英会話や英作文の学びでAIを活用し
個別最適で協働的な学びを実現する

佐賀県の中央部に位置する白石町は、広大な有明海に面しており、美しい干潟や湿地帯が広がる町だ。その白石町の小中学校で取り組んでいるのが、AI活用だ。白石町は文部科学省の「AI活用における英語教育強化事業」に参画しており、町内の全小中学校を対象に、AIを活用した英語の学びに取り組んでいる。英語教育の「読み」「書き」の双方でAIを活用することによる学びのメリットを見ていこう。

AI活用が授業スタイルを変える

 学習指導要領の改訂が目前に迫っている。小学校では2030年から次期学習指導要領が全面的に実施される予定だ。その学習指導要領改訂に向けた論議を貫く三つの方向性として「主体的・対話的で深い学びの実装」「多様性の包摂」「実現可能性の確保」の三つが掲げられている(中央教育審議会 教育課程企画特別部会「論点整理」)。
 この改訂について佐賀県白石町 白石町教育委員会 学校教育課 主任指導主事 鶴田智樹氏は「主体的・対話的で深い学びを、これまでの“実現”ではなく“実装”と表現していることに意味があります。2020年度から順次全面実施された前回の学習指導要領改訂は『戦後最大の改定』とも言われましたが、GIGAスクール構想による1人1台の端末配備などの予定が前倒しされる以前の改訂だったこともあり、現在の学習指導要領では現場の先生方の指導がまだ令和の日本型学校教育に追いついていないという側面があります。“実装”という表現は、裏を返せばまだ主体的・対話的で深い学びが教育現場に浸透していないということです」と指摘する。

 そうした課題が生じている原因の一つに、ソフト面の整備が挙げられた。GIGAスクール構想によってハード面の整備は急速に進んだ一方で、授業の在り方といったソフト面の整備は進みにくい。「個別最適で協働的な学び」が重要になる一方で、学校教育の現場ではいまだ教員主導に過度に寄った授業スタイルが見られる。それは白石町の小中学校も例外ではなかった。

「白石町の小中学校は、ベテランが多く指導力が高い教員が多いのが特長です。一方で中央教育審議会『論点整理』で示されたような自己調整学習への転換が進んでいるかというと、そうではありませんでした。そこで、既存の授業スタイルを変えるため着目したのが、AIでした」と鶴田氏は語る。

 文部科学省が主導する「AI活用における英語教育強化事業」では、次期学習指導要領改訂を見据え、教師やALT(外国語指導助手)による英語指導とAI活用との効果的な組み合わせを検証する実証研究に取り組むものだ。白石町は全小中学校(中学校1校、小学校6校)を事業のモデル校としている。

AIが個別にフィードバック

 それでは白石町の英語の授業では、どのようなAI教材が活用され、授業に取り組んでいるのだろうか。

「話すこと」では、HelloWorldが提供するAI英語学習・国際交流プラットフォーム「WorldClassroom」を活用している。WorldClassroomにはAI搭載のスピーキング練習機能が搭載されており、児童生徒はAIキャラクターと会話することで、スピーキング力を高めることが可能だ。鶴田氏は「従来の英語の授業では、教員1名に加え、ALTなどが指導に入る場合もありますが、それでも35〜40名の児童生徒に対して3名ほどの教員でスピーキングの個別指導を行うことは、物理的に困難です。しかし、AIによるスピーキング練習であれば、児童生徒それぞれの英会話に対して、個別のフィードバックや指導を行えるようになります。実際、WorldClassroomをうまく授業に取り入れているクラスは以前と比べて発話の量が大きく増えましたし、WorldClassroomのスコアリングやフィードバック機能によって、音読やスピーチのレベルが一定程度に到達するまで個人練習を行うなど、個別最適なスピーキング練習が実現できていました」と話す。

 一方で、AIはあくまで英会話の練習相手としての位置付けであり、最終的には子供同士や外国の子供に対して英会話を行う「生身のフィードバック」が英語教育の上では重要となる。鶴田氏は「『AI活用でリアルなコミュニケーションを支える』をキャッチフレーズに、AIで子供たちのスピーキング力向上をサポートしています」と、英語教育におけるAIはあくまで補助的な立ち位置であると語った。

「書くこと」では、主にGoogleの生成AI「Gemini for Education」(以下、Gemini)を活用している。Geminiには、特定の目的や好みに合わせてGeminiの役割をカスタマイズできる「カスタムGem」(以下、Gem)という機能がある。白石町ではこのGemの機能を活用し、英文添削用のGemを作成して生徒たちの学びに活用している。

「書くことを学んでいるのは中学生の生徒たちですが、自身が作成した英作文をGemに打ち込むと、Gemが文法的なミスや文章構造の間違い、スペルミスなどを修正してくれたり、内容面でのアドバイスをしてくれたりします。質問に回答する中で文章が正確に、内容が豊かになっていくので、英作文の質が向上します。もちろん、Gemの回答をそのまま書き写すのではなく、自分が伝えたいことや書きたいことに合わせて取捨選択したり、分からないことは自分に分かるように説明させたりして、納得いくまで対話するように指導しています」と鶴田氏。

(左)生成AIを活用して自らの英作文の添削を行う様子。
(右)Googleスプレッドシートで共有を行うことで生徒同士が相互に参照し、学び合うことが可能だ。

 白石町の英語科の授業では、児童生徒の学びの進度に応じた複線型の授業を展開している。この複線型の授業でAIやクラウドを活用することによって、個人の進度に応じた英作文の作成や、他者を参照した英作文の作成などが行いやすくなったという。鶴田氏は「主体的・対話的で深い学びを実装するためのポイントの一つは、児童生徒が、自ら課題を設定し、ゴールに向けてメタ認知を発揮しながら自己の学びを調整したり、他者と協働したりして学ぶ授業への転換であると考えています。教師主導の一斉型の授業スタイルだけで『深い学び』に到達することは困難ではないでしょうか」と語る。複線型の授業スタイルでAIやクラウドを活用することで、この個別最適で協働的な学びの実現に近づける。

 白石町では、今後も英語科でAIの活用を進めていくほか、小学校は2026年度から2年間、佐賀県の「教育DXプロジェクト推進研究」指定校としてDXの取り組みを進めていく予定だ。