エンタープライズ向けのハイエンドVRヘッドセット

レノボ・ジャパン
ThinkReality VRX

ThinkReality VRXは、エンタープライズ向けに設計されたオールインワン型のVRヘッドセットだ。頭の回転や傾きに加えて身体の動きにも対応するトラッキング技術により、高い没入感と幅広いVR体験を実現する。また、高解像度かつカラーで周囲の現実世界をヘッドセット越しに確認できる「ステレオフルカラーパススルー」により、肉眼に近い遠近感も再現している。海外では業務トレーニングや教育関連の市場で導入が進むエンタープライズ向けVRヘッドセットのビジネスチャンスについて、実機をレビューしながら探っていく。
text by 森村恵一

複数人での利用に適した設計

コントローラーを使ってアプリを操作する。ウェットティッシュでの拭き取りが可能な素材を使用し、衛生面にも配慮されている。

 エンタープライズ向けオールインワンVRヘッドセット「ThinkReality VRX」は、ヘッドセットと左右のコントローラーがセットになっている。目に当てる本体前方のヘッドセットには、プロセッサーのSnapdragon XR2+Gen1を搭載。左右それぞれ2,280×2,280の画素数に対応した液晶モニターと、95度の視野角の薄い円形のレンズ「パンケーキレンズ」も取り付けられている。

 後頭部に当てる本体後方のパッドには6,900mAhのバッテリーを搭載し、0.8kgの本体重量が前後にバランスよく分散される設計になっている。そのため、ヘッドセットを着けて頭を動かしても、前方だけに傾いたり外れそうになったりする不安感がない。ヘッドセットの締め付け具合は、パッドにあるダイヤルを回すだけで容易に調節可能だ。工場といった現場で複数の利用者が交互に使用するときも、サイズを調整した上で手早く次の利用者に受け渡しができる。

 複数人での利用を想定し、衛生面にも配慮している。パッド部分には衛生的な素材を使用し、ヘッドセットやコントローラーも全てウェットティッシュなど湿った布での拭き取りが可能な素材で構成されている。

 実際に装着してみると、頭にしっかりと固定され、安定感があった。ヘッドセットがぐらつかないため、装着の不安定さを感じず、VRに没頭できた。目に当たる部分は外からの光が入らない密着感があり、レンズが曇らないように調整可能な内部換気口も用意されている。ヘッドセットの前面にある四つのカメラが、装着者の移動を前後・左右・上下の6方向で捉える「6DoF」に対応しているため、首振りだけでなく装着したままの移動も追従するVR体験が可能だ。

VR映像と現実を組み合わせた体験

本体正面に二つのステレオカラーパススルーカメラを搭載。肉眼に近い遠近感を実現し、VR映像を現実に組み合わせて表示できる。

 ThinkReality VRXはヘッドセットの右側に電源ボタンがあり、装着したら長押ししてシステムを起動する。OSにはAndroid 12を採用し、システムを起動すると自動的に専用の初期メニューが表示される。初期メニューではWi-Fi接続やアプリの起動といった項目のアイコンが並び、希望するものを左右のコントローラーで選択可能だ。

 本体には12GBのメモリーと128GBのストレージが搭載されているため、Wi-Fi経由でダウンロードしたコンテンツやアプリをThinkReality VRXの本体に保存できる。サンプルで利用したアプリの中には、ショールームのように自動車が置かれていて、ボディをさまざまな角度から鑑賞するだけではなく、自分が移動すると車内に入って内装の確認が行えるVR体験があった。

 ThinkReality VRXは、ヘッドセットの前面にVRヘッドセットを装着した状態で現実世界の様子を確認できる「ステレオカラーパススルーカメラ」を二つ備え、VR映像と実際の外の景色を組み合わせた映像をヘッドセット越しに見られる。そのため、部屋を映しながらVR映像の自動車を重ねて映すと、自宅がショールームになったような錯覚になるのだ。狭い部屋だと充分に動き回れないが、商業施設をはじめとした広い場所で活用すると、バーチャル内見や生産ライン体験のような活用も考えられる。レノボのプロモーション動画では、物流倉庫での荷出しトレーニングや生産ラインでの業務フロー確認、バーチャルプレゼンテーションなどの利用例が紹介されている。

管理用のクラウドサービスを提供

 ThinkReality VRXがエンタープライズ向けのデバイスとして設計されている理由の一つに、XR向けクラウドサービス「ThinkReality Platform」の提供がある。

 ThinkReality Platformは、デバイス・ユーザー・アプリの管理が一括で行えるレノボのクラウドサービスだ。利用中のデバイスやユーザー、インストールされているアプリなどをダッシュボード画面で確認できる。さらに、IT管理者はThinkReality VRXにインストールするアプリも厳密に管理可能だ。こうした管理機能は、エンタープライズでの教育や業務で利用するデバイスに必須といえる。

 エンタープライズ向けのVRで特に注目されているのが、企業が蓄積してきた3Dデータ資産と仮想世界を組み合わせたデジタルツインの実現だ。すでに海外では、NVIDIAが提供する産業用メタバース開発プラットフォーム「Omniverse」内に自動車メーカーが自社工場をデジタルツインで構築した事例がある。仮想世界での作業の検証によって、現実世界の工場業務の効率化に取り組んでいるのだ。

 ThinkReality VRXは、単体でも高性能で仮想空間を楽しめるVRヘッドセットだが、Omniverseと合わせて提案すると、製造業や教育、医療など幅広い業種・業界に展開できるエンタープライズ向けVRデバイスとなる。