EDIX REPORT 2023
GIGAスクール端末の活用は次のステージへ
より高度化が進む学校設備のデジタル化
「第14回 EDIX(教育総合展)東京」(以下、EDIX)が2023年5月10〜12日に東京ビッグサイトで開催された。「教育の『今』を学べる、『未来』に気づける3日間」のキャッチフレーズのもと開催された本展示会は3日間合計で2万2,580名が来場し、大盛況の内に幕を下ろした。本リポートでは数多くの教育関係者が訪れた本展示会において、特に目を引いた製品をカテゴリーごとに紹介し、教育のこれからを展望していく。
GIGAスクール構想によって、全国の小中学校の児童生徒に1人1台の学習者用端末が整備され、本格運用がスタートしてから3年目を迎えた。GIGAスクール端末を授業で毎日利用する自治体は7割を超える(MM総研調べ。P.82にて詳報)など、授業におけるICT活用は大きく浸透していると言えるだろう。一方で、ICT機器の導入に伴う機器トラブルにより、教員の負担が増えている側面も存在する。また2025年度前後にはGIGAスクール端末のリプレース需要が発生することが見込まれており、新たな端末のセットアップやアカウントの設定といった負担の増加も考えられる。そうしたGIGAスクール構想の次(NEXT GIGA)を見据え、各社がICT運用をサポートするサービスや、ライフサイクルサポートなどを提案していた。また、リプレース先の端末も各メーカーが提案しており、多様なWindows PCやChromebookが教育関係者の目を引いていた。
また、普通教室にすでに整備されている電子黒板にも、日常的に利用しにくいという課題が生じているケースがある。EDIXで出展された電子黒板を見ると、そうした課題を解決するため大型の電子黒板や、既存の大型モニターを電子黒板化するセンサー、既存の黒板と電子黒板を組み合わせて使いやすくする取り付けレールなど、多種多様な製品が出展されていた。GIGAスクール端末が普及したことで、普通教室にもそれに対応する次(NEXT)の整備が求められていると言えるだろう。2024年度からは学習者用のデジタル教科書が本格導入されることを受け、多種多様なデジタル教科書・デジタル教材も各社から紹介されていた。
GIGAスクール端末の普及に伴い、普通教室以外の学校施設(School Facilities)もICT化が進みつつある。例えば図書館や体育館、運動場、そして既存のPC教室だ。
児童生徒に端末が行き渡ったことで、PC教室を撤廃する学校も存在する一方で、より高度なICT教育を実践する先端的な教室として生まれ変わらせている学校もある。高性能なPC、3Dプリンター、HMD(ヘッドマウントディスプレイ)などの先端ICT機器を整備することで、生徒たちの創造的な力をさらに伸ばす場にしているのだ。EDIXではそうした新しいPC教室の姿を「STEAM教室」や「STEAM BASE」と名付け、ICT機器を提案する企業も見られた。
NEXT GIGA
1人1台端末環境の未来の学びへ
PC
さまざまな学校現場で端末活用が積極的に進む一方で、2022年度以降に導入したGIGAスクール端末の更新時期も近づきつつある。多くの自治体では2025年度をめどに端末の更新を予定しており、EDIXではそのリプレースに向けた端末提案や、現時点での端末運用をさらにサポートするサービスや製品の提案が行われていた。例えば、NECはGIGAスクール向け教育クラウド端末として、Chrome OSの「NEC Chromebook Y2」とWindows OSの「VersaPro Eシリーズ タイプVR」を出展。どちらもコンバーチブルタイプの端末でタブレットとしても使える。Dynabookはモニターとキーボード部が脱着する2in1デタッチャブルタイプの「dynabook K50/60」を小中学生向けの学習者用端末として提案していた。また大学生向けや教員用の校務端末としてノートPC「dynabook RJ74」や5in1プレミアムノートPC「dynabook V83」を紹介し、多様なニーズに応えていた。昨今では教員の校務用端末と指導者用端末を1台に統合する動きも出てきており、タブレットに変形できるdynabook V83はそうしたニーズに応える。NEXT GIGAに向けて、BYOD向けのPCあっせん販売専用ECサイト開設・運用サービスやヘルプデスクサービスなど、学校の端末運用負担を低減するサービスも出展されていた。
Google for Educationでは各メーカーのChromebookのほか、無料OSの「ChromeOS Flex」を紹介。古くなったWindows PCやMacにインストールすることでChromebookのように使う方法を紹介し、Chromeに興味のある教育現場の担当者が手軽にChrome OSを体験する価値を訴求していた。
Interactive Whiteboard
