先端的デバイスが整備されたSTEAM Labで
創造的な発想と課題解決の力を育てる

埼玉県の東北部に位置する久喜市では、GIGAスクール構想による1人1台端末が整備される以前から「久喜市版未来の教室」の実現を目指すべく、教育環境のICT化を進めてきた。国のGIGAスクール構想を踏まえた「4+1」(フォープラスワン)のコンセプトに基づき、国の最先端をリードする学びの環境を構築する久喜市の今を取材した。

久喜市が目指す4+1のICT整備

 久喜市版 未来の教室が提唱する「4+1」は、四つの取り組みと、プラスアルファ(+1)のコンセプトで成り立っている。

 一つ目はオンライン教育の実施だ。久喜市ではコロナ禍における臨時休校において、全国に先駆けてオンライン授業をスタートした。2022年度からは中学校に登校することが困難な生徒への学習機会確保のため「久喜市共同オンライン分教室」(略称:KDX教室)を設置するなど、現在でも積極的にオンライン教育を学びの中に組み込んでいる。

 二つ目は個別最適な学びの提供だ。Chromebookを1人1台端末として採用している久喜市では、「Google Workspace for Education」を学びの環境のインフラとして使用しながら、学習支援ソフトウェア「ミライシード」、AI型ドリル教材である「ラインズeライブラリアドバンス」や「Qubena」など多様な学習支援ソフトウェアを活用し、児童生徒の理解度に合わせた個別最適な学びを実現している。

 三つ目はSTEAM化された学びの提供だ。久喜市ではSTEAM教育の一層の充実を図るため、2022年度から多様なプログラミング教材を活用した「GIGAスクールLab」の取り組みをスタートしている。市内の小中学校において、ロボットやドローン、3Dプリンターや小型スクリーン製版機などを活用したSTEAM教育が積極的に実施されている。中でも、久喜市立砂原小学校(以下、砂原小学校)と久喜市立久喜中学校はインテルが主導する「STEAM Lab」の実証校に指定されており、高性能PCや3Dプリンターなどが使用できる最先端の教室が設置されている。

幸せを実現するものづくり

 砂原小学校では、このSTEAM Labを「夢が実現できる場所」として「ゆめらぼ」と名付け、日々の授業や課外活動などで積極的に活用している。砂原小学校 研究主任 白石恵美子氏は「本校は2020年度ごろから自己研修としてPBL(課題解決型学習)の研究を行ってきました。この研究をきっかけに、本校の学校教育目標を『動く、楽しむ、切り拓く』に2023年度から再設定し、自ら課題を見つけ、課題解決に向けて周囲と協働し、楽しみながら、より良い未来を切り拓いていける児童の育成を目指しています。2022年度からは久喜市教育委員会からの委嘱を受け、『[久喜市版 未来の教室]構想を踏まえた汎用的な能力を育む先端技術を活用したSTEAM化された学び』の研究に取り組んでおり、『やってみよう!』を合言葉に、全職員でSTEAM化された学びを進めています」と語る。

 砂原小学校では、総合的な学習の時間、生活科を中心にSTEAM教育を行っており、国語や外国語(英語)といった教科学習から学校行事までを関連付けた横断的な子供主体の学びに取り組んできた。

 同校のSTEAM教育の推進に携わり、総合的な学習の時間の教科主任を務める齋藤果織氏は「昨年度担任した5年生の授業では、テーマとして『幸せとものづくり』を設定し、最初に日本はユニセフの幸福度ランキングが低いという事実(課題)を提示した後、『誰もが幸せに暮らすにはどうしたらいいだろう?』という問いを子供たちに投げかけました。『Make Me Happy』『Make You Happy』の活動に取り組む中で、自分の幸せだけでなく、他者貢献の価値に気付かせたいという思いでものづくりを進めてきました」と語る。

 活動の中では総合的な学習の時間だけでなく、国語や家庭科や英語、林間学校などの課外活動の学びを通して、ITを活用したものづくりを進めた。例えば家庭科の授業で「お茶の入れ方」を学ぶ際に湯飲みを置くコースターがあると良いという発想から、STEAM Labの3Dプリンターを活用したオリジナルコースター作りに取り組んだという。Webブラウザーで動作する3Dモデリングアプリ「Tinkercad」を使用してオリジナルコースターをモデリングし、それを3Dプリンターで出力した。「子供たちは昨年度初めてCADソフトを使い始めましたが、自分の作りたいものが設計できることを使いながら学んでいました」と果織氏は振り返る。

校務環境もクラウドで効率化

 砂原小学校では、こうしたSTEAM教育を支えるICT環境も充実している。前述したSTEAM Labの3Dプリンター2台や高性能PC15台はもちろん、プログラミングロボット「Root」が20台(教育委員会からの貸し出し端末を含む)、Webカメラが5台、電子黒板が22台、実物投影機が2台整備されている。電子黒板がない教室には9台の大型テレビがそれぞれ整備されており、特別教室を含む全ての教室でICTを活用した授業が行える環境が整っている。そのほか、久喜市教育委員会から360度カメラやドローン、小型スクリーン製版機などの貸し出しも行われている。

 また4+1の四つ目のコンセプトである校務の効率化にも、同校は積極的に取り組む。「久喜市では教員用の端末として、Chromebook、Windowsタブレットと校務用WindowsPCを1台ずつの計3台を整備しています。複数台の端末は、授業の内容に応じて併用したり使い分けたりしています」と、同校の情報主任でありICT推進を行う齋藤文絵氏は語る。校内の情報共有にはGoogle Workspace for EducationのWeb作成ツール「Google サイト」やチャットツール「Google Chat」などを有効に活用しているという。

 久喜市ではGoogle Workspace for Educationなどのツールを活用し、2025年度に校務環境のフルクラウド化を実現する予定だ。また、4+1のうちの最後の一つ(+1)として、教員のニーズに応じた各種研修も実施しており、GIGAスクール環境下で求められるPCや各種ツールの操作方法などを実施している。2023年度は教員向け研修に加えて、親子向けの講座も実施していく予定で、久喜市の小中学校におけるICT教育はますますの広がりを見せていきそうだ。

5年生の授業では家庭科と関連させてオリジナルコースターを作成する。3DモデリングはChromebookで作成し、3Dプリンターへの出力はゆめらぼ(STEAM Lab)で行った。組み立て式コースターにチャレンジする児童もおり、創造性にあふれる学びを実現している。