Generative AI Japan(GenAI:ジェナイ)は、「日経ビジネス」(日経BP発行)と共同で、生成AIの優れた活用事例を表彰する「生成AI大賞2025」を開催した。2回目の開催となる本アワードは、昨年を上回る多くの応募があったという。本アワードの審査委員長を務めた、GenAI 代表理事の宮田裕章氏に、この1年を通して見えてきた生成AI活用の変化と深化を聞いた。

生成AI活用フェーズは
「実験」から「実装」へ

Generative AI Japan
代表理事
宮田裕章

 2025年12月11日、「生成AI大賞2025」の最終審査および表彰式が開催された。2回目の開催となる生成AI大賞2025は、昨年の生成AI大賞2024の応募者数を上回る応募の中から、8団体のファイナリストが選出された。

 今回の応募団体の傾向について、生成AI大賞2025の審査委員長を務めた宮田氏は「1年目となる去年は『生成AIを使ってみました』あるいは『これからこう使います』といった団体が主でしたが、今年は私たちの想定を超えて深く踏み込んで実装した事例が多くありました。これはファイナリストに限らず、応募団体全体に共通する傾向です」と振り返る。

 応募団体の業種や業務も昨年と比較して多様化が進んだ。ファイナリストを見ても、エンターテインメント、物流、行政、教育、製造、医療、ITなどさまざまだ。生成AI普及当初は文章作成のような活用が主だったが、現在は業務プロセスの再設計が進んでいる。AI前提のプロセス、意思決定支援、問い合わせ対応、対人業務サポート、学習支援など、各企業のバリューチェーンの中核に生成AIが入り込んできており、AIエージェントの活用を前提とした、司令塔AIや専門AIのような分業・協業設計が具体化してきている。

 生成AI大賞2025のグランプリは、生成AIをゲーム体験の核に据えたタイトル「神魔狩りのツクヨミ」を提供しているコロプラが受賞した。本ゲームはエンターテインメント域での生成AI活用がタブー視される中で、独自AI「AIカネコ」を開発し、生成AIでエンタメの可能性を切り拓く「生成ゲー」(生成AIを核にしたゲーム体験を指す造語)という新ジャンルを生み出した。

 宮田氏は「ファイナリスト全ての発表が印象的で優劣付けがたい」と前置きをした上で「ハルシネーションが起こる恐れなどから、エンターテインメント領域で生成AIを組み込む事例があまりない中で、コロプラの事例は踏み込んだ生成AI活用だったと捉えています。クリエイターの金子一馬氏と信頼関係を作り、一つのゲームを開発したという例は、なかなか興味深いですよね」と語る。

 特別賞はSHIFTとShippioの2団体だ。SHIFTは生成AIチームと障害者雇用チームが連携することで、働き方の質を向上させる取り組みを行っている。「障害者への支援というのは、あらゆる人への働きにくさを解消し、可能性を開くことにつながります。SHIFTの事例は、AIが一人ひとりの生き方に寄り添えるという可能性を提示していました」と宮田氏。

 Shippioは、アナログな業務が多く残る貿易業界でAIエージェントを活用した業務改革を行っている。宮田氏は「半世紀以上業務が変化していない貿易という業種の事例でもこれだけAIが使えるのだという可能性を見せてくれました。こういったユースケースは、『自社の業務にはAIなんて関係ない』と思っている企業ほど参考になるでしょう」と話す。

分業化される人間の役割
その価値を再定義する

 グランプリと特別賞に共通するのは、これまで生成AIとは縁遠いと思われていた用途に対して生成AIを活用した点といえるだろう。特にコロプラのようなエンターテインメント分野では、生成AIを利用することに対する抵抗感も大きい。「クリエイターが自分の絵を生成させることを許容した上で、エンターテインメントとして成立させるのはなかなかチャレンジングですし、面白い事例です」と宮田氏。

