災害対策から広告まで!気象データ活用が実現するビジネスとは

ゲリラ豪雨や線状降水帯、台風や竜巻など、気象を起因とした災害は数多い。こうした災害による被害を少しでも低減するために注目を集めているのが、テクノロジーの活用だ。「気象テック」(気象×テクノロジー)とも呼ばれるそれらの技術は、災害対策はもちろん、建設業や広告業などのさまざまな業種で活用が始まっている。

予報精度No.1※の気象データで実現する
気象データによる防災対策とビジネス活用

※東京商工リサーチ調べ

2023年6月2日、梅雨前線と台風2号の影響により日本の各地で激しい大雨が降った。集中豪雨をもたらす線状降水帯も発生し、特に茨城県、埼玉県、静岡県、愛知県、和歌山県などの住宅では床下浸水などの住宅被害が数多く発生した。こうした強度の強い雨は年々増加傾向にある。そうした気象リスクへの対策のため、精度の高い気象予測データを提供し続けているのが、ウェザーニューズだ。

激甚化が進む気象災害

 民間の気象情報会社であるウェザーニューズの前身となる会社は、もともと船舶へ気象リスクを伝える航海気象の専門会社として誕生した。その後、海から空、陸へと気象サービスの市場を広げ、1986年6月に誕生したのが現在のウェザーニューズだ。現在は、当初のBtoB向けの気象情報サービスはもちろん、BtoC向けの気象情報サービス「ウェザーニュース」を提供しており、一般向けに天気予報から防災情報、乾燥指数といった生活情報などを提供している。
 ウェザーニューズ モバイル・インターネット事業部 WxTechビジネスリーダーの井原亮二氏は「ここ数年、気候変動の影響で“気象災害の激甚化”が一つのキーワードになっています。2022年を振り返っても、9月後半に発生した台風14号、15号の影響で停電や土砂災害が発生するなど、大きな被害がありました。12月には記録的な大雪により、国道で車が立ち往生したことも記憶に新しいですね。こうした気象災害への対策として、現在気象データの活用ニーズは非常に高まっています」と語る。

ウェザーニューズの心臓部である「予報センター」では、全世界の気象予測とモニタリングを行っている。
最新の気象・防災情報を24時間放送している「ウェザーニュースLiVE」の撮影スタジオも予報センターと同フロアに設置されている。

 そうしたニーズの高まりを受けて、ウェザーニュースアプリはGoogle Play ベスト オブ 2021の生活お役立ち部門で大賞、ユーザー投票部門において最優秀賞を獲得している。その評価の背景には、気象情報の予測精度の高さがある。井原氏は「当社の気象データには二つの特長があります。一つは高い予報精度の“当たる”天気データであること、二つ目は業界一の“きめ細かい”天気データであることです」と語る。

 ウェザーニューズでは40万地点の予報を毎時で評価し、前日の予報の振り返りや反省を行っている。また、自社、他社の予報を常にモニタリングして精度の高い情報提供に努めている。

 同社では、アプリのユーザーから寄せられる1日18万通のリアルタイムの天気報告を予測に反映している点も特徴的だ。

 さらに予報精度の向上に欠かせないのが、同社のきめ細かい観測網だ。気象庁が設置している1,300カ所のアメダス(地域気象観測システム)と比較し、ウェザーニューズは1万3,000カ所の観測網を保有している。これにより非常にきめ細かい天候情報の観測が可能になる。「当社は業界最高解像度の1kmメッシュを実現しています。解像度が高いと何が良いのか、と言いますと例えば5kmメッシュの場合、同じ『晴れ』のエリアでも1kmメッシュで見た場合、『晴れ』『曇り』『雨』のエリアが点在しているケースも少なくありません。こうした予測精度へのこだわりと、きめ細かい観測網によって、予報精度No.1を実現しているのです」と井原氏は語る。

ウェザーニューズの観測網は、1kmメッシュのきめ細かさが魅力だ。5kmメッシュだと「晴れ」となっているエリアでも、1kmメッシュでは「晴れ」「曇り」「雨」エリアが混在していることが分かる。

