Partner Strategy
日本企業におけるクラウドの活用を促進

アマゾン ウェブ サービス ジャパンが5月8日に実施した2025年のパートナー戦略についての記者説明会では、生成AI、マイグレーション・モダナイゼーション、AWS Marketplace、人材育成の四つの分野に注力することが語られた。

四つの分野における取り組みを推進し
クラウドのメリットを業種や地域を問わずに届ける

アマゾン ウェブ サービス ジャパン(以下、AWSジャパン)は5月8日に、2025年のパートナー戦略についての記者説明会を実施した。本記者説明会では、2025年のパートナー戦略として、生成AI、マイグレーション・モダナイゼーション、AWS Marketplace、人材育成の四つの分野に注力することが発表された。今回はそうしたAWSジャパンが注力する各分野における最新の取り組みや成果を見ていこう。

パートナー企業のビジネス拡大と
システム開発の効率化を生成AIで支援

アマゾンウェブサービスジャパン
常務執行役員
パートナーアライアンス事業統括本部長
渡邉宗行

 まずは生成AIの分野における取り組みを見ていこう。AWSジャパンでは、三つのレイヤーで生成AIテクノロジーを提供している。一つ目のレイヤーが、AIモデルの構築・学習させるためのインフラストラクチャだ。データの準備から前処理、モデルの開発、学習まで、幅広い機能を提供するフルマネージド型の機械学習サービス「Amazon SageMaker AI」やAWSが開発した機械学習トレーニングに特化したプロセッサー「AWS Trainium」、AWSが開発した機械学習モデルの推論に特化したプロセッサー「AWS Inferentia」などを提供している。

 二つ目のレイヤーが、生成AIアプリケーションを構築するためのモデル・ツールだ。生成AIアプリを作成できるサービス「Amazon Bedrock」を提供している。Amazon Bedrockでは現在九つの基盤モデルを提供しており、ユーザーはニーズに即したモデルを選択可能だ。

 三つ目のレイヤーが、生産性を向上させるアプリケーションだ。生成AIアシスタントサービス「Amazon Q Business」やアプリケーション開発を支援する生成AIアシスタント「Amazon Q Developer」を提供する。

 またAWSジャパンではパートナービジネスにおける生成AIを、パートナー企業の売り上げを伸ばすための「ビジネスのための生成AI」とパートナー企業のシステム開発を効率化するための「生産性向上のための生成AI」に分類している。

 ビジネスのための生成AIにおいてAWSジャパンが注力するのが、AWSを活用した生成AIの高度なスキルを持つパートナーを認定する「生成AIコンピテンシー」だ。同社 常務執行役員 パートナーアライアンス事業統括本部長 渡邉宗行氏は「現在日本のパートナー企業さまでは、野村総合研究所さまとアイレットさまが認定を受けています。より多くのパートナー企業さまに認定を取得してもらい、生成AIコンピテンシーが専門性の指標となるように技術支援を展開していきます」と展望を語った。

 生産性向上のための生成AIにおいて中心となるのが、Amazon Q Developerだ。アプリケーションの設計から開発、テスト、運用まで包括的に支援することで、システムライフサイクル全体の効率化を実現するという。

 渡邉氏は「昨年まで生成AIはPoC段階が中心だと言われていました。しかし現在、生成AIはすでにビジネスの中心に組み込まれています。生成AIの利用の有無は競争力の差につながるため、パートナー企業さまも積極的に生成AIを活用してもらいたいですね」とメッセージを送った。

移行の事前準備から運用まで支援し
顧客のモダナイゼーションを促進

 続いてマイグレーション・モダナイゼーションの分野における取り組みを見ていこう。AWSジャパンでは、AWSへの移行を総合的に支援する「AWS ITトランスフォーメーションパッケージ」(以下、ITX)を用意している。ITXはAWSへの移行に向けた事前のアセスメントや意思決定支援、計画立案、移行実施、運用までの一貫した支援をパッケージとして提供し、顧客のモダナイゼーションを支援する。さらに、パートナー企業が提供している移行プログラムとITXを組み合わせた「AWS ITトランスフォーメーションパッケージ for MCPパートナー」(以下、ITX for MCP Partner)の提供も行っている。ITX for MCP Partnerを活用することで、パートナー企業が顧客にシームレスな移行提案ができるようにしている。「お客さまのクラウド移行の契機として、システムの機能や拡張性の向上を目的としたメインフレームからの移行やライセンス体系の変更に伴うVMware環境からの移行、2027年に標準サポート終了が迫るSAP ERP 6.0からの移行などが挙げられます。さらに多くのパートナー企業さまにITXを活用してもらい、顧客のクラウド移行を推進していきたいですね」と渡邉氏は意気込みを語る。