 優秀賞はデジタルハリウッド、東京都町田市、中原製作所、三菱電機デジタルイノベーション、NECの5団体が受賞した。それぞれの生成AIの活用用途が教育、行政、製造、医療、ITと、受賞団体の業種が多岐にわたっている点が興味深い。

 宮田氏はデジタルハリウッドのUtutorを例に挙げ、学生に対し粘り強く丁寧に教えるというAIの性質に対して「人間は同じことを聞かれ続けるとクオリティが下がってイライラしてしまいますが、AIは違います。何度でも同じことを忍耐強く答えてくれるという点において、AIは人間よりも優位な存在です。その上で、人間が果たす役割は分業化されていくのだとみています。これは慶應義塾大学医学部で教員をしている私も同じです。これまでと同じでは自分の仕事はなくなるという前提で、一体何を専門にするのか、生きている人間が仕事を担う部分を作っていくのかということは、あらゆる企業、あらゆる立場の人たちが考え始める必要があるでしょう」と宮田氏。

 宮田氏は、自身も普段から生成AIを活用している。「生成AIの活用は人によって異なると思いますが、私はAIを共創のパートナーとして扱っています。考えを明確化させたり、言語化させたりする用途として使うと同時に、自身の意見を批判してもらう存在としても生成AIを活用しています。企業の皆さまの場合、生成AIを『ユーザーが使うツール』としてではなく、『共同設計者』として捉えることが重要です。もう一つは『価値設計を最初に行うこと』です。既存業務の効率化というアプローチはすでにかなりの部分がやり尽くされています。既存業務をそのままやるために生成AIを使うのではなく、『問いを開く』『価値を定義し直す』ところから始めることが重要です。また、生成AIの活用を小さく始めるのであれば『業務単位』で切るのではなく、『判断の単位』で切ることがおすすめです。誤りが許容される領域と、許容されない領域を分け、その上で、『ここまでなら何ができるのか?』という範囲で試していくという始め方もよいでしょう」と自身の活用から、企業向けの生成AI活用のコツを語ってくれた。

 GenAIでは、企業の生成AI活用を支援するべく、定期的な勉強会を実施している。具体的には現在「ユースケース・技術動向研究会」「セキュリティ・ガバナンス研究会」「生成AI実践研究会」の三つの研究会でそれぞれ生成AIに関する情報共有や意見交換などを行っている。

「生成AI大賞2025」では8組のファイナリストが最終プレゼンテーションを行い、厳正な審査の上コロプラが生成AI大賞グランプリを受賞した。

「生きる豊かさ」を開く
デジタル革命に寄り添うAI

 宮田氏は「生成AIはめまぐるしく進化しています。生成AI大賞はその進化を実感できる貴重な機会だと思いますので、ぜひ今後も皆さまに注目してほしいと思います。現在の生成AI活用はまだ既存の業務領域を良くするという段階ですが、今後はそれを超えて新しい価値を設計するような事例が出てくるのではないかと思いますし、今回の八つの取り組みにもそうした可能性がありました。今後はビジネスモデルだけでなく社会課題やSDGsを見据えたような、人を豊かにする問いから立ち上がる生成AI活用が登場することで、生成AIが歴史を変えるフェーズに差しかかるのではないかと思います」と語る。

 また宮田氏は「先日、ある監督の方と話していたときに『思ったよりもAIがつまらない』と言っていたのが印象的でした。AIってみんな“いい子”なんですよね。これは五感をはじめとした感覚系のインプットがないため、没個性的になっているのだと思います。今後は五感を再現したような『感じるAI』が登場する可能性はありますが、何が大切で、何を選びたいのかといった判断には、人間の存在が必要になるでしょう。農業革命は生きる選択肢を広げるための『食料』、産業革命は生きる選択肢を開くための『お金』を生み出しました。現在のデジタル革命は、『生きる豊かさ』を多元的に開いていくものになり、生成AIはその流れに寄り添う存在なのではないかと感じています」と生成AIの限界を示すとともに、その存在が導く可能性を語った。