リモート接続によるサポートからその先へ
リモートワークが普及し、DX(デジタルトランスフォーメーション)が加速する現代において、遠隔接続技術はビジネスに不可欠なものとなっている。ドイツ発のテクノロジーベンダーであるTeamViewerは、その核となるリモート接続技術を基盤とし、単なるITサポートの枠を超え、現場作業支援やデジタル従業員体験の向上といった幅広いソリューションを提供することで、企業が直面する多様な課題解決に貢献している。
今回は、TeamViewerの日本法人代表取締役社長の古田哲也氏とチャネルアカウントディレクターの鈴木仁氏に、同社の強みや多岐にわたるユースケースなどについて話を聞いた。
TeamViewerの歩みと製品ラインアップ

TeamViewerは、2005年にドイツのゲッピンゲンに本社を設立し、リモート接続技術のパイオニアとして成長してきた。日本では2018年に東京オフィスを開設し、国内市場での展開を本格化させている 。
同社は、技術基盤である「コネクティビティ・プラットフォーム」をベースにビジネスを展開しており、近年では戦略的な買収を通じてそのソリューション範囲を大きく広げているのが特徴だ。
同社の製品ラインアップは、主に以下の4つのソリューションとなる。

TeamViewer Remote
創業以来の中心事業であり、ITおよびOT(オペレーショナルテクノロジー)サポートに広く利用されている。PC、モバイルデバイス、タブレットなどのIT機器だけでなく、産業機械、医療機器、複合機といったOT機器の遠隔操作・管理も可能だ。鈴木氏は「Remoteは年間のサブスクリプション費が数万円~と、個人から中小企業まで幅広いお客さまにご利用いただけます」と語る。
TeamViewer Tensor
TeamViewer Remoteのエンタープライズ版と位置づけられる製品で、大企業や大規模な産業機械のサポートに特化しており、より高度なセキュリティ機能やIoT機器向けの組み込みモジュールなどを備えている点が特徴だ。鈴木氏は「Tensorになると数百万円から、場合によっては数千万円といった費用がかかりますが、エンタープライズ環境で求められる高度なセキュリティ要件を満たします」と説明する。
TeamViewer Frontline
2018年にスマートグラスを通じて現場作業員の仕事を支援するソリューションを持つUbimax社を買収。これにより、ITサポートに留まらない現場支援分野への進出を果たした。スマートグラスに特化した現場作業支援ソリューションである。
TeamViewer DEX
2024年末に、従業員のデジタル体験(DEX)の管理・最適化を目指す1E社を買収。リモート接続の延長線上で、エンドポイントの管理や自動修復、従業員満足度向上に貢献するソフトウェアである。

セキュリティと操作性がTeamViewerの強み

TeamViewerが市場で高く評価される理由には、その高いセキュリティとスムーズな操作性が挙げられる。
まずはセキュリティ面について。リモート接続はセキュリティホールになりやすい技術であるため、TeamViewerは強固なセキュリティ対策を講じている。マスターサーバーによる厳格な認証方式を採用し、数多くのセキュリティ認証を取得している 。鈴木氏は「IDとパスワードさえわかっていればハッキングされてしまう可能性が出てくるため、企業によってはリモートアクセス製品の使用を禁じているケースもあります。我々は、お客さまに安心して利用いただくために、どのようなセキュリティを施しているかをトラストセンターで公開しています」と説明する。

もう1つ軽快な動作については、「多くの製品が認証サーバーを介して通信を行うのに対し、TeamViewerは認証が確立された後は端末同士でP2P(ピアツーピア)通信を行います。これにより、アーキテクチャ的に動作が非常に軽いのが特徴です」と鈴木氏は語った。この軽快な動作は、特に動画視聴時などにその差が顕著に現れるという。
実際にデモを拝見したが、接続先のTeamViewer IDを指定してパスワードを入力すると、すぐに接続される。接続先のデスクトップがそのまま表示され、マウスやキーボード操作で遠隔での確認・操作が可能だ。

リモート接続のソリューションとしては、例えば「Teams」ではWindowsを再起動すると再ログインが必要だが、TeamViewerはOSレベルでの完全な操作権限を設定できるため、ユーザーがその場にいなくても復旧作業を完遂できる。
「動作が軽いため全画面表示ボタンを押して作業をすれば、遠隔地から操作しているとは思わない操作感になります」と鈴木氏は語る。コロナ禍には、リモートワークのインフラとしてTeamViewerが広く活用されたという。「自宅やカフェから会社のPCにアクセスし、画面をミラーリングすることで、セキュリティ上のリスクを低減しつつ、会社のアプリケーションやデータに安全にアクセスできます。秘匿性の高い情報を扱う金融機関や学校などでは、現在も大規模な導入事例があります」と鈴木氏は語った。
リモート接続の可能性を広げる多様なユースケース
どのような課題を抱えている企業が、TeamViewerを導入するのか。最も多いのが、希少なリソースである専門家を各拠点に常駐できず、つど派遣するにも時間とコストがかかっているような企業だ。熟練労働者が不足し少子高齢化に伴って専門家も減少しており、TeamViewerの活用はこれらの課題に非常にマッチしている。
またスマートフォンやスマートグラスのカメラ映像を遠隔地の専門家と共有し、AR(拡張現実)で指示を出すことができる「Assist AR」機能を活用することで、現場のスタッフに的確な指示も可能だ。「例えば、現場の作業員がスマートフォンで状況を映し出し、遠隔地の専門家がその映像に矢印などで指示を出したり、ドキュメントを共有したりすることで、よりスピーディに作業を遂行したり問題を解決できます」と鈴木氏は説明する。


