奈良市の全世代に図書館利用を促す
「図書受取ロッカー」

社会人になり、仕事の都合で図書館へ行けなくなった人は多いだろう。開館時間と勤務時間が噛み合わず、足が遠のいてしまうことは少なくない。居住地によっては図書館が遠く、本を借りに行くのが困難な場合もある。こうした人々にも本を提供するため、図書館側は施策を打つ必要が出てくるのだ。そこで今回は、幅広い世代に図書館を利用してもらうために、図書館の外で本を受け取れる「図書受取ロッカー」を設置する奈良県奈良市を取材した。

奈良県奈良市

奈良県の北部に位置する人口34万5,103人(2025年12月1日時点)の都市。約1,300頭の野生のシカが群れ遊ぶ「奈良公園」、三つの笠を重ねたように見えるため「三笠山」とも呼ばれる「若草山」、「奈良の大仏さま」として知られる大仏を有する「東大寺」、国家・国民の平和と繁栄を祈る祭りが年間2,200回以上斎行される「春日大社」など多くの観光スポットがある。

通勤通学世代の図書館利用が課題

 地域住民が本に親しむ場所として、図書館は重要な役割を果たしている。子供から高齢者まで年代を問わず、幅広い人々が図書館を使うことが理想的だが、開館時間の都合で社会人はなかなか利用が難しい。加えて図書貸し出しカードの作成は図書館で行わなければならないケースが多く、図書館が自宅から遠い住民にとっては、カードの作成・更新も高いハードルになってしまう。

 奈良県奈良市も、そうした悩みを抱える自治体の一つだった。奈良市教育委員会 教育部 中央図書館 主任 村田直史氏は、奈良市が抱えていた図書館に関する課題をこう語る。「当市の図書館の利用者は、ほかの年代と比べて13〜30歳が少ない傾向にありました。図書館は全世代に使ってもらいたいため、図書館へあまり行けていない通勤通学をする世代の方が、図書館に親しめる方法はないかと考えていました。また当市は図書館が3館しかなく、どの図書館からも遠い『図書館空白地帯』が生まれていることも課題でした」

 そこで奈良市は、市内の乗降者数が多い駅に、貸し出し予約した本を受け取れる「図書貸出ロッカー」を設置した。まずは2024年10月16日から近鉄大和西大寺駅と近鉄学園前駅で運用を開始し、2025年11月18日からはJR奈良駅、近鉄富雄駅、近鉄学研奈良登美ヶ丘駅でも運用を始めた。「近鉄大和西大寺駅は、京都や大阪につながる路線が通るターミナル駅であり、乗り換え駅として市内での乗降者数が多くなっています。そして近鉄学園前駅は、住宅街が多い駅です。住民が多いため、乗降者数も多い駅となっています。また、新たにロッカーの運用を始めた近鉄学研奈良登美ヶ丘駅では、駅に隣接するイオンモール内に図書受取ロッカーを設置しています。これにより通勤通学をする方だけでなく、車を使って本を借りに行きたい利用者や、買い物に来たファミリー層にも、図書受取ロッカーを使ってもらえるのではないかと考えています」(村田氏)

来館せずカード発行〜返却が可能

 図書受取ロッカーを使うには、最初に奈良市立図書館の利用者登録を行う必要がある。奈良市立図書館は、奈良市在住の市民であれば図書館ホームページから「図書館貸出券(電子貸出券)」を発行できる。カード発行のために図書館へ来館しなくてよいので、自宅から図書館が遠かったり、図書館へ行く暇がなかったりする市民でも、簡単に図書館貸出券を作れるのだ。マイナンバーカードを図書館貸出券として登録すれば、マイナンバーカードでも本を借りられる。

 利用者登録が完了したら、まずは奈良市立図書館のホームページから本の予約を行う。予約する本が決まったら、図書館の利用者マイページにログインし、受け取り場所を選ぶ。この時に図書受取ロッカーを指定すれば、ロッカーでの受け取りが可能になるのだ。そして予約した本が用意でき次第、図書館からメールで通知が届く。

 ロッカーで本を受け取る際は、最初にロッカーのタッチパネルで、貸し出しに使用するカードを図書館貸出券(電子貸出券)とマイナンバーカードのどちらかから選択する。次に選択したカードをロッカーにかざすと、本が収納されている扉のランプが点滅し、扉が開錠される。中には予約した本が袋に収まっているので、あとは持ち帰るだけでよいのだ。ちなみに本の返却は、ロッカーに併設された返却ポストから行える。

 こうした使い方を踏まえて、村田氏は図書受取ロッカーの特長を次のように話す。「図書館に全く来なくても、貸出券の発行と登録、本の貸し出しと返却を行える点が強みです。加えて、ロッカーにはセンサーが付いているため、利用者が本を取り出した日を貸し出し期間の初日に設定できます。つまり本の受け取りが遅れても、貸し出し期間が短くならないのです。このように図書受取ロッカーは、図書館業界において最先端の技術を取り入れています」

利用者が多い駅への増設を検討

 では市民は、図書受取ロッカーにどう反応しているのだろうか。最初に設置された近鉄大和西大寺駅と近鉄学園前駅の図書受取ロッカーは、2024年10月16日〜2025年9月30日までの期間で利用者数が7,560人だった。そして利用冊数は、同期間で1万5,458冊となった。どちらも月平均だと、約630人/約1,288冊の利用があった形になる。

 利用者は本館と比べて23〜60歳の割合が高く、電車で通勤を行う層が特に利用していた結果となった。また、2025年5月に奈良市立図書館で「利用者満足度調査」を実施したところ、図書受取ロッカーに対して「図書館に行かなくても、予約本の受け取りができるようになってうれしかった」「スマホで予約できてロッカーで受け取れるので、簡単で便利になった」「読みたい本が決まっていたので、予約するだけで本を届けてもらえるのはとても便利だった」などの声が届いたそうだ。

 最後に村田氏は、図書受取ロッカーの展望を次のように語った。「ロッカーの扉の数が限られているため、本の予約ができているのに、利用者へ本を貸し出せないケースが出てきています。そのためロッカーの利用者が多い駅に対しては、ロッカーを増設していきたいです。併せて、まだ設置していない主要駅にもロッカーを置ければと考えています。また駅以外では、図書館空白地帯への設置も検討しています。当市は通勤時間が長い傾向にあるので、通勤中の電車内で本を読んでもらうほか、一休みする喫茶店で読書をしてもらうなど、利用者のサードプレイスにつながる本の提供を実現していきたいです」