STEAMによる文理横断的な学びで
社会課題に挑戦する生徒を育てる

幼稚園、小学校、中学高等学校、大学、大学院を有する総合学園である安田学園。広島県広島市中央区にはその一つ、安田女子中学高等学校が位置する。「柔(やさ)しく剛(つよ)く」の精神に基づく人間教育を追求する同校の高等学校では、従来の特進コース、総合コースに加え、2021年4月から新たにSTEAMコースを新設した。文理横断的な学びで21世紀型人材の育成に取り組む同校の学びを取材した。

1.コラボレーションラボでのロボットコンテスト出場に向けた取り組み。レゴ マインドストームへプログラミングをしながら目的のコースで正しく動作するかを検証している。
2.STEAMコースではiPadで意見をまとめたり、ブラッシュアップしたり、発表資料をまとめたりと積極的に活用している。
3.岩国市ミクロ生物館と連携したプロジェクトでは水質改善を目指すため、まずプランクトンの調査から始めた。調査したプランクトンの種類は小学生が教材として使えるよう、さまざまな資料を基に分かりやすくまとめている。
4.PBLの授業で1年生が最初に取り組むのは映像表現で、Canvaを使いながらテーマに基づくストーリーを動画で表現する。

三つのプロジェクトでPBLを実施

 安田女子中学高等学校で新設されたSTEAMコースについて、同校の教諭 理科・情報科 STEAMコース主任の田口智之氏は「もともと本校にはSTEAMコースの前身となるスーパーサイエンスコースがありました。そこからSTEAMに名称や学びの内容を転換した背景には、先の見えないVUCAの時代において、文理にとらわれない学びの中で、社会課題にトライできる生徒を育てたいという思いがありました」と語る。STEAMはScience(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学)、Mathematics(数学)、そしてArts(芸術・人文社会科学)の頭文字から成る造語だ。安田女子中学高等学校では特にこのArtsの部分に着目し、リベラルアーツ(教養)やデザイン思考を用いて、文理を横断した課題解決を実現する人材育成に取り組んでいるのだ。2021年度はSTEAMコースの6名の生徒が高校生模擬企業グランプリ「リアビズ」に参加し、折り鶴の再生紙を使用したブックカバーを企画、販売を行った取り組みが評価され、グランプリを獲得したという。

 STEAMコースは、高校1年生から高校3年生前半の2年半かけて、週に4時間のPBL(Project Based Learning:課題解決型学習)の中で、三つのプロジェクトに取り組んでいる。

 一つ目は、「コラボレーションラボ」。学校側があらかじめ設定した外部の連携先と共に課題解決に取り組むプロジェクトだ。例えば2022年後半から2023年前半にかけて、STEAM教材を開発しているワンダーファイと共に幼稚園児向けの教材開発に取り組んだ。「安田学園の敷地には幼稚園もあります。そこで実際に教材を試してもらったり、Zoomを使って企業からのフィードバックを受けたりしていました」と田口氏は振り返る。ほかにも、広島市立大学の情報学部と連携し、「レゴ マインドストーム」にプログラミングしてロボットコンテストへの出場を目指したり、岩国市ミクロ生物館と連携し、京橋川のヘドロ問題の解決や水質改善を目指す研究などに取り組んでおり、これらのプロジェクトは現在も継続されている。

 二つ目は「プロモーションラボ」。STEAMコースの認知度を高めるにはどうすればよいか、といったことテーマに話し合い、オープンキャンパスやWebサイトでの情報発信などに取り組んでいる。

5.プロモーションラボではWebサイトやオープンキャンパスによる情報発信で、STEAMコースの知名度向上に取り組んでいる。「学校の広報部のような立ち位置です」と田口氏は笑って教えてくれた。
6.外部の企業と打ち合わせをしながらプロジェクトを進める。マイプロジェクトラボのminagirlsは広島市にあるミナガルテンという店舗と協力しながらイベントの立ち上げを計画していた。

生徒の名刺も自らデザイン

 三つ目は「マイプロ(マイプロジェクト)ラボ」。これは目標や目的、コラボ先などを生徒自身が見つけて課題解決に取り組む自由度の高いコースだ。2022年11月から2023年10月までの期間では、生理用品を設置して自由に使ってもらえる「女の子トイレプロジェクト」や、ウクライナ支援を目的に食堂でウクライナ料理を提供する「自由を運ぶコウノトリ」といったプロジェクトなど、多様な課題意識のもと設定されたテーマに基づき、それぞれの生徒がチームとなって、企業などと連携しながら取り組みを進めている。

 こうしたSTEAMの学びの中では、ICT端末やツールが積極的に活用されている。同校では1人1台端末にiPadを採用しているが、学習基盤となるツールは「Google for Education」を活用している。「特にSTEAMコースでは活用の機会が多いですね。Google Classroomを活用した情報共有はもちろん、Google Formsを活用して、プロジェクトのアンケートを実施する姿もよく見ます。また、デザインツールの『Canva』を使い、チラシや名刺を作る生徒も多いですね。特にSTEAMコースは外部の企業の人とやりとりすることが多いため、ミーティングなどで交換するための名刺を生徒自身がデザインしています」と田口氏。

 同校では、今後はこのSTEAMコースの学びをほかのコースに広げていくことも模索している。「STEAMコースの学びの中で、主体的な姿勢が育まれていますが、それを実現するためにはある程度学校側で型を決めてあげたり、情報を与えてあげたりすることも必要です。生徒と伴走するように道筋を示しながら、やりたいことに取り組んでもらえる環境を整えていきます」と田口氏は展望を語った。