普通教室における大型提示装置の整備率は83.6%(2022年3月時点文部科学省調査)と非常に高い一方で、その活用には課題もある。特に、黒板の横に設置するような移動式の電子黒板の場合、表示領域が狭かったり、表示のため逐一移動させたりといった手間がかかる。EDIXではそうした課題を受け、電子黒板の大型化が進んでいた。またナイスモバイルは黒板に86インチのディスプレイを内蔵して使用する「MAXHUB—CHALK—」を出展し、“未来の黒板”としてその使いやすさをアピールするなど、電子黒板を日常的に使うための工夫を凝らした製品が各社から登場していた。
Textbook & Teamseaching Materials
2024年度から本格導入が予定されているデジタル教科書。EDIXでも数多くのデジタル教科書、デジタル教材が出展された。教科書発行者である新興出版社啓林館、帝国書院、大修館書店の知見と、電子書籍ビューア「超」EPUBシリーズを持つBPSの技術力で開発されたデジタル教科書ビューア「超教科書」は、「紙の教科書を超えてその先へ!」をキャッチフレーズに、デジタル教科書で実現する新しい学びの形を提案していた。
そのほかのブースでもAI教材や、ChatGPTで知られるOpenAIの技術を組み合わせた教材など最先端のICT教材が出展されていた。AIを活用して探究学習の関連情報を収集したり、関連動画を表示したりするなどして深く学ぶと同時に、これからの社会で必要になるAIを使いこなすスキルを習得していく教材だ。また2022年度からスタートした高等学校の情報Ⅰが、2025年度からは共通テストの科目として採用されることを受け、その対策を行えるデジタルドリルなどのICT教材も注目を集めた。情報Ⅰは新設されたばかりの教科で、教員側も共通テストに向けた指導を行えるノウハウが蓄積されていない。プログラミング教育の教材を開発していた企業などが対策教材を提案することで、生徒の学びを支援している。
School Facilities
多様な学びのニーズに応える学校施設のICT整備
Investigative Learning
ICT環境の広がりの中で、従来から探究学習の拠点となっていた学校図書館も変わりつつある。議論を進める場としての「ラーニングコモンズ」の役割を担うケースはもちろん、児童生徒の端末を有効活用できるよう電子図書館の導入を進めるケースもある。EDIXでは電子化した辞書や辞典、書籍などで中高生の探究学習を支援する「ジャパンナレッジSchool」や、小中学生に向けて読書習慣の定着を支援する「読書館」といった電子書籍をベースにしたコンテンツに加え、紙の本と電子コンテンツのベストミックスを実現する学校向けクラウド型図書館システム「ELCIELO for School」などが出展され、GIGAスクール端末と組み合わせた読書や探究学習支援を訴求していた。
STEAM
GIGAスクール端末が普及し、児童生徒がそれぞれの端末で学べるようになった一方で、ハードウェアスペックの問題で創造的な学びが阻害されている側面もある。GIGAスクール端末はあくまで「文具」の位置付けで導入されているため、3Dコンテンツを作ったり映像を編集したりといったクリエイティブな作業は行いにくいのだ。
そうした創造的な学びを実現する場として、従来PC教室として使われていた教室に、高性能なPCや3Dプリンター、HMD(ヘッドマウントディスプレイ)、ロボットなどを整備する取り組みが、先進的な自治体や学校で広がりつつある。EDIXでもそうした高度な教室を整備するための製品やソリューションが数多く出展されていた。こうした環境で行われる学びはSTEAM教育(科学・技術・工学・芸術・数学の英単語の頭文字を組み合わせた造語)と呼ばれており、理系や文系の枠を横断して学ぶことで問題解決能力の育成を目指す。そのため既存のPC教室も、「STEAM Lab」や「STEAM教室」「STEAM BASE」やものづくりを行う場としての「Fab Lab」といった名称に変わりつつある。
Sports
教育分野におけるICTの活用は、スポーツにも広がりを見せている。例えば体育の授業において、マット運動の様子をGIGAスクール端末のカメラで動画撮影し、体の動かし方などを後から振り返るといった活用が多くの学校で進んでいる。従来、自身の体の動かし方を客観的に把握することは難しかったが、GIGAスクール端末が普及したことにより、それが簡単に行えるようになった。
EDIXでは、そうした体育やスポーツ分野で活用される最先端ICT機器も数多く出展された。例えばローカル5Gを活用することで、スポーツの動きをドローンで撮影し、その映像でリアルタイムで解析することで練習効率を向上させるといった活用だ。教育現場では現状Wi-Fiの整備が中心だが、今後ICT化が広く進むにつれて、こうしたローカル5Gの普及が広がる可能性もあるだろう。また、ARを活用してスポーツを楽しむソリューションも登場していた。通常、運動は児童生徒の身体能力に依存するため得意不得意が顕在化しやすいが、テクノロジーによって能力のパラメーターを調整して楽しめるメリットもある。中には学校の部活動に導入されるケースもあり、今後の広がりが期待されている。