気象データをAPIで製品に生かす

 ウェザーニューズでは、これらの予測データを「WxTech」(ウェザーテック)として法人向けに提供している。WxTechは品質の高い気象データを手頃な値段で企業に提供する気象データ提供・分析サービスだ。「1kmメッシュ天気予報」や「1kmメッシュ体感予報」といった天気予報データから「1kmメッシュ熱中症情報」「1kmメッシュ花粉予報」といった生活指数、「台風予測」「1kmメッシュ停電リスク予測」といった災害リスクを可視化する気象データを提供している。

 例えば1kmメッシュ花粉予報は、観測データなどから独自に予測された1kmメッシュの花粉飛散量の予報や花粉の飛散量を4段階でランク付けした情報を提供する。シャープの空気清浄機向けクラウドサービス「COCORO AIR」にはこの花粉予報APIが活用されており、天気や花粉予報の情報を活用した運転制御と音声によるアドバイスを実施しているという。花粉予報APIの導入企業は増加傾向にあり、ビジネス活用が進みつつある。

 停電リスク予測では、停電報告と風速の関係を分析し、同社独自の停電予測モデルを開発している。パナソニックはこの停電リスク予測APIを、同社が提供する家庭用燃料電池「エネファーム」に導入することで、停電リスクが発生した場合自動で「停電そなえ発電」に切り替える機能を実装している。

ウェザーニュース for Businessでは、個人向けウェザーニュースのアプリ上に契約した法人専用の画面を用意して、業務に必要な気象情報を届ける。

業務に応じた気象データをお届け

ウェザーニューズ
井原亮二

「WxTechでは気象データとの相関関係を1kmメッシュで分析するサービスも提供しています。例えば、気象データに店舗の販売数や、来店者数を組み合わせることで、意外と相関性があることに気が付けるのです」と井原氏。

 こうした相関関係を活用すれば、商品ごとに販売が伸びる時期の予測が可能になる。「私の弟がパン屋を経営しているのですが、夏になるとカレーパンの売れ行きが伸びるそうです。そこで販売数量データと気象データの相関性を分析したところ、カレーパンの売れ行きと湿度に高い相関性があることが分かりました。湿度が高くなると販売数が下がる一方で、湿度が低くなると販売数が上がっていたのです。こういった情報が分かると、カレーパンの仕込みの数量を天気予報の湿度に合わせて変えるなど、廃棄ロスを削減して販売チャンスを最大化できるようになります。この分析は、当社の気象相関分析サービスの簡易分析ツールを使って行いました。簡易分析ツールは無償で提供していますので、お手持ちのデータで試していただくと面白いかもしれません」(井原氏)

 ウェザーニューズでは初の法人向けSaaS型サービスとして「ウェザーニュース for Business」の提供も2022年9月28日からスタートしている。ウェザーニュース for Businessは前述したお天気アプリのウェザーニュースをビジネス向けに拡張したサービスで、ウェザーニュースのアプリ上で法人専用ページやプッシュ通知を追加することで、企業ニーズに応じてカスタマイズされた気象情報を提供する。道路舗装支援や小売向け発注支援、工場向け熱中症対策など、業務に応じた気象情報をアプリ上で届ける。

 例えばホームセンター大手のカインズでは、店舗の災害対策を強化するためにウェザーニュース for Businessを活用している。避難情報発令時にはその地域の店舗が優先表示されたり、台風接近時には対策を促すプッシュ通知が届いたりすることで、災害リスクをいち早く把握して営業判断に役立てているという。

 将来的にはウェザーニュース上で、同社が提供する気象IoTセンサー「ソラテナ」が取得した気象データも閲覧できるようアップデートを進めていく方針だ。ウェザーニューズでは、「いざというとき人の役に立つ」気象データの発信を、これからも続けていく。

地図情報と災害情報を重ねて避難を支援

 電子地図上にヒトやモノなど、さまざまな情報を重ねて可視化することで一体的な管理を行う「GIS」(Geographic Information System:地理情報システム)。NECグループにおいてこのGISソリューションである「GISAp」シリーズを取り扱っているのがNECソリューションイノベータだ。

 GISApシリーズは、汎用的なGIS機能を提供するベースパッケージに加え、農業委員会業務を支援する「農地台帳システム」、災害時の安否確認業務を支援する「避難行動支援者名簿システム」、空き家情報の管理や空家等対策企画の策定などを支援する「空家情報システム」、農地団地などの管理情報を地図情報とひも付けて一元管理できる「中山間直接支払支援システム」といった、自治体向けの特定業務パッケージが用意されている。

