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Next次世代型施設園芸農業を目指す高知県の取り組み

Next次世代型施設園芸農業を目指す高知県の取り組み

2021年09月21日更新

データ連携基盤の構築で農業のさらなる発展を目指す

センシング技術の向上に伴い、生産者の経験と勘に頼る農業から、温度や湿度、日射量といったデータを基に栽培管理を行う農業へと変化している。冬場でも温暖な気候と豊富な日射量を生かし施設園芸農業を発展させた高知県も、データを活用した農業に取り組む県の一つだ。そんな高知県が、生産者の栽培環境データを一元管理するためのデータ連携基盤「IoPクラウド」を構築した。IoPクラウドの活用で高知県の農業はどのように変化するのか、その取り組みに迫った。

オランダの技術支援で農業を発展

高知県
人口約68万人(2021年7月1日時点)の四国地方に位置する県。黒潮打ち寄せる変化に富んだ海岸線をはじめ、四万十川に代表される清流や緑深い山々など、美しく豊かな自然に恵まれている。坂本龍馬や吉田 茂などの数多くの先人・偉人を輩出してきた歴史と風土がある。

 ヨーロッパ北西部に位置し、国土面積は約4万1,000km2と九州と同程度の広さの国、オランダ。農地面積は約184万ヘクタールと狭く、冬場の日照時間は短い。農業に最適な環境であるとは言い難いものの、限られた農地面積を効率的に利用でき、天候に左右されない施設園芸農業が土地柄に合い、大きな発展を遂げている。農産物輸出額は9.5億ユーロ(Source:CBS,note:November-December 2020 figures are estimates by CBS and WUR)と世界有数の農業大国である。オランダの施設園芸農業は、センサーやシステムによるハウス内の環境制御装置や低温の熱源から熱を集めて高温の熱源へ送り込むヒートポンプの活用、ハウスで使用した水を殺菌して再利用する水循環システムなどさまざまな最先端技術が活用されており、施設園芸農業の先進国とも言われている。

 そんなオランダと同様に約283km2と狭い農地面積から施設園芸農業に着目し、農業を発展させたのが高知県だ。茄子や生姜といった野菜、柚子や文旦といった果実などの生産量は全国トップを占めている。農業は、温度・湿度・日射量といった気象条件、水・肥料を与える量や時間など、徹底した管理が肝心だが、生産者の経験と勘といった感覚に頼る部分も多い。高知県では、オランダの施設園芸農業の技術に注目し、感覚に頼る農業ではなく、センサーやシステムの活用や気象条件などをデータ化して農業に生かす「データ駆動型農業」の取り組みを進めてきた。

「2009年にオランダのウェストラント市と友好園芸農業協定を締結し、オランダの最先端の環境制御技術を高知県の気象条件や栽培品目などに合わせて進化させた『次世代型こうち新施設園芸システム』を確立。生産者の協力のもと2013年から5年間にわたり、次世代型こうち新施設園芸システムの実証実験を行いました。本システムは温度・湿度・二酸化炭素濃度などが計測できる環境制御装置を設置し、取得したデータと作物の樹勢や日射量に応じて総合的にコントロールして農作物を管理します。環境データを可視化することで、適切な栽培管理ができるようになり、どの農家も収量が5~40%アップするといった効果がありました」と高知県 農業振興部 IoP推進監 岡林俊宏氏は説明する。

生産者のデータ共有が鍵を握る

 次世代型こうち新施設園芸システムは、実証実験後、本格的に導入が進み、現在では1,500軒ほどの農家で活用されている。手応えをつかんだ一方で、課題も見つかったという。「生産者ごとに取得したデータの扱い方に偏りがありました。データを上手く活用して収量アップにつなげているベテランの生産者もいれば、データの生かし方が分からないという生産者もいます。個々の生産者のみでデータを活用するのではなく、生産者全体でデータを共有できる環境を整えることで、ノウハウの伝承や高知県の農業をさらに発展させられるのではないかと考えました」(岡林氏)

 そこで高知県の新たな取り組みとして構築したのが、農業関連データを一元管理するためのデータ連携基盤「IoPクラウド」だ。IoPとはInternet of Plantsの略で、施設園芸農業の生産現場で天候の環境情報に加え、植物の生育情報や収量、収穫時期などの情報を計測し、植物の情報を可視化するといった意味がある。

 IoPクラウドは、ハウス内に設置した機器のデータや、高知県全体にわたる農産物の個々の出荷に関するデータなどをリアルタイムで一元的に集約するクラウド型のデータベースシステムだ。生産者はIoPクラウドにアクセスすることで、農作物の育成策と収量の要因分析や、育成環境の制御、ノウハウの向上、グループでの情報共有、遠隔での監視・制御などが可能になる。

「農業に関するビックデータを自動で集約・集積できる仕組みです。それだけではなく、出荷予測システム、光合成や蒸散速度などの作物生理を可視化するAIエンジン、作物生育情報を可視化するAIエンジンといったさまざまな機能が実装されています。個々の生産者のデータに基づいて、1軒1軒に最適なデータ駆動型の有益な情報をフィードバックできます」(岡林氏)

産学官連携で生産者を支援

 IoPクラウドの構築には、JA高知県、高知大学や高知工科大学、IoP推進機構といった県内の各機関が産学官連携で取り組んでいる。さらに京都大学や九州大学といった県外の大学、NTTドコモ、富士通、四国電力などの民間企業も参画している。「IoPクラウドは、特定の企業ではなく、県でデータの連携基盤を整備しているのが特長です。個々の生産者と県との間でデータ利用への同意を締結することで、企業や研究機関などの第三者は、生産者と契約を交わすのではなく、県と契約することでそのデータを利用できるようになります」と岡林氏。

 IoPクラウドは生産者が直接その機能を利用するだけではなく、

・高知県やJA高知県による、データの分析に基づいた詳細で即時性の高い栽培指導
・大学などの研究機関による、植物体の生理に基づいた生育予測などの研究の実証と実装
・民間企業による、より優れた機能を備えたスマートな農業用機器やソフトの開発

といった産学官連携で多方面から生産活動を支援する仕組みの核になるという。現在、参画している団体は60社ほどだが、今後も多くの企業や大学、自治体、生産者の参画を募っていく。

 最後に岡林氏は「高知県は施設園芸農業とデジタル技術の活用をさらに加速させる取り組みを行っていきます。農業における少子高齢化などの問題もありますが、50年後、100年後も、高知県の若者たちがやりがいを持って暮らして稼げる農業の実現を目指し、地域産業の発展に貢献していきます」と展望を語った。

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