 次に「AWS Marketplace」の分野における取り組みを見ていこう。AWS Marketplaceとは、AWS上で利用可能なサードパーティ製のソフトウェアを検索、テスト、購入、デプロイ可能なデジタルカタログだ。顧客は幅広い製品から導入するソフトウェアを選択できるのに加え、購入したソフトウェアの料金はAWSの利用量と合わせて支払うことが可能だ。ソフトウェアの調達にかかる手間を削減できる。

 AWS Marketplaceの国内展開を強化するため、2024年10月に日本円・日本銀行での取引に、2025年4月に日本の税制対応に対応した。そして2025年5月には、製品情報の日本語化が完了する予定となっている。「こうした対応を受け、今後当社では日本のISVやSI企業さまがAWS Marketplaceに参加しやすくなるように技術支援を行っていきます。また当社とパートナー企業さまとの共同提案を加速させ、個別見積もりといった日本市場に最適なモデルを構築します。さらに日本の企業さまは海外の企業さまに比べてSI企業さまへの依存度が高いため、ユーザー企業さまとSI企業さまのマッチングも手がけていきます」(渡邉氏)

Amazon Bedrockでは、アマゾン ウェブ サービスの独自開発モデル「Amazon Nova」に加え、AI21 Labsが開発した「Jamba」やMetaの「Llama」といったサードパーティー製のモデルを含めた、九つの基盤モデルを提供している。
AWSが提供しているパートナー企業向けのトレーニングマップ。青色がグローバル共通のコンテンツ、ピンク色が日本独自のコンテンツとなっており、日本のパートナー企業に適したコンテンツが多く提供されていることが伺える。

資格とトレーニングの拡充により
日本におけるクラウドの普及を促進

 最後に人材育成の分野における取り組みを見ていこう。「日本では76%のIT人材がIT企業にいるため、パートナー企業さまのITスキルを向上させなければ、日本におけるクラウド普及は進まないでしょう」と渡邉氏はAWSジャパンが人材育成を重視する背景について語る。

 また近年生成AIの活用が進む中、クラウドスキルが求められる領域がインフラからアプリケーションに移り変わり、さらにAIやデータ、セキュリティといったより専門的なトレーニングが求められている。こうした背景を踏まえ同社では、AI/ML関連の基礎的な資格「AWS Certified AI Practitioner」とAI/ML関連の中級者向けの資格「AWS Certified Machine Learning Engineer - Associate」といった新たな認定制度を導入した。

 加えて、グローバル共通コンテンツと日本独自の実践的なトレーニングを組み合わせたトレーニングマップを構築している。その中でもオンライン学習プラットフォーム「AWS Skill Builder」は、日本で作成されたコンテンツを含め600以上のコンテンツを用意している。今後AWSジャパンではAWS Skill Builderで提供されているコンテンツを日本全国に広げることによる日本全体のITスキルの向上を図るべく、AWSに関するトレーニングを提供する認定パートナー「AWSトレーニングパートナー」との連携を深めていくという。

 また企業の内製化支援にも注力している。企業の内製化を支援するための専門的なソリューションを提供するパートナー向けプログラム「内製化支援推進 AWS パートナー」の参加企業が、10社から42社に拡大している。生成AIの活用支援サービスや導入支援サービスといった新たな取り組みも開始しており、今後もパートナー企業と共に人材育成と内製化支援を強化するという。

 渡邉氏は「四つの領域におけるパートナー企業さまとの取り組みを通じ、あらゆる業種や地域、規模のお客さまにクラウドのメリットを届けていきます」と総括した。