DXの推進で地域活性化や業務改善を目指す「西宮市DX」

兵庫県の南東部、大阪市と神戸市のほぼ中間に位置する西宮市。1995年1月17日未明に発生した「阪神・淡路大震災」によって、壊滅的な被害を受けた街の一つだ。震災後は、市民生活の再建と都市の復興に取り組み、人口約48万人を超える魅力ある都市として発展を続けている。そんな西宮市で現在、DX(デジタルトランスフォーメーション)をキーワードに市民サービスの向上や庁内の業務効率化、地域の活性化に向けた行政経営を目指す「西宮市DX」が推進されている。その詳細を西宮市に聞いた。

新時代の行政経営に向けた取り組み

兵庫県西宮市
兵庫県の南東部に位置する人口約48万人(2021年9月時点)の中核市。春・夏の全国高等学校野球選手権大会が開催される「阪神甲子園球場」がある。古くから門前町や宿場町として栄え、伝統産業である酒造は、江戸時代に「宮水」が発見され、清酒の醸造に使用されたことから「灘の生一本」の生産地として全国に知られるようになった。

 行政経営は、常に機能的で効率的な運営や市民の視点に立った行政サービスの実現が求められる。少子高齢化による人口減少といった変化する社会経済情勢への対応や行政と地域の協働の取り組みなども欠かせない。多くの自治体で行政経営の改善に向けた施策が講じられている。西宮市もまた、そうした取り組みを行う都市の一つだ。

 2019年10月、西宮市は「市民と共に新たな価値を生み出す市役所改革」を行政経営の目指す姿として定める「西宮市行政経営改革基本方針」を策定した。取り組みの期間は、策定年度を含め、前期(2020~2022年度)、中期(2023~2025年度)、後期(2026~2028年度)の2019~2028年度までの10カ年の計画だ。

 西宮市行政経営改革基本方針は、目指すべき姿として「OPEN(市民に開かれた市役所へ)」「SMART(合理的で無駄のない市役所へ)」「RELIABLE(市民から信頼される市役所へ)」という三つの視点と、政策・財務・地域・人材の四つの分野に分けた施策が軸となっている。その施策の一つとして、「スマート自治体」というICT化やデジタル化によってOPEN、SMART、RELIABLEな市役所の実現を目指す取り組みがある。スマート自治体の構想は、その概念をさらに発展させた「西宮市DX」へと名称を改め、2020年度には「西宮市DX推進指針」が策定された。

 西宮市DX推進指針で示されている西宮市DXの目的は次の六つだ。

①行政経営改革の推進
②新時代への対応および備え
③多様化する市民ニーズへの対応
④庁内組織風土の変革
⑤課題解決から新たな価値の創造
⑥DXに関する国の方針への対応

「②や③の問題については、特に危機感を持っています。2040年問題と呼ばれるように、今後の社会では人口減少と高齢化による労働力不足や社会保障費の増加などが危惧される一方で、社会・経済システムの変化や技術革新、グローバル化の進展などにより、市民の価値観は多様化しています。また、ウィズ/アフターコロナやSociety5.0といった新時代の環境への柔軟な対応も必要とされることから、自治体へのニーズはより多様化し、行政サービスに求められる水準もますます高まると予想されます。結果として自治体は、これまでよりも少ない人数や財源で、これまで以上の行政サービスを持続的に提供するという非常に困難な課題に直面することになります。この難題をクリアするために、DXによる業務の在り方や市役所の変革に向けた取り組みが不可欠であると考えています」(西宮市 総務局 デジタル推進部 デジタル推進課 担当者)

DX推進への羅針盤として

 西宮市はDXを推進する上で、職員の行動原則(西宮市DX5原則)と、西宮市行政経営改革基本方針の終了年度である2028年度末に目指すべきビジョン(西宮市DXビジョン)を設けている。西宮市DX5原則では、「利用者目線でDXを進めること」「業務改革を前提にDXを進めること」「スモールスタートからの横展開でスピード感を持ってDXを進めること」「庁内組織の縦割りを排除してDXを進めること」「市民や地域と協働してDXを進めること」という五つの指針が掲げられている。DXの意義を職員に根付かせ、チャレンジ精神を持って課題解決と価値創造に取り組むことを目指す狙いがあるのだという。

 西宮市DXビジョンは、「暮らし手続き」「行政内部」「住民参画」「教育環境」の四つの分野に分けて、2028年度末のあるべき姿を長期的なビジョンとして示したものだ。「DX推進のための羅針盤として、職員がビジョンを共有することで、目指すべき方向性やゴールが明確となり、適切な評価指標の設定や、指標に基づく評価・改善のサイクルの実現が期待できます。ビジョンの実現に向けて“目的”や“課題”を整理すること、潜在的な“課題”を見つけること自体が、価値創造へとつながる西宮市DXの重要なプロセスであると考えています」(担当者)

行政サービスの改善に向けた挑戦

 西宮市DXビジョンの実現に向けて、すでに実践している取り組みもある。例えば、「いつでも、どこからでも来庁せずに手続きできる」仕組みの実現のため、2020年度に「遠隔相談窓口」や「LINE受付」「スマート手続き案内」「AIチャットボット」などを導入したという。それは市民サービスの向上、窓口業務の効率化につながっている。2021年度は「電子申請」の仕組みを導入する予定で、西宮市DXビジョンの実現に向けた取り組みはさらに加速していく見通しだ。

「ビジョンの実現によって、市民の日々の暮らしはより便利で快適なものになるでしょう。職員は定型的な業務から解放されます。コア業務に注力できるようになるとともに、行政サービスの改善に向けた積極的な活動やワーク・ライフ・バランスの推進にもつながるでしょう」(担当者)

 西宮市では今後の展開として、まずは、西宮市DXによる課題解決プロセスの確立を目指し、スモールスタートでの実証と評価を繰り返すことで、一つでも多くの成功事例を作っていく予定だという。「デジタル技術には、作業の簡素化・自動化に加えて、時間や場所の制約を受けないこと、ビッグデータといった集合知を容易に構築できること、これまでになかった仮想現実を実現することなど、無限のポテンシャルがあると感じています。それらをうまく活用し、市役所および市民生活をより良いものにしていきたいと考えています」(担当者)