水道インフラは重要な生活基盤だ。大規模な漏水や断水が発生すると、大勢の人々に大きな影響が出てしまう。そのため老朽化した水道管は早く更新しなければならないが、物価の上昇や人手不足などの問題により、なかなか更新が進まない現状がある。この問題を放置すれば、漏水・断水だけでなく、道路陥没といった大事故が発生する可能性も出てくる。今回はデジタル技術を用いて水道管老朽化の課題解決に挑む、愛知県豊田市を取材した。
愛知県豊田市

愛知県のほぼ中央に位置する人口41万4,529人(2025年12月1日時点)の都市。国内最大級の球技専用競技場「豊田スタジアム」、黒川紀章氏が設計した「豊田大橋」、徳川家康と松平氏の始祖・松平親氏を祀る神社「松平東照宮」といった観光スポットのほか、トヨタ自動車の記念館「トヨタ鞍ヶ池記念館」、トヨタ自動車の企業展示館「トヨタ会館」も備える。
豊田スタジアムと豊田大橋 提供:豊田市クリエイティブ・コモンズ・ライセンス 表示4.0国際(https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/deed.ja)
新技術を活用して課題を解決
愛知県豊田市は、施設および水道管の老朽化に伴う漏水リスクの高まり、物価上昇に伴う管路更新費用の増大、現場の担い手の減少、人口減少や節水型社会の進展に伴う料金収入の減少といった「水道クライシス」の課題に直面していた。これを解決するために豊田市の上下水道局は、同市が策定した「豊田市デジタル強靭化戦略」に基づき、水道維持管理のデジタルトランスフォーメーション(DX)を行った。
豊田市総務部情報戦略課 副課長 神谷和磨氏は、豊田市デジタル強靭化戦略について以下のように説明する。「2020年ごろのコロナ禍の際、豊田市はデジタル技術を使った取り組みがなかなか行えていませんでした。また市民サービスや職員の労働環境についても、十分な整備が行えていない状況にありました。そうした中で、どこから取り組みを進めるべきかを明確にするため、2021年2月に第一次豊田市デジタル強靭化戦略を策定しました。そして市民サービス向上や、職員の労働環境の改善などに向けて取り組みを進めていきました」
続けて神谷氏は、豊田市デジタル強靭化戦略に基づいて行われた、水道維持管理に関する取り組みについてこう触れる。「戦略を策定する中で、もっと先を見ながら新しい取り組みをしていかないと、さまざまな課題に対応できないと考えていました。また、新しい技術を積極的に活用するという位置付けも定めていました。その位置付けに基づいた活動の一つとして、今回の水道維持管理に関する取り組みを、上下水道局の方々に行っていただきました」
プラチナ大賞を受賞した取り組み
本取り組みでは、人工衛星やAI、ビッグデータを活用して、水道の維持管理を“熟練者の経験に頼る事後対応型”から“AI予測とビッグデータ活用による事前対応型”に転換した。これにより持続可能な新たなモデルを構築し、水道クライシスに立ち向かったのだ。なお本取り組みはプラチナ構想ネットワークが行う、社会や地域の課題解決に向けた行政・企業などの取り組みを表彰する「プラチナ大賞」の第13回で、大賞・総務大臣賞を受賞した。
それでは、取り組みの内容を紹介していこう。同市が行ったことは主に四つある。まず一つ目は、衛星画像による「漏水エリア特定診断」だ。陸域観測技術衛星2号の「だいち2号」が放射した電磁波(マイクロ波)の画像を解析し、地中の水道管から漏水している可能性が高いエリアを、直径200mの範囲で抽出する。これまでの地表をくまなく歩いて漏水の音を聞き取る人海戦術の調査から、人工衛星とAIの解析で場所を絞り込む調査に変えることで効率化を行った。
二つ目は「AI劣化予測診断」だ。全市域3,695kmの管路データ、約5,400件の漏水修繕履歴データ、約1,000の環境要因をAIで解析し、同市の水道管における将来の破損確率を予測する。リスクの高い管路から更新する、データに基づいたアセットマネジメントを構築した。
三つ目は「AI空き家漏水予測」だ。過去20年間の家庭・各戸の水道検針データ(約2,400万件)の変化をAIに学習させ、2050年までの空き家を予測し、水道管凍結破損時の緊急漏水調査に活用する。また水道だけでなくガス・電気の使用量データも取り込むことで、5年後の空き家の的中精度を92%まで向上させた。これにより、水道管の凍結破損による大規模断水の防止だけでなく、都市政策上のさまざまな課題へも活用が期待できるようになったのだ。
四つ目は、凍結リスクの見える化だ。市民に向けた水道管凍結による漏水・断水への注意喚起として、人工衛星から取得したビッグデータ(地表面温度データ)を活用した「水道管凍結注意マップ」を作成・公開している。マップの公開と併せて水道管凍結の注意喚起チラシも配布し、市民への啓発を行っているのだ。

水道水が飲める当たり前を継続
豊田市上下水道局企画課 主幹 岡田俊樹氏は、これらの取り組みの成果を以下のように話す。「まず漏水エリア特定診断は、調査期間および調査費用を従来の10分の1に削減できました。次にAI劣化予測診断は、今まで熟練職員の経験に頼っていた優先順位付けを、客観的事実と環境要因に基づいて行えるようになりました。これにより、熟練職員がいなくても作業が可能になりました。また、ガス会社と同一区間で敷設替え工事を行うことで、舗装復旧費を660万円削減できています。そしてAI空き家漏水予測では、寒波による水道管の凍結破損の際、空き家予測を参考に調査を実施したところ、1時間半で漏水を見つけられました。過去の調査では2日半かかっていたので、大幅な時間短縮を行えています。水道管凍結注意マップは具体的な反響はありませんが、市民が平穏無事に生活できており、何も起こっていないことが何よりの評価だと感じています」
最後に岡田氏は、本取り組みを踏まえた同市の展望をこう語った。「今回導入した技術は、まだ100点満点のものではありません。さらなる新しい技術を求めて、今後も実証実験を進めながら、技術革新に寄与していきたいと考えています。日本は世界でも数少ない、水道水が安全に飲める国です。そんな当たり前を、今後も当たり前にしていきます」