 NECソリューションイノベータ 東海支社 デジタルイノベーションG 主任 近藤晴香氏は「国や自治体がオープンデータ化しているハザードマップは数多くあります。当社のGISApでは例えば浸水被害予測のハザードマップをベースに、住民や物件、施設といった情報を重ね合せて可視化できます。オープン化されているデータをただ見るのではなく、必要な情報を全て地図上に集約できる点が大きな特長と言えるでしょう。これらの情報を基に、災害発生前の防災計画立案や災害発生後の迅速な事業復旧やフォロー、避難行動の支援などに生かすことが可能になります」と語る。

地図と洪水浸水想定区域データを重ね合わせることで、想定水害被害を視覚的に把握可能になる。
出所:国土交通省国土数値情報ダウンロードサイト(https://nlftp.mlit.go.jp/ksj/index.html
「国土数値情報(洪水浸水想定区域データ)」(国土交通省)(https://nlftp.mlit.go.jp/ksj/gml/datalist/KsjTmplt-A31-v3_0.html)を加工して作成
背景地図:(c)GeoTechnologies Inc.

 GISApで情報を集約することで、地理的な相関関係の把握や集計・分析が行えることに加え、属性情報による可視化も可能になる。例えば高齢者の多い地帯であったり、災害が発生しやすい地帯であったりといった特性を視覚的に把握できる。

「自治体には、『災害時用支援者の避難支援ガイドライン』に基づいた、避難行動要支援者名簿の整備や運用が内閣府から求められています。この個別支援計画の策定は、2021年度に任意から努力義務に法改正されました。地図上での避難経路作成も含めた、避難計画の策定が求められており、本避難行動支援者名簿システムも非常に引き合いが増えています。自治体が管理している住民情報システムには、住んでいる場所や要介護度などが記録されていますが、地図情報とはひも付けられておらず、避難経路などを直感的に把握することは困難です。本システムを活用することで、地図上で要介護度別の人数などを可視化し、最適な人数配置や避難場所の妥当性を確認できます」と近藤氏は語る。

NECソリューションイノベータ
千葉慎也
NECソリューションイノベータ
近藤晴香

災害発生後の情報も可視化

 災害発生後の被害状況もGISAp上で表示できる。例えば地震や洪水などの防災情報が気象庁から発信された場合、そのXMLデータを自動で取得して地図上で半リアルタイムに表示可能だ。NECソリューションイノベータ 東海支社 デジタルイノベーションG プロフェッショナル 千葉慎也氏は「とある民間企業のお客さまでは、竜巻が発生した際に駐車場にある車が飛ばされてしまうリスクがあるため、竜巻発生情報を本システムでいち早く受信して、影響を受けない場所に車を退避させるといった活用事例がありました。車両にもGPSを付け、きちんと指定されたエリアに移動が完了したかといった情報をGISAp上で把握できたそうです」と語る。

 災害発生後に被害が発生した場合は、前述した気象庁からのデータのほか、現地の被害状況の写真や動画をアップロードすることで災害対策本部と共有することも可能だ。災害発生前から災害発生後までをトータルで管理できるソリューションといえるだろう。

リアルタイムな降雨・浸水予測データによる防災

@InfoCanalによる情報配信の様子。動的ハザードマップによって浸水予測を視覚的に把握し、避難行動に生かせる。

線状降水帯やゲリラ豪雨が多発している。特にゲリラ豪雨は突発的に発生するため予測が難しく、水害への対策準備に当たる自治体職員の負担も大きい。そうした水害発生時の課題を解決するため、NTTアドバンステクノロジ(以下、NTT-AT)、日本工営、東芝、東日本電信電話(以下、NTT東日本) 埼玉西支店は共同で、高精度かつリアルタイムな降雨・浸水予測データを活用した、自治体職員の災害対応業務の有効性に関する実証実験を埼玉県ふじみ野市で実施している。

 本実証実験では以下の四つの仕組みを連動させ、一つのシステムとして災害対応用務で活用する。

1.最新技術によるゲリラ豪雨の高精度な早期予測
高性能な気象レーダーと、国土交通省のレーダーネットワークを活用し、東芝が改良した降雨予測ソフトウェアによって局地的豪雨の兆候と雨量の発生を30分前に高精度に予測する。

2.高解像度リアルタイム浸水シミュレーション
複数の降雨観測データによって精度を高めた予測情報を活用し、対象エリアの浸水予測シミュレーションをリアルタイムに行う。

