GIGAスクール端末は7割超が「毎日使う」

GIGAスクール構想によって、教育現場への1人1台端末の普及は急速に進んだ。本来の5ヵ年計画による整備が1年間で行われたことによる混乱も見られたが、現在ではほとんどの学校で、GIGAスクール端末の活用が日常的に行われているようだ。MM総研が実施した調査から、現在のGIGAスクール端末の利用状況を見ていこう。

GIGAスクール端末の性能は十分

 MM総研は2022年12月に、GIGAスクール実現に向けたICT環境の利用状況を調査し、その内容を「小中学校におけるGIGAスクール端末の利活用動向調査」として発表している。本調査では教育委員会(自治体)の指導主事と国公立小中学校教員、それぞれに調査を行い、GIGAスクール環境の現状を多角的に分析している。

 まずは、児童生徒が利用するGIGAスクール端末の性能についての調査を見ていこう。GIGAスクール構想で整備された児童生徒用の学習者用(GIGAスクール)端末について「GIGAスクール構想実現に十分な性能を満たしているか」を調査したところ、回答した1,135自治体の内、38%が「十分備えている」、54%が「備えている」と回答した。9割以上の自治体が、GIGAスクール端末の性能を評価しているのだ。文部科学省によるGIGAスクール端末の標準仕様がおおむね妥当であったことが分かる。

 一方で残りの8%の自治体は十分な性能を備えていないと回答しているが、これに対して本調査を行ったMM総研 研究主任 高橋樹生氏は「端末の性能に対してではなく、ペンや画面のUIといった操作感や、ネットワーク回線といった利用体験全般に関する課題を指摘する自治体もありました。また、『十分な性能を備えていない』という回答の背景に、固有のOSの挙動が影響しているケースもありました」と語る。あるOSを搭載した端末を導入した自治体では、OSのアップデートや、オンライン会議を行うと回線やメモリーへの負荷が大きく、動作に不満を覚える割合が他OSと比較して大きかったようだ。

「十分備えている」と回答した自治体が38%、「備えている」と回答した自治体が54%と合計で9割を超える自治体が十分な性能を「備えている」と回答した。
1人1台端末を「毎日利用している」と回答した自治体は、2021年10月時点の26%から、2022年12月時点には75%と大きく増加した。
教員と児童生徒、あるいは児童生徒同士が双方向のコミュニケーションを取れるコラボレーション機能の利用割合が高いほど、端末の利用度合いも高く、「ほとんど利用できていない教員」と「十分に利用できている教員」では利用率に2倍以上の開きがある。
出所:MM総研

端末活用はほぼ日常化

 GIGAスクール端末の授業での活用頻度はどのように変化しているのだろうか。MM総研は2021年10月にも「小中学校のGIGAスクール端末の利活用動向調査」を実施していた。当時は「毎日利用している」と回答した自治体は26%だったが、今回の調査(2022年12月時点)では75%まで拡大した。また前回調査では「その他(把握できないくらい少ない、利用していないなど)」の回答が29%あったが、今回調査ではその回答が1%となり、端末利用に消極的な自治体はほぼなくなっている。

 高橋氏は「2021年12月の前回調査は、GIGAスクール端末の整備が全国的に完了した直後だったことも、活用頻度が低かった背景にあります。当時の26%はすでにICT活用を積極的に行ってきた先行自治体の割合が多かったと言えるでしょう。そこから1年2カ月が経過した今回の調査では、自治体や学校の先生が積極的に取り組んだ結果、端末の活用がほぼ日常化してきていると言えるでしょう。授業ではもちろん、朝の会で出席を取ったり、体調を確認するときにアンケートツールを活用したり、先生や生徒間のコミュニケーションで使ったりするなど、授業外での活用も広がっているようです」と語る。

 実際、GIGAスクール端末の用途別利用頻度も前回調査と比べて伸びている。「学習支援ソフトやアプリの利用」「調べ学習」「考えをまとめて発表」が前回調査から引き続き上位を占めていることに加え、「教員と生徒同士のやりとり」は前回調査の13%から44%と大きく伸長した。

 こうした教員と児童生徒のやりとりや、児童生徒同士のやりとりのようなコラボレーション機能は、GIGAスクール環境を使いこなすほど利用割合が高くなる傾向にあるという。MM総研は自治体と併せて、小中学校の教員にも端末の利用用途を尋ねており、授業における端末の利用度合いと組み合わせて分析すると、端末を「十分に利用できている」と回答した教員のコラボレーション機能の利用率は「教員と児童生徒のやりとり」で73%、「児童生徒同士のやりとり」で41%と非常に高い。「端末をほとんど利用できていない」と回答した教員と「十分に端末を利用できている」と回答した教員では、コラボレーション機能の利用率に2倍以上の開きがあったという。

課題は教員のICTスキルにあり

 教育現場の中に広く浸透したように見えるGIGAスクール環境だが、課題もある。MM総研が、自治体側と教員側のそれぞれの認識を調査したところ、最大の課題は自治体側も教員側も「教員のICTスキル」だと回答した。一方で2位以降の順位は自治体側と教員側の順位は一致せず、認識の違いが生じていることも指摘された。

 この認識のギャップは、「教員のICTスキル」の向上に向けた対応策についてを調査した回答にも表れている。自治体は95%以上が「対応策をとれている」と回答しているが、教員は40%だ。「これは対応策をどの程度の粒度で捉えるかによって、認識が変わっているのかもしれません。研修を1回だけやって終わりではなく、カリキュラムを作って定期的に実施していくことが重要です」と高橋氏。また教員同士で学び合う仕組みを作ることで、積極的に端末を使うきっかけづくりにもつなげられる。

「販売店がこうした研修を実施することも、新たなビジネスチャンスになるかもしれません。ICT支援員も不足しているので、機器サポートを行いながら先生方への講習を行うことで、GIGAスクール端末活用の課題であるICTスキルの不足を解決できるでしょう。また、教員が授業で使う指導者用端末の整備がまだ十分に進んでいない自治体もあり、この整備が進むことで授業でのGIGAスクール端末の活用頻度もさらに伸びていくでしょう」と高橋氏は語った。