インターネットが切断された環境でも
パブリッククラウドと同等の使用感を実現

6月12日、日本ヒューレット・パッカード(以下、HPE)は、デジタル主権を確保でき、サイバーセキュリティの要求に応える「ソブリンクラウド」を実現するソリューションの提供を開始した。本記事ではHPEがソブリンクラウド対応ソリューションの提供を開始する理由や、HPEが考えるデジタル主権の重要性、そしてソリューションの特長について、記者発表会で語られた内容を紹介していく。

エアギャップ型プライベートクラウドを提供開始

日本ヒューレット・パッカード(以下、HPE)は6月12日に、ソブリン対応プライベートクラウドに関するオンライン発表会を開催した。本記事ではHPEがソブリン対応プライベートクラウドの提供を開始する目的と、データ主権のニーズに応えるソリューションの特長について紹介する。

AI活用がクラウドの
ハイブリッド構成のニーズを加速

 会見の冒頭では、HPE 執行役員 ハイブリッドソリューションズ事業統括本部長 吉岡智司氏が登壇した。吉岡氏は、近年のクラウドの使用ニーズについて「クラウドの使われ方は大きく変化しています。昔はパブリッククラウド上に業務システムを乗せる傾向が強かったのですが、近年は業務プロセスの一部のワークロードを一度プライベートクラウドに持っていき、またパブリッククラウドに戻すようなハイブリッドな使い方のニーズが増えています。このニーズの高まりの背景には、プライベートクラウドにワークロードを持ってきて処置を行うことの有益性があります」と話す。

 続けて吉岡氏は、プライベートクラウドでワークロードを動かすニーズを加速させているのがAIだと語る。「AIモデルを作るには、AIファクトリーのような大規模な環境が必要です。一方、推論を重ねるAIの領域では、さまざまな自社データを含めることもあり、手元で作業をする流れができています。そのためAI活用では、ハイブリッド環境でパブリッククラウドとプライベートクラウドを行き来することが行われているのです。こうした行き来が非常に増えている関係で、プライベートクラウドにワークロードを持ってくる需要が増加しています」

 こうしたニーズが増加する中、同社は2022年6月に、パブリッククラウドの体験をプライベートクラウドで実現可能な「HPE Private Cloud Enterprise」を発表した。吉岡氏は本サービスについて「HPE Private Cloud Enterpriseにより、ユーザーもIT部門も透過的にプライベートクラウドへアクセス可能な環境ができあがりました」と強調する。

 さらに同社は、2024年6月にはAIターンキーソリューション「HPE Private Cloud AI」、2024年11月にはハイパーバイザー「HPE VM Essentials」を発表した。吉岡氏は「こうした流れをくんで、今一番ホットな要望であるエアギャップ型のプライベートクラウドを発表するに至りました」とソブリン対応プライベートクラウドの提供背景を話す。

吉岡智司
HPE 執行役員 ハイブリッドソリューションズ事業統括本部長 吉岡智司氏はグラフを提示しながら「プライベートクラウドにワークロードを持ってくる需要が増えています」と近年のニーズを解説する。

レジリエンス確保のためには
デジタル主権の考え方が重要

 続いて登壇したHPE ハイブリッドソリューションズ事業統括本部 GreenLakeソリューションビジネス本部 ビジネス開発部 担当部長 酒井 睦氏は、デジタル主権を語るに当たり「皆さんご存じの通り、今は多くの組織において重要なインフラのレジリエンス確保が叫ばれています。特に国防関連、政府・自治体・公共、エネルギー、医療・ヘルスケア、金融サービス、製造・重工業といった業種は、業務とデータが緊密な関係があるため、レジリエンス確保の需要が非常に高まっています。そして確保の際に必要になる考え方が、デジタル主権です」と切り出す。

 酒井氏は、デジタル主権には三つの主要素があると語る。まず一つ目の要素は「データ主権」だ。データがどこに保存されどう移動するか、どのように共有されるか、誰がアクセスできるか、および関連するプライバシー制限を管理する能力のような、データそのものに対しての主権を指す。二つ目は「運用主権」だ。環境を誰が運用するか、データがどこに保存されるか、リモートアクセスが許可されるか、運用がどのように監査されるか、さらには同様の懸念事項を決定する能力といった、データの運用を主権として把握することを指す。そして三つ目は「技術主権」だ。ソリューションを構成する基礎のテクノロジーを誰が所有しているかなど、自社が持っている技術を把握し、その技術を自分たちでコントロールできるかといった能力を指す。「デジタル主権を確保することは、レジリエンスの確保やサイバーセキュリティにつながります」(酒井氏)

