福島市の知見を生かした被災者支援
「生活再建支援ナビ」

地震や豪雨などの災害に遭った際、自分が受けられる支援をすぐに判断するのは難しい。調べることを諦め、十分な支援が受けられないままになる被災者もいるだろう。自治体側でも被災した住民と支援のひも付けに手間取り、被災者への対応が遅れてしまう課題があった。今回は効率的かつ漏れのない被災者支援を目指す福島県福島市が、富士フイルムシステムサービスと共に開発した被災者支援ソリューション「生活再建支援ナビ」を取材した。

福島県福島市

福島県の北部に位置する人口26万8,726人(2025年11月1日時点)の都市。「魔女の瞳」と呼ばれるコバルトブルーの沼「五色沼」、熊野、羽黒、羽山の三山からなる市のシンボル「信夫山」をはじめとする自然豊かなスポットを多く有する。江戸時代から続く豪農・豪商の旧家「旧堀切邸」や、開創1200年の歴史を持つ「黒岩虚空蔵尊 満願寺」も有名。

福島市の課題を企業と解決

 地震、台風、豪雨、火山噴火など、日本では多くの自然災害が発生している。災害発生後の被災者支援は自治体ごとにさまざまなものが用意されているが、具体的にどのような支援を受けられるのかは被災者自身で調べる必要があり、本来支援を受けるべき被災者が支援を受け損ねてしまうケースがあった。

 福島県福島市も、そうした悩みを抱える自治体の一つだった。同市はこの悩みを解決するため、2024年7月24日に、富士フイルムシステムサービスと自治体職員の業務効率化に関する共同研究協定を締結した。福島市 CDO補佐 信太秀昭氏は、富士フイルムシステムサービスとの共同研究協定を締結した背景をこう話す。「福島市は、公民連携のワンストップ窓口『ふくしま公民連携窓口』(通称:公民こねくと)を設けています。公民こねくとでは『福島市が抱える課題について一緒に考えませんか?』とお願いをすると同時に、『企業さまが抱える課題を福島市をフィールドにして解決してみませんか?』と投げかけをしています。富士フイルムシステムサービスさまとは以前から知っている間柄でしたが、正式に取り組みを進めるために、公民こねくとを通じて提案をしていただきました」

 富士フイルムシステムサービス デジタル戦略推進部 部長 竹中 稔氏も、福島市との共同研究協定について次のように語る。「当社では、スピーディーな被害状況の把握と調査計画の策定、罹災証明書の迅速な発行を支援する『罹災証明迅速化ソリューション』を提供しています。このソリューションは、自治体さまの経験や知見を集めて開発を進めていくポリシーを持っていました。そうしたことも踏まえると、当社と福島市さまは非常に有効な組み合わせだと感じています」

より多くの被災者の支援を目指す

 この共同研究協定に基づいて開発されたのが、生活再建を支援する被災者支援ソリューション「生活再建支援ナビ」だ。本製品は福島市で活用するほか、富士フイルムシステムサービスを販売元として、他自治体へも提供している。

 生活再建支援ナビは、災害による住家の被害程度を証明する書類「罹災証明書」の交付から生活再建支援までを、一気通貫で行うシステムだ。本システムは、富士フイルムシステムサービスの罹災証明迅速化ソリューションに搭載された罹災証明書の交付申請受け付け時に、申請者情報と住民基本台帳データを自動でひも付ける機能を有している。罹災証明書の発行と同時に、支援対象者を自動で特定・一覧化できるため、自治体職員の煩雑な事務作業が大幅に軽減されるのだ。

 信太氏は、生活再建支援ナビの開発を行った背景をこう語る。「当市ではもともと、内製した罹災証明書の発行システムを持っていました。そのため罹災証明書の交付まではスムーズに行えていましたが、交付後の支援業務にはシステムが用意できておらず、課題になっていました。富士フイルムシステムサービスさまも同様の課題を抱えており、より多くの住民への支援と、自治体職員の業務負担の軽減を目的に、システム開発を始めました」

 竹中氏も、富士フイルムシステムサービスにおける開発の背景をこう話す。「当社では家屋の被害程度を調査するシステムは開発していましたが、その後の被災者支援をカバーするシステムは持っていませんでした。被災者支援システム自体は世間にすでにありましたが、こうしたシステムが自治体職員にとって真に有効なのか疑問に思っていました。被災者にとっても、どれほどメリットがあるのか理解の及ばないところがありました。そこで、過去に複数の災害を経験した福島市さまと協力することで、実際の被災者対応で苦労した点を確認でき、より良い被災者支援システムを開発できるのではないかと考えました」

平常時でも使えるシステムに

 竹中氏は、生活再建支援ナビの特長をこう話す。「家屋の調査を終えた段階で、その世帯が受けられる支援を自動抽出する点が大きな特長です。生活再建支援ナビを使えば、該当する支援が間違いなく抽出され、被災者が受けられる支援を漏れなくカバーできます」

 続けて、自治体職員にもメリットがあると竹中氏は語る。「被災者が支援の申請を行う際、その被災者が別の窓口で申請可能な支援があれば、自治体職員から窓口を案内できます。支援情報を網羅的に伝えられるのです」

 福島市 政策調整部 デジタル改革室 情報企画課 主任DX推進員 川村剛史氏は、生活再建支援ナビの展望を次のように語る。「発災時しか使わないシステムは、『いつ起こるか分からない災害のためにコストをかけるのはもったいない』という理由から、導入がためらわれることがあります。そうした自治体さまにも導入してもらえるよう、生活再建支援ナビに平常時の業務でも使える機能を付けていきたいです」

 最後に竹中氏は、生活再建支援ナビや福島市との共同研究協定を踏まえた展望をこう話した。「義援金の振り込みや市民アプリを通じた通知といった機能も展開できれば、さらに良い仕組みになるのではないでしょうか。より一層自治体職員さま、そして被災者の方々に近づいて開発を進めていきます」