これにより、電話や写真のやり取りだけでは伝えきれない複雑な作業も効率的に支援可能である。スマートフォンがあればコストを抑えてAssist AR機能を利用できる。もし両手が塞がる作業ならスマートグラスを用いたTeamViewer Frontlineを利用するといった使い分けも可能だ。
さらにTeamViewerのリモート接続技術は、ITサポートに留まらず、多岐にわたる分野で活用されている。
例えば、「無人アクセス」機能により、デジタルサイネージや複合機など、無人のデバイスも遠隔地から管理・操作ができる。これにより、広告の稼働率管理や複合機のメンテナンスモード操作などが可能となり、現地への出張コストや時間を大幅に削減できる。
また、データセンターに設置された基幹システムなどの開発や保守においても、TeamViewerは活用されている。「通常、データセンターのサーバーにアクセスするには厳重な認証が必要ですが、TeamViewerのような高セキュリティの遠隔接続機能を使えば、外部SI企業のSEがデータセンターに物理的に常駐する必要がなくなります。これにより、コスト削減とSEの効率的なリソース活用が実現できます」と鈴木氏は語った。
TeamViewer DEXによるリアルタイム監視が企業を守る

同社が近年特に注力しているのが、従業員のデジタル体験(DEX)の管理・最適化だ。鈴木氏は、現代企業が抱える課題として「パソコンが仕事をする上で不可欠なデバイスツールであるにもかかわらず、故障やソフトウェアの稼働停止、ITポリシーからの逸脱といった問題が頻繁に発生します」と語る。これにより、エンドユーザーは使い勝手に困り、ITサポートデスクは増え続ける問い合わせやチケットの対応に追われている。ガートナーの調査では、PCが思い通りにならないという理由で退職を考えた従業員が4割に上るというデータもある 。
TeamViewer DEXは、すべての端末にモジュールを導入することで、PCの状態をリアルタイムで監視し、CPUやメモリの使用率、Wi-Fi状況、インストールされているソフトウェアなどを把握することで、そうした課題を解決できるとしている。
「TeamViewer DEXを導入することで、ITサポートデスクは問い合わせがあった際に状況に応じた解決策を提案できるほか、問い合わせを受ける前から自動修復(Auto-Remediation)機能で問題を解決することも可能です」と鈴木氏。オフライン状態でも問題を自動修復できる点は、他社にはない強みだ。
TeamViewer DEXの価値を明確に示した事例として、鈴木氏は「従業員18万人を抱える大手防衛企業がSolarWindsのアプリケーションの脆弱を突いたサイバー攻撃を受けました。その際SolarWinds がTeamViewer DEXのユーザーだったことから、攻撃を受けた企業がインストールされているデバイスが2300台以上あることがすぐに判明。そのうち脆弱なバージョンのままだったデバイスは17台あることを、わずか10分で把握し、これらのデバイスを隔離・調査することで、即時に問題を解決できました」と成果を強調した。
このことは、DEXが単なる資産管理ツールではなく、ITセキュリティと従業員満足度向上に貢献する包括的なソリューションであることを示す好例である 。
導入から運用まで手厚いサポート体制

TeamViewer関連の製品は、システムインテグレーションが大規模に発生するような複雑な導入は基本的に不要である。多くの場合、ユーザー自身で設定を行うことも可能だ。さらに、セキュアな導入を支援するために、「セキュリティハンドブック」や詳細な「ヘルプサイト」、さらには導入前の検討に役立つ「eブック」なども提供している 。
「導入していただいたお客さま向けにサポート窓口を設けており、トラブル時だけでなく、使い方や設定に関するご相談にも対応しています」と、鈴木氏は手厚いサポート体制をアピールした。
TeamViewerは、「全てのエンドポイントをスマートに管理する」という企業ビジョンを掲げている。これは、PCやスマートフォンといったITデバイスから、産業機械や医療機器といったOTデバイスまで、あらゆるエンドポイントを効率的に管理することを目指すものだ 。
古田氏は「我々のソリューションは、少子高齢化に伴う熟練労働者不足のような社会課題や、不必要な出張を削減することによるCO2排出量削減といったサステナビリティへの貢献も目指しています」 と語り、ビジネスを通じた社会貢献への強い意欲を示した。リモート接続技術の進化を通じて、TeamViewerは企業運営の効率化だけでなく、より良い社会の実現にも貢献しようとしている。
製品紹介
TeamViewer
TeamViewerは世界最大級のクラウド型接続プラットフォームである。高いセキュリティで高品質なサービスを提供し、世界で25億台以上の端末にインストールされ、常時4500万台以上の端末がオンラインで稼働している。Windows、MacOS、Linuxはもちろん、AndroidやiOS、Google ChromeブックなどのモバイルOSにも対応しており、ほぼすべてのデスクトップとモバイルプラットフォームで利用できる。複雑な設定やハードウェアが不要なため、これまでの作業環境を変えることなく、すぐに利用開始できる。