進める

インテル
執行役員
技術・営業統括本部 本部長
町田奈穂

 Core シリーズ3を紹介する前に、AI PCのアーキテクチャの進化を振り返ってみよう。Core シリーズ3の「3」が示す通り、最新のAI PCは3世代目となる。AI PCの初代は2023年12月に発表された「インテル Core Ultra」(以下、Core Ultra)(開発コード名:Meteor Lake)を搭載する。Core Ultraはインテル製プロセッサーで初めてNPUを内蔵し、GPUにはArcグラフィックスを搭載した。

 続く「インテル Core Ultra シリーズ2」(以下、Core シリーズ2)(開発コード名:Lunar Lake)では、NPUのパフォーマンスがCore Ultraでは最大11 TOPSであったのに対してCore Ultraシリーズ2は最大48 TOPSに向上し、Core Ultraシリーズ2よりCopilot+ PCに対応する。またグラフィックスにXe2コアを搭載し、グラフィックス性能とAI処理能力を強化している。もちろんCPUの性能や省電力化も進化している。

 そして最新の「インテル Core Ultra シリーズ3」(以下、Core シリーズ3)(開発コード名:Panther Lake)ではインテルの最新の製造技術となる「Intel 18A」を初めて採用した。なおインテルの製造技術は「Intel 7」「Intel 4」「Intel 3」「Intel 20A」と進化し、現在のIntel 18Aに至る。ちなみにCore Ultra シリーズ2にはTSMCの3nmプロセスで製造されている。

 Core Ultra シリーズ3に内蔵されるNPUは最大50 TOPSへ向上し、内蔵GPUはXe3に進化している。またCPUもCore Ultraシリーズ2(Lunar Lake)に対してシングルスレッドで10%以上、マルチスレッドで50%以上、GPUは50%以上のパフォーマンスアップが図られている。同時に消費電力は最大10%削減した。

 これら歴代のCore Ultraを搭載するPCは、各世代におけるハイエンドモデルとして位置付けられ、Core Ultra シリーズ2からは特に高いスペックが求められるCopilot+ PCにも対応してきた。そのためCore Ultraを搭載するPC、すなわちAI PCはおのずと高価になってしまう。

AI PCはAI専用ではない
AI PCは優れたPCでもある

インテル
技術・営業統括本部
IA技術本部 部長
太田仁彦

 従来の企業におけるPCの導入では、PCのラインアップの立て付けにおいて「N-1」(エヌ マイナス 1)という選択が用いられてきた。N-1とはN(現行世代)の一つ前の世代(-1)のアーキテクチャおよびそれを採用した製品という意味だ。

 製品ラインアップを提供する際に、現行の最新モデルを上位モデルに位置付け、旧世代の製造技術やアーキテクチャを採用した前世代(場合によっては数世代前)のモデルを下位モデルに位置付ける手法で、CPUに限らず他の部品でもコストを抑える方法としてPCメーカーが広く採用している。

 N-1には旧世代であっても業務に使えそうなPCを、低予算で導入できるメリットがある。しかしインテル 技術・営業統括本部 IA技術本部 部長 太田仁彦氏は「日常業務で使っているアプリケーションがアップデートされてAI機能を搭載するようになるなど、業務でのAI活用が進んでいます。こうした転換期にあってPCのラインアップには、上位から下位まで幅広くAI活用に対応できていることが求められます。またプロセッサーについて、世代が進むごとに全てが進化しています。例えば新型では基本的なパフォーマンスが向上しているのはもちろんのこと、さらに消費電力が半分になっていたり、ネットワークや各種インターフェースが高速化されていたりするなど、最新のアーキテクチャを採用したプロセッサーを使用するメリットが多くあります」と指摘する。

 またインテル 執行役員 技術・営業統括本部 本部長 町田奈穂氏も「AI処理のパフォーマンスとしてNPUのTOPS値に注目しがちですが、AI処理はGPUやCPUにも割り振られており、プラットフォーム全体での処理能力に注目すべきです」と説明する。