3.動的ハザードマップの提供
浸水予測シミュレーション結果に基づき、数時間先までの浸水による危険度が分かる動的ハザードマップを提供。

4.タイムリーな情報配信
地域の利用者のスマートフォンアプリに、浸水予想区域・浸水深情報を動的ハザードマップとして配信する。

 上記のシステムの内、降雨予測情報は東芝、浸水シミュレーション情報は日本工営、情報配信システムはNTT-ATが担当するほか、NTT東日本 埼玉西支店がふじみ野市との連携窓口となり、防災DXによる課題解決を支援する。当初実証実験は2022年8月19日から12月28日までを予定していたが、システムの稼働開始が遅れたことや、実証スタート以降5mm以上の雨が降らず浸水予測が動くような状況が発生しなかったことなどから、2023年12月末まで実証実験を継続する予定だ。

日本工営
萩原 崇
NTTアドバンステクノロジ
落合 昇
東芝
和田将一

浸水予測をプッシュ通知

「実証実験の延長にともない、昨年の台風21号、19号で発生した浸水の実測値を基に、日本工営さまが浸水予測モデルの再検証を行い、今年の6月から新しい浸水予測モデルを活用しています」と語るのは、NTT-AT スマートコミュニティ事業本部 スマート防災ビジネスユニット 主任技師 落合 昇氏。浸水予測の通知はNTT-ATが提供する自治体向け情報配信サービス「@InfoCanal」からプッシュ通知で行われる。

 浸水予測は、日本工営が開発する防災プラットフォーム「防すけ」で行う。「防すけは浸水予測をリアルタイム発信するプラットフォームです。今回の実証では東芝さまからいただいた気象データを基に浸水解析の結果を@InfoCanalにアウトプットしています。現在ふじみ野市さまをはじめ、複数の自治体で防すけの試行的な活用を行っています。本年2月24日には『気象業務法及び水防法の一部を改正する法律案』が閣議決定され、これまで基本的に雨の予報しかできなかった民間事業者が、最新技術を活用することで洪水による浸水予測なども行えるようになりました。まずはふじみ野市さまと連携しながら、この実績をベースにほかの自治体さまにも展開をしていきます」と日本工営 流域水管理事業本部 河川水資源事業部 河川部 部長 萩原 崇氏。

 東芝ではこうした気象情報への取り組みのノウハウを生かし、5月29日にグループ会社の東芝デジタルソリューションズから「気象データサービス」をリリースしている。東芝 CPSxデザイン部 CPS戦略室 フェロー 和田将一氏は「まずは『降雨予測サービス』をスタートします。本サービスによって道路の信号制御やアンダーパス通行止め、各種交通機関の運用判断などの対策が可能になります。今後は雨や雪、あられ、ひょうなどをリアルタイムで判別する『粒子判別サービス』や『突風探知サービス』も順次リリースしていきます」と気象ビジネスに対する意気込みを語った。

工事現場にリアルタイムの気象情報

 地盤調査や建設工事などは、屋外での作業となるため天候によっては作業ができなくなるケースもある。そうした工事現場に対して、デジタルサイネージによるリアルタイムの気象情報発信を行うことで、現場作業の効率化をサポートしているのが青山シビルエンジニヤリングだ。

 地盤調査・建設業コンサルタントとして、土木工学を中心とした技術サービスを継続的に提供してきた青山シビルエンジニヤリング。その同社が、現在力を入れているのが気象ビジネスだ。

「もともと、当社が地盤調査を行う中で、気象情報は悩みの種でした。例えば前日に雨の予報が出たため工程を延期したけれど、当日は晴れや曇りで作業ができる状態だったといったことがよくありました。こうした気象情報による作業の遅れはタイムロス、機会ロスにつながるため、東京23区だけでも精度の高い気象予測ができないか、と検討したのが始まりでした」と青山シビルエンジニヤリング 気象コンサルティング部の小柳津由依氏は語る。

 そうした気象情報への取り組みの中生まれたのが局地的気象情報と連動したデジタルサイネージ「SPOT INFO NOTICE」だ。SPOT INFO NOTICEは端的に表現すると、デジタルサイネージに設置地点の気象情報を表示するというものだ。その最大の特長は、同社独自のきめ細かな気象観測網によるリアルタイムな気象情報にある。