 業務とデータが緊密な関係にある業種においては、デジタル主権を確保するために、エアギャップ型のオンプレミスクラウドのニーズが高まっている。酒井氏は「インターネットを完全に遮断しながらも、パブリッククラウドの利便性を皆さまにお届けするプライベートクラウドのソリューションを、当社は提供します」と今回発表するソリューションをアピールする。

酒井 睦
HPE ハイブリッドソリューションズ事業統括本部 GreenLakeソリューションビジネス本部 ビジネス開発部 担当部長 酒井 睦氏は「レジリエンスの確保にはデジタル主権が必要になってきます」と話す。

エアギャップ環境においても
パブリッククラウドの体験を提供

 今回HPEが発表したのが、インターネット非接続のエアギャップ型オンプレミスプライベートクラウド「HPE Private Cloud Enterprise with disconnected management」と、認定パートナーが運用を担う「HPE Private Cloud Enterprise for sovereign environments」だ。両製品は共に6月12日より販売を開始する。HPE ハイブリッドソリューションズ事業統括本部 GreenLakeソリューションビジネス本部 ビジネス開発部 シニアカテゴリーマネージャ 山崎浩之氏は、これらのソリューションについて以下のように語る。「新しく販売開始する2製品は、HPE Private Cloud Enterpriseをベースにしています。今までHPE Private Cloud Enterpriseは、インターネットアクセスが前提になっていました。しかし実際には、インターネット接続ができなくても、パブリッククラウドのエクスペリエンスが欲しいというニーズが非常に高かったのです。それに応えるために、当社はエアギャップ型のHPE Private Cloud Enterpriseをリリースしました」

 改めてHPE Private Cloud Enterpriseには、主に三つの特長がある。まず一つ目は「パブリッククラウド感覚」だ。本ソリューションは、パブリッククラウドのポータルと同じように扱える「セルフサービスポータル」を標準搭載している。このポータルにより、顧客は自らリソースを自由に使っていけるのだ。二つ目は「インフラ運用からの解放」だ。本ソリューションで使用する機器のメンテナンスなどは、全てHPEがリモートで実施する。顧客自身で運用していく必要がないのだ。三つ目は「安心のプライベートクラウドサービス」だ。パブリッククラウドと同じ使い勝手ながらも、顧客はプライベートクラウドとしての安全性をしっかり享受可能だ。こうした特長を持つHPE Private Cloud Enterpriseを、インターネット接続が不可な状況でも活用できるようにしたのが、今回発表した二つのソリューションとなる。

 HPE Private Cloud Enterprise with disconnected managementは、顧客の敷地内で全てを完結させるフルマネージドソリューションだ。本製品では顧客の敷地内にHPEの担当者が常駐し、システムの運用を行っていく。メンテナンスやアップデートも現地のHPE担当者が実施することで、インターネットから切断された環境でも、パブリッククラウドと同じ使い勝手を実現するのだ。

 HPE Private Cloud Enterprise for sovereign environmentsは、定義された地理的領域内の中で全てを完結させるフルマネージドソリューションだ。本製品では、システムを運用するのはソブリンクラウドのサービスプロバイダーとなる。HPEはベースの機器や仕組みなどの提供のみを行う。ソブリンクラウドのサービスプロバイダーが、自社のソブリンクラウドサービスとして提供していくソリューションとなるのだ。

 会見の最後で山崎氏は「今回発表したソリューションは両方とも、さまざまなセキュリティガイドラインや規格に準拠した設計ができています。どんどん進化していくソリューションになっているので、幅広くいろいろな法案に対応できると考えています」と両製品の強みを語った。

山崎浩之
提供を開始する二つのソリューションの特長を語るHPE ハイブリッドソリューションズ事業統括本部 GreenLakeソリューションビジネス本部 ビジネス開発部 シニアカテゴリーマネージャ 山崎浩之氏。