金融機関のデジタル変革を加速させる
富士通の新たな市場戦略

1970年代から約50年間、金融システムに取り組んできた富士通は、6月3日に行われた記者説明会にて、金融機関のデジタル変革を支援する市場戦略を「Uvance for Finance」として体系化することを発表した。Uvance for Financeにおいて中心となるソリューションは、勘定系ソリューション「Fujitsu Core Banking xBank」と店舗ソリューション「Digital Branch」である。今回はこれら二つのソリューションの特長を中心に、富士通の金融機関向けの市場戦略について紹介していく。

金融機関のデジタル変革を支援する市場戦略

富士通が6月3日に行った記者説明会では、金融機関のデジタル変革を支援する市場戦略の中心となるソリューションとして、勘定系ソリューション「Fujitsu Core Banking xBank」と店舗ソリューション「Digital Branch」が紹介された。

社会環境の大きな変化に伴い
金融機関向けソリューションを体系化

八木 勝
富士通
執行役員常務
八木 勝

 金融を取り巻く社会環境は近年大きく変化している。具体的には、キャッシュレス化や業務プロセスの自動化といった金融業務におけるデジタル化の進展に加え、非金融事業者が自社サービス内に金融サービスを組み込んで提供する「組み込み型金融」の取り組みが拡大している。また2024年3月に日本銀行が2016年から続いていたマイナス金利政策を解除し、17年ぶりに金利の引き上げを行ったことで、日本は「金利のある世界」への転換を図ることとなった。富士通 執行役員常務 八木 勝氏はこうした社会環境における変化に対し「ビジネスのやり方そのものと、それを支えるシステムの双方を進化させる必要があります。それに伴い、システムの重要性がこれまで以上に高まっています」と話す。

 こうした状況を受け、富士通は事業モデルと事業ポートフォリオの変革を通じてサービスビジネスへのシフトを図り、金融機関のデジタル変革を加速させ、社会課題解決に貢献する新たな市場戦略を策定した。この戦略では、信頼性の高い勘定系・店舗ソリューションを継続的に進化させるとともに、そこから得られるデータを活用することで、人々の生活を豊かにするスマートソサエティの実現を目指している。その実現に向け、同社は長年にわたり培ってきた金融業務ノウハウや、社会課題を起点とした「Fujitsu Uvance」の先進的なオファリング、そしてAIといった最新テクノロジーやオープンアーキテクチャーを結集し、「Uvance for Finance」として新たに体系化し提供している。

 Uvance for Financeにおいて、今後継続的に進化させていく主要なソリューションは、勘定系ソリューション「Fujitsu Core Banking xBank」(以下、xBank)と、店舗ソリューション「Digital Branch」だ。

業務機能単位ごとにサービスとして独立
必要な機能だけを選択して導入可能

 xBankは、従来の勘定系システムが抱えていた柔軟性や拡張性の課題を解決する、クラウドネイティブな勘定系ソリューションとなっている。本ソリューションは、2018年より開発が行われてきた「FUJITSU Banking as a Service」をソリューションパッケージ化したものであり、5月6日にはソニー銀行の新勘定系システムとして稼働を開始している。

 xBankには三つの特長がある。一つ目は、軽量性だ。xBankはマイクロサービスアーキテクチャーを採用したことで、ソニー銀行の事例ではこれまでの銀行勘定系システムと比べ、約60%の資産規模削減を実現している。資産規模の削減により、保守や追加開発の効率化につなげられるのだ。一般的なマイクロサービスは非同期処理を基本とするものの、勘定系システムではデータの信頼性と整合性を保証する「ACID特性」が不可欠であり、その実装方法には課題があった。しかし、xBankでは、普通預金から定期預金への振替における資金移動のようなデータの一貫性保証が必要な処理を見極め、銀行業務のトランザクション単位でAPI化する独自の仕組みを採用している。これにより、必要な箇所で同期性を担保し、マイクロサービスのデメリットを克服している。この技術は特許出願済みとなっているという。

 二つ目は、業務機能単位でサービスとして独立している点だ。顧客は必要な機能だけを選択して利用したり、複数の機能を組み合わせて使用したりすることが可能だ。例えば、既存のシステムにない外貨預金機能のみを補う形で導入したり、円預金やデビット決済、カードローンなど全ての機能を利用したりできる。これにより、ビジネスの成長に合わせて段階的にサービスを拡張できる柔軟性を有している。また、料金体系は、部分的な活用に応じた価格設定がなされる。

 三つ目は、オープンAPI機能を備えていることだ。これにより、外部サービスとの連携が容易になっている。八木氏は「xBankという名称には、これからの金融サービスの広がりを支えるため、内部・外部のAPIを掛け合わせ、さまざまな業種やサービスと組み合わせたり連携したりしやすいソリューションとなるように、という思いが込められています」と、xBankに込めた思いについて語っている。

 xBankはまた、AIドリブンな開発・保守も見据えている。ソフトウェア資産や開発資産、さらには金融法令や各銀行の個別要件といった情報を、富士通のAIプラットフォームである「Fujitsu Kozuchi」や同社の大規模言語モデル「Takane」に学習させている。そうすることで、金融法令改定対応や各銀行の個別要件対応におけるアプリケーション保守作業の効率化と品質向上の最大化につなげていくという。八木氏は「すぐに成果が出るとは思っていませんが、AIとしっかり向き合って、ソフトウェア開発・保守の場面においても、AIの徹底活用をしていきたいと考えています」と、挑戦的な姿勢を見せた。

トランザクション単位でAPI化する独自の仕組み

ハードウェア事業からは撤退
ソリューションに経営資源を集中

 Digital Branchは、オムニチャネル化と業務効率化を推進するソリューションだ。富士通が開発した金融機関向けの営業店システム「Financial Business Components」を中核に、フロント領域のソリューションをクラウド化することで、営業店のシステムのオムニチャネル化を支援する。これにより、リアル店舗での対面手続きに加え、スマートフォンやタブレットを通じた事前手続きや事後手続きにも対応し、顧客はオンラインとオフラインのチャネルを問わず、最適なタイミングでサービスを受けられるのだ。八木氏は「Digital Branchによって、非対面と対面のシームレスな連携と業務効率化を実現していきます。さらにクラウド上に金融取引といったさまざまなデータを集約し、AIを活用することで、データドリブンな金融ビジネスを実現する支援を行っていきます」と今後の展望について語った。

 本記者説明会の最後には、富士通製ATMおよび営業店専用ハードウェアを提供終了することが発表された。提供は2028年3月末をもって終了し、保守サポート期限は最長で2036年3月末までとなる。これに伴い、富士通はATMおよび営業店専用ハードウェアの調達に関して、沖電気工業と基本合意を締結した。これにより今後富士通は、沖電気製のハードウェアに、富士通のソフトウェアを組み合わせて金融機関向けに提供することになる。コンビニエンスストア向けATMについても、ソリューションに最適なハードウェアを選定し、展開していく方針だ。八木氏はこの決定について、次のように語った。「キャッシュレス化の進展によりATMの需要が減少しています。当社がサービスソリューションに事業ポートフォリオをシフトする中で、金融専用ハードウェアに限定されず、顧客のニーズに合った適切なデバイスとソフトウェアを組み合わせて提供していきます。これにより、経営資源をソリューションに集中させ、金融機関への貢献を最大化してきます」