SIビジネスのサービスモデルを転換する富士通の「AIドリブン開発基盤」
~単発の受託開発からシステムの継続的な開発へビジネスモデルを変化していく~

 富士通は2月17日、都内で記者説明会を開き、システム開発プロセス全体をAI主導で自動化する新たな取り組み「AI-Driven Software Development Platform(AIドリブン開発基盤)」を発表した。

 法制度改正への対応などで膨大な改修作業を強いられてきた行政・ヘルスケア分野の大規模システムを起点に、要件定義から設計、実装(改修)、結合テストまでを一気通貫でAIが自律実行するという。

 富士通はこれを、従来の"支援するAI"とは一線を画す「自ら実行するAI」と位置付け、2026年度から全社のシステム開発へ展開していく考えだ。

「AIが理解できなかった最後の難所」に挑む
まずは行政・ヘルスケアから進めていく

 富士通 AI戦略・ビジネス開発本部 本部長 岡田英人氏は、生成AIの進化によってコード生成や個別タスクの自動化は現実のものとなった一方で、「業界が本当に直面している課題はそこではない」と指摘する。

 「長年使われてきた巨大で複雑な既存システムをAIが正しく理解し、システム開発プロセス全体を変革できるかどうか。そこが、これまでAIが解けていなかった未解決領域です」(岡田氏)

 富士通は1935年の創業以来、社会インフラを支えるシステムを顧客とともに構築してきた。行政、医療、金融といった分野では業務知識とシステムが密接に結び付き、設計書に書かれていない"暗黙知"が品質を左右してきた。岡田氏は「この暗黙知こそが、AI活用の最大の壁でした」と語る。

 今回の取り組みは「Takane-Driven Initiative」と名付けられ、まずは富士通が長年手掛けてきた行政・ヘルスケア向けパッケージソフトを対象に適用する。富士通Japan 特定プロジェクト対策本部 本部長 國分 出氏は、その理由をこう説明した。

 「法制度改正は社会課題を解決するための前向きな変化ですが、現場にとっては極めて大きな負担でもあります。毎年のように制度が変わり、巨大なパッケージソフトを短期間で改修し続けなければなりません。この領域はシステム開発の中でも最難関です」(國分氏)

 富士通の行政・ヘルスケア向けパッケージは計67製品、総規模は約150メガステップにおよぶ。制度改正のたびに要件定義、設計、実装、テストを人手で回していては時間も人材も足りない。そこで同社はAIが法令文書を理解して影響範囲を特定し、修正からテストまでを自律的に実行する仕組みの構築に取り組んだ。

左から富士通 AI戦略・ビジネス開発本部 本部長 岡田英人氏、富士通Japan 特定プロジェクト対策本部 本部長の國分 出氏。

3人月の作業が4時間で完了
最大で約100倍の生産性向上を実証

 説明会では診療報酬改定を想定したデモンストレーションが披露された。約700ページにおよぶ法令文書をAIが読み込み、約6万8,000本のプログラムの中から改修対象を特定。要件定義、設計、改修、テストを複数のAIエージェントがリレー形式で進め、結合テストまでを自動で完了させる。

 この結果、従来は約3人月を要していた作業が、条件しだいでは約4時間で完了したという。國分氏は「最大で約100倍の生産性を実証できた」と強調する。

 「これは単なる効率化ではありません。法制度改正への対応という、人が担ってきた作業が、AIの作業へと移行した瞬間だと捉えています」(國分氏)

 富士通はこの成果を支える技術的ブレークスルーとして三点を挙げる。一つ目はAIによる高度な法令理解と要件定義の自動化だ。AIが法令文書の変更点を抽出し、設計書やソースコードと突き合わせながら、外部仕様レベルの要件へと変換する。つまり難解な法令を「システム変更要求」に翻訳する役割を担う。

 二つ目はAI出力の品質を"有識者レベル"まで引き上げる「マルチレイヤー クオリティ コントロール」だ。観察・思考・行動を繰り返す自律設計レイヤーに加えてAIの判断を監査するガーディアンレイヤー、暗黙知や現場ルールを注入する知識レイヤー、大規模ドキュメントや数百万のコードからAIの思考に必要な部分のみを抽出して要約・抜粋を行う情報アクセスレイヤー(特許出願中)を重ねることで、ハルシネーションを抑えて実務で使える設計品質を担保する。

 三つ目が開発工程を止めない自律型アーキテクチャーだ。テスト結果に問題があればAIエージェントが原因を特定し、再設計から改修までを自動でやり直す。目標品質に達するまで人が介入しなくても開発プロセスが走り続ける。

「AI-Driven Software Development Platform(AIドリブン開発基盤)」の概要。

人の役割は「消える」のではなく「変わる」
システム開発の在り方を変える挑戦

 富士通のこうした取り組みが進むことで「エンジニアの仕事はなくなるのか」「人月ビジネスはどう変わるのか」といった質問が相次いだ。これに対して岡田氏は「人の役割がなくなるとは考えていません」と明言する。

 「AIが出力した結果を最終的に評価して、社会やお客さまに届ける責任は人が担う、ヒューマン・イン・ザ・ループは不可欠です。その一方で単純な改修作業から解放されたエンジニアは、よりお客さまに近い場所で価値を生み出す役割へシフトしていくでしょう」(岡田氏)

 富士通はこうした人材像を「AI-Ready Engineering」や「Forward Deployed Engineer(FDE)」として位置付けて、育成を進めていく方針だ。

 富士通は2026年度から、このAIドリブン開発基盤を全社のシステム開発に展開し、将来的には金融、通信、製造、物流など「変化し続けるシステム」全般へ適用を広げる。単発の受託開発ではなく、継続的に進化するシステムを支えるサービスモデルへの転換も視野に入れる。

 岡田氏は最後に「私たちが目指しているのは開発の効率化ではありません。社会や業務の変化に、システムそのものが追随し続けられる世界を作ることです。AIドリブン開発基盤は、そのスタート地点です」と語った。

 生成AIの普及がSIビジネスの前提を揺るがす中、富士通は"AIが自ら走り続ける開発"というアプローチで、次の競争軸を打ち出した。日本のシステム開発の在り方そのものを変える挑戦として、その成否が注目される。

システム開発プロセス全体をAI主導で自動化するには、AIに既存システムを正しく理解させるための「仕込み」が不可欠だという。仕込みの成熟度が自動化の精度を左右する。この仕込みには数年の期間を要するという。