AI
日本企業のAI活用を支援するデルの取り組み
デル・テクノロジーズが4月25日に開催した記者説明会をリポートする。本記者説明会では、AI時代のITインフラストラクチャにおける最新アーキテクチャに加え、AI専門チームの新設やAIを活用した医療分野の最新ソリューションといったAIに関する同社の最新の取り組みが紹介された。
日本企業のAI活用を支援する
新しいアーキテクチャとAI専門チーム
デル・テクノロジーズ(以下、デル)は4月25日に行われた記者説明会にて、AI時代のITインフラストラクチャにおける最新アーキテクチャとして「分離型ストレージ アーキテクチャ」を提唱した。さらに本記者説明会では、同社のAIに関する最新の取り組みとして、AI専門チームの新設も発表された。今回は前述の内容と共に、2024年9月25日に大手町本社に開設したAIソリューションの実践や検証ができる施設「Solution Center AI Innovation Lab」(以下、AI Innovation Lab)に展示されている、AIを活用した医療分野の最新ソリューションを紹介していく。
AI時代のITインフラストラクチャとして
分離型ストレージ アーキテクチャを提唱
AI活用におけるデータセンターの課題は三つ挙げられる。一つ目が、コストの増加だ。AI処理に伴う電力消費量の増加がデータセンターの運用コストの増大につながっている。二つ目が、複雑化する運用だ。水冷技術をはじめとした新しい技術や常にアップデートを続ける最新のAI技術を導入することが、運用の複雑化を加速させている。三つ目が、サイバー攻撃の増加だ。生成AIを悪用することでランサムウェアの作成が容易となり、サイバー攻撃の被害が増加してしまっている。
上記の課題に加え、ITに関わる人材不足の課題も深刻化している中、こうした課題を解決するためのキーワードとしてデル 執行役員 インフラストラクチャー・ソリューションズSE統括本部長 森山輝彦氏は、シンプル化とモダナイズをキーワードとして挙げる。「エネルギー効率の優れたITインフラストラクチャを提供するだけでなく、提供するITインフラストラクチャにAI技術を組み込むことで運用のシンプル化を図っていきます。さらにゼロトラストセキュリティに基づくデータ保護を実現する製品の開発・提供も行ってきます」(森山氏)
また森山氏は「AI時代において、今稼働しているミッションクリティカルな既存ワークロードを支えつつ、AIやエッジといった新しいワークロードにも取り組まなければなりません」と指摘する。そこで同社が提唱したのが、「分離型ストレージ アーキテクチャ」だ。「今までのストレージの動向として、10年ほど前はサーバー・ストレージ・ネットワークの3層構造のアーキテクチャが主流でした。3層構造のアーキテクチャはオープンで柔軟性の高いITインフラを実現していた一方で、構成や運用管理の複雑化が問題となっていました。こうした問題を解決するためにHCIが主流となりました。しかしHCIはシンプルな構成であるものの、ベンダーロックインのサイロ化をもたらしてしまいました。こうした課題に加え、HCIにおいてサーバー・ストレージ・ネットワークのいずれかを増やしたい場合、そのほかの不必要なリソースも増やさなければなりません。AI時代において、お客さまのニーズによってはコンピュートとストレージのバランスが極端に異なるケースも多くなってきています。今後、AIの活用がますます進み、今まで以上にデータの量が必要とされるとき、HCIでは限界が来てしまいます。こうした課題に対応できるアーキテクチャとして、分離型ストレージ アーキテクチャを提唱しました」と、森山氏は分離型ストレージ アーキテクチャを提唱した背景について語る。
分離型ストレージ アーキテクチャは、HCIのソリューションで培ったシンプルな運用管理と3層構造におけるリソースの柔軟性を両立させたアーキテクチャとなっている。この分離型アーキテクチャに関する詳細は、2025年5月19~22日に開催される「Dell Technologies World 2025」でアナウンスされるという(執筆時点)。

執行役員
インフラストラクチャー・ソリューションズSE統括本部長
森山輝彦 氏

UDS営業本部 本部長 兼
AI事業推進部長
五十嵐修平 氏

カスタマーソリューションセンター
シニアソリューションアーキテクト
田中千恵 氏
日本企業のAI活用を支援する
AI専門チームを新設
「当社が最も重要視しているのはデータです。お客さまがAIを活用してデータの価値を最大限に引き出し、新規事業の創出や業務効率化ができるように支援しています。また自社を『AIの実験所』と位置付け、製品の開発や営業事務、サポート業務などにおいてAIを積極的に活用しています」とデル UDS営業本部 本部長 兼 AI事業推進部長 五十嵐修平氏は、同社のAI戦略について語る。
そうした取り組みの一つとして、同社は「Dell AI Factory」を推進している。Dell AI Factoryは、企業AIの迅速な導入や展開に必要なデータ、サービス、オープン・エコシステム、インフラストラクチャ、ユースケースを提供することで、企業のAI導入を促進させるフレームワークだ。「今までDell AI Factoryは主にグローバル市場や大手企業を中心に展開してきました。今後日本のお客さまにより使いやすく分かりやすい形で提供していくためには、製品群を日本語化するだけでは不十分です。そこで日本独自の文化やニーズを理解した営業チームやSEチーム、コンサルティングチームといったデル社内の有識者を集めたAI専門チームを新設しました」
このAI専門チームは、日本の顧客がAIを活用してデータの価値を最大化できるように、AIソリューションの開発やグローバルのAIソリューションのローカライズに加え、グローバルのAI専門チームと連携し、社内やパートナー企業に国内外のAI事例を共有する。
「当社の製品の技術力は今後ますます発展していきますが、そうした技術も使われなければ意味がありません。新設したAI専門チームの力を使い、お客さまのAI活用を支援していきたいですね」と五十嵐氏は展望を語った。



病理医にかかる負担を軽減する
医療分野における最新ユースケース
本記者説明会では、AI Innovation Labにて最新のユースケースの紹介も行われた。AI Innovation Labでは、小売業・医療・製造業・金融業・スマートシティの五つの主要産業向けのAIソリューションを展示している。またデータセンター内で稼働するワークロードの検証支援を目的とし、実機を活用した検証を行っている。AIワークロードに対応したGPUを複数搭載可能なサーバーも設置されており、AIソリューションの実証も支援可能だ。デル カスタマーソリューションセンター シニアソリューションアーキテクト 田中千恵氏は「AI Innovation Labは開設以来、200社以上のお客さまやパートナー企業さまが利用し、来場者数はのべ1,800人以上に上りました」と、実績をアピールした。
医療分野における最新ユースケースとして、病理医向けの画像管理プラットフォーム「Pantheon」のデモが行われた。病理医は組織や細胞などを観察することで疾病を特定するが、病理医の人材不足などに伴い負担が大きくなっている。Pantheonはこうした病理医の負担を軽減できるのだ。Pantheonに内蔵されたAIは、疾病のリスクが高い箇所に色を付けて表示する。さらに病巣画像の回転やズームはタッチ操作で直感的に行えるため、病理医の作業効率を向上させられるのだ。また病理医は1病院に所属している人数が少ないため、セカンドレビューを依頼する際には遠方の病院にいる病理医に依頼する必要がある。Pantheonはセキュアに患者の情報を送信することが可能なため、セカンドレビューを安全に行え、診断の質を高められるのだ。