 Core Ultra シリーズ3に内蔵されるNPUの演算能力は最大50 TOPSだが、内蔵GPUは最大120 TOPS、CPUは最大10 TOPSで、プラットフォーム全体で最大180 TOPSを発揮する。

 さらに町田氏は「AIエージェントが普及して複数のサービスを連携させるようになると、クラウドのAIサービスを利用していてもデータの処理やアプリケーションの連携をPCが担うため、CPUに高い負荷がかかります。今後はプラットフォーム全体の演算能力が重要になります」と強調する。

 そして太田氏も「AI PCをAI専用で利用するユーザーはいません。AI PCはPCとして優れていることが前提となります。N-1で導入したPCやAI PCには前世代のアーキテクチャやテクノロジーが用いられているため、最新製品を導入した場合と比較して業務で求められるパフォーマンスの不足やアップデートされるアプリケーションのAI化が急速に進み、場合によっては生産性の低下を招いてしまう危惧があります」と指摘する。

 繰り返しになるがN-1による価格メリットは大きいと言わざるを得ない。しかし最新のアーキテクチャを採用したAI PCを導入してAIを活用し、生産性を向上させたい。こうしたジレンマに陥る企業に、新しい選択肢を手供するのがインテルのCore シリーズ3だ。

Core シリーズ3搭載AI PCで
「N-1」からの脱却を図る

 Core シリーズ3はAI PC向けのプロセッサーで、インテルのAI PC向けプロセッサーのフラッグシップであるCore Ultra シリーズ3の下位製品としてラインアップする。そのため価格もCore Ultra シリーズ3よりも安価になる。

 ただしCore シリーズ3に採用されるアーキテクチャとテクノロジーは最新となる。まず製造技術はCore Ultra シリーズ3と同じIntel 18Aを採用しており、高集積化による性能向上と電力効率向上の恩恵が得られる。さらにCPUやGPU、Wi-FiやThunderboltなどにも同じ世代のアーキテクチャが使われているので、機能面でも遜色を感じさせない。

 もちろんNPUを内蔵しており、こちらもCore Ultra シリーズ3と同じ最新の「NPU 5」を採用している。またGPUにもCore Ultra シリーズ3と同じXe3を採用している。その結果、AIなどの演算能力はプラットフォーム全体で約40 TOPSを備える。

 太田氏は「Core シリーズ3は、プロセッサーのコストパフォーマンスが高いだけではなく、搭載するPCの冷却システムなどの設計や製造コストを効率化する工夫も施しており、最新のアーキテクチャとテクノロジーを備えたAI PCを非常に高いコストパフォーマンスで提供できます」とアピールする。

 またCore シリーズ3を搭載するAI PCの位置付けについて「Copilot+ PCが必要なお客さまはCore Ultra シリーズ3搭載製品を選んでいただき、それ以外のAI PCとしてCore シリーズ3搭載製品を選んでいただくという位置付けとなります。Core シリーズ3搭載AI PCはAI活用が本格化する今後、AI PCのスタンダードではなく、ビジネスPCのスタンダードになると考えています」と説明する。

 Core シリーズ3を搭載するAI PCの実際の価格がどうなるかは現時点で分からないが、N-1の予算で最新のアーキテクチャとテクノロジーを採用したAI PCを導入できるようになりそうだ。

 さらにインテルは日本市場でのAI PC向けAIアプリケーションの開発を促進する「PEAR Experience」プログラムを展開している。「PEAR」とはPC、Edge、AI、Revolutionの各頭文字を組み合わせており、PEAR Experienceでは文系人材や一般のビジネスパーソンなどプログラミングの専門知識がない人でも参加できる体験型のワークショップが提供される。

 町田氏は「PEAR Experienceは新たなAIアプリケーションの創出を促進するプログラムとなっており、ワークショップに参加することでPCのローカル環境で動作するAIアプリケーションなどの開発を実践的に学ぶことができます」と説明する。

 Core シリーズ3搭載AI PCの登場によってAI PCの普及が加速し、AI PCがビジネスPCのスタンダードになる日が間もなくやってくるだろう。