ソフトウェアの品質保証・テスト事業を中核に、企業のビジネス価値最大化を支援するSHIFT。IT製品の品質を支えるプロフェッショナルとして業界を牽引する傍ら、人的資本経営においても先進的な取り組みを見せている。その象徴が「生成AI大賞2025」で特別賞を受賞した、SHIFTの障がい者雇用チームと生成AIチームによるプロジェクト「生成AI×社内BPOで拓く『障がい者雇用』の新常識」だ。独自開発のノープロンプト生成AIツール「天才くん」によって、業務の質と働く喜びを劇的に向上させたSHIFTの取り組みを深掘りする。

個々のポテンシャルを引き出す
付加価値の高い業務へシフト

SHIFT
経営戦略部
DAAE部
藤原秀樹

 ソフトウェアの品質を極めるプロフェッショナル集団として、日本のIT業界を支え続けているSHIFT。同社では、一人ひとりのキャリア自律と市場価値を高めることを目標にした人的資本経営の取り組みを進めている。その取り組みの一つが、障がい者雇用だ。

 SHIFTにおける障がい者雇用は、単なる社会貢献や法定雇用率の遵守といった義務の枠を超え、人的資本経営を支える重要な施策として位置付けられている。その根底にあるのは、障がいの有無にかかわらず、一人ひとりのキャリア志向を踏まえた上で、キャリア自律を促す姿勢だ。

 同社の障がい者雇用チームには、現在障がいのある従業員が約200名在籍している。彼らは「社内BPO(Business Process Outsourcing)」として、全社から1,000案件にも及ぶ多様な業務を一手に請け負い、各事業部のエンジニアやコンサルタント、営業、バックオフィスのメンバーが本来の業務に集中できるよう、組織の土台を支えている。2015年に障がい者雇用を開始して以来、着実な採用と育成によって業務基盤は強固なものとなったが、チームが成熟するにつれ、課題も生じていた。SHIFT コーポレート人事統括部 ビジネスサポート部 内田啓介氏は、当時の状況をこう振り返る。「これまでは、雇用を創出し、安定した業務の『量』を確保することに注力してきました。しかし、現場が成熟するにつれ、いかに業務の『質』を向上し、付加価値を高めていくかが、一人ひとりの成長を支援するうえで避けては通れない課題となったのです。障がい者雇用は、社会全体を見ても定型的な作業に限定されがちな側面があり、個々のポテンシャルをより引き出すためには、従来の延長線上ではなく新しい支援の形が必要であると考えました」

 社会全体を見渡しても、障がい者雇用は今、大きな転換点を迎えている。2024年4月に法定雇用率が2.5%へと引き上げられ、さらに2026年7月には2.7%への再引き上げを控えている。雇用率の引き上げに伴い、社会全体が人材の確保に注力する一方で、SHIFTは人的資本経営の理念に基づき、その先にある雇用後の活躍の場に向き合ってきた。単に定型業務を割り振るのではなく、チーム一人ひとりが自らの能力を最大限に発揮できる体制を整えられるか。それを実現するための具体策として検討されたのが、生成AIの活用だった。

何を入力すればいいか分からない
プロンプトという“壁”をなくす

SHIFT
コーポレート人事統括部
ビジネスサポート部
内田啓介

 SHIFTでは全社を挙げた生成AIの積極的な利用を図っており、2023年より業務現場での活用が始まった。全社で生成AI活用率を伸ばすというミッションを掲げる中で見えてきたのは、対話型の生成AIツールにおいて不可欠な「プロンプト」という壁だった。

 自由な対話から回答を引き出すAIは、個人のスキルによって活用の質に差が出やすく、それをハードルに感じる従業員も少なくない。自由度が高いからこそ、何を入力すればいいか分からないという壁にぶつかってしまうのだ。「SHIFTには幅広い年齢・バックグラウンドの従業員が在籍しており、従業員のニーズも多様化しています。高精度なアウトプットを実現できるプロンプトを作成するには、AIに関する知識や言語化スキルが求められるため、ユーザー側の大きな負担になっていました。生成AIツールを導入しても、活用が一部の層に限定されてしまっていたのが実情でした」とSHIFT 経営戦略部 DAAE部 藤原秀樹氏は話す。

 この課題を解決するために、プロンプトを意識せずに使いこなせる仕組みの構築を目指した。そして、ユーザーのプロンプト作成にかかる負担をなくし、ボタンの選択と必要事項の入力だけで業務を完結できる仕組みが考案された。こうして誕生したのが、ノープロンプト生成AIツール「天才くん」だ。約半年間の開発期間を経て社内展開された天才くんは、障がい者雇用チームの風景を一変させた。

天才くんのポータル画面。AIスキルがなくても、社員全員が使えて、各社・部署特有の業務ニーズに合ったツールを利用できる。

誰もが一定品質のアウトプットを出せる仕組みで
従業員の能力を拡張する

 天才くんの特長は、細分化された業務工程の一つひとつをツール化していることだ。ポータル画面には「業界調査」「企画書作成」「議事録要約」といった多種多様なツールが並ぶ。ユーザーは目的に応じたツールを選択し、ガイドに沿って必要な情報をフォームに入力するだけでAIによる一定品質のアウトプットを得られる。プロンプトを作成することなく、業務に必要な情報を埋めるだけで使用できるように設計されている。

 さらに、それぞれのツールに可愛らしいキャラクターをあしらい、「議事録要約作成くん」「ポジティブ変換さん」などといった名前をつけて擬人化して親しみやすくすることで、テクノロジーへの心理的障壁を排除した。この徹底したユーザーへの歩み寄りが、現場に想定以上の変化をもたらした。内田氏は「プロンプトを考える負担から解放されたことが、これほどまでに従業員の利用を促進するとは思いませんでした。天才くんはまさに従業員の能力を拡張させるツールだと感じています。大量の定型作業をAIが担うことを前提に業務を再設計し、従業員はAIが出したアウトプットをもとに判断する。生産性は1.7倍向上し、企画業務などより上流の業務にチャレンジする従業員も出てきました。アンケートでは7割以上が『自分の可能性が広がった』と回答しており、働き方にポジティブな変化を実感する従業員が増えているようです」と手応えを話す。

 もちろん、ツールの導入だけでAI活用が定着するわけではない。同社では徹底したユーザーヒアリングなどの人への寄り添いを大切にしている。現場メンバーから寄せられた「もっとこうしたい」という改善案や、「細部への気付き」を、ツールの精度向上やUIの改善に即座にフィードバックできる体制も整備した。こうした現場と共にツールを育てるという仕組みづくりが、AI活用の高い利用率につながっているのだ。

 こうした現場での劇的な成果は、業務改善という枠を超え、障がい者雇用の常識を塗り替える可能性を秘めている。「生成AIは全ての働く人にとって希望のテクノロジーといえます。生成AIを活用することで、誰もが自分の望むキャリアに向けて活躍できるようになり、障がい者雇用も、企業の成長に欠かせない戦力基盤へと変化していくと思います。当社の成功モデルを広く社会に提示することで、障がい者雇用の在り方を根本から変えていきたいと考えています」と内田氏は語った。