 青山シビルエンジニヤリングでは、独自に気象測器によって、東京23区内を中心に約2kmメッシュの観測網を構築している。この気象情報を基に、デジタルサイネージに気温、温度、風速、風向、10分間雨量、1時間雨量、熱中症情報などを配信するのだ。「気象庁が設置している地域気象観測システム『アメダス』は日本国内約1,300カ所と広範囲に設置されている代わり、約20km間隔のためピンポイントな観測ができません。しかし当社では、独自の2kmメッシュの観測網によって、局地的で高密度の気象観測が可能です。また気象観測網から離れていたり、お客さまからの要望があったりした場合は、直接現地に気象測器を設置し、よりピンポイントの気象観測情報を取得して配信できるのです」と小柳津氏。

気象情報や今後の作業予定が視覚的に分かりやすく表示されているSPOT INFO NOTICEのUIは非常に好評で、意匠登録もされているなど独自性が高い。屋外向けのデジタルサイネージ(写真)も独自に開発している。

視覚的に分かりやすいUI

青山シビルエンジニヤリング
小柳津由依

 サイネージの表示画面は柔軟にカスタマイズ可能で、気象情報や暑さ指数といった熱中症情報に加えて、例えば建設現場の場合、一週間の作業予定やお知らせなどを表示できる。動画や静止画なども表示できるほか、騒音や震動情報なども表示でき、周辺地域の生活環境が保全されていることを分かりやすく伝えられる。この視認性と誘目性の高いデザインの表示画面は意匠登録されており、独自性が高い。将来的なこれらの気象観測網からの気象情報などを基に、AIによる局所的かつ高精度な天気予報をサイネージ上で配信することも予定している。

 小柳津氏は「SPOT INFO NOTICEは建設作業などの工事現場や事務所のほか、マンションのエントランスや商業施設、ゴルフやテニス場などの受付などに提案可能な製品です。複数のゼネコンで採用されており、工事現場などで活用された事例があります。リアルタイムの気象情報表示のほか、工事期間中の天候データを残しておきたいというニーズもあり、非常に喜ばれました。天気予報が表示できるデジタルサイネージは存在しますが、小数点以下の気温まで表示したり、ピンポイントでリアルタイムの気象情報を表示できたりするものはなく、非常に喜ばれていますね」と語る。今後は工事現場以外にも高齢者施設や小学校、幼稚園などの教育施設への提案を進めていく方針だ。また、7月1日からは、富士山の山頂および全登山ルートにおける気象観測情報と、山頂に設置された全天球カメラの情報を、Webブラウザーや各登山口などへ設置されたデジタルサイネージなどから確認できる「イマフジ。」による情報提供もスタートし、幅広いユーザーに向けて、気象情報の提供を進めていく。

気象に連動した広告配信で効果的に商品を訴求

気温や天気に応じて行動を変えることは少なくないだろう。そうした気象に応じた行動の変化に合わせて、最適な広告を表示できれば、小売業の売上アップにもつながる。そうした広告と気象データを掛け合わせた広告配信サービスを手掛けているのが、ルグランだ。

ルグラン
山辺仁美

「気象がさまざまな商品の販売動向を左右することは、肌感覚で理解している方も多いと思います。例えばキリンのデータでは夏場の平均気温が一度上昇するごとに、ビールの販売数量が1日80万本増加すると分析しています。また気象庁によれば、気温が18度を上回ると、そうめんの売り上げが急増するそうです。海外ではこういった天気と売り上げの相関性を示すデータがさまざま出ており、一説には世の中の製品やサービスの約30%は天気で売り上げが変動するともいわれています。一方で、天気で売り上げが変わることは分かっていても、その天気に合わせた広告配信ができるツールはほとんどありませんでした。そこで当社が開発したのが、『weathermarketing.net』です」と語るのは、weathermarketing.netを開発したルグランの代表取締役を務める山辺仁美氏。

 weathermarketing.netはGoogleやFacebook、Instagramといったメジャーな媒体に対して、気象に連動した広告配信が可能になるサービスだ。例えば、毎日変わる天候に合わせて広告を配信するような活用が可能だ。24時間から48時間先までの気温、降水量、湿度、風速、前日との気温差など、さまざまなパターンに応じた広告配信条件を設定できる。「例えば、飲食店と店舗周辺の天気を掛け合わせることで、来店誘導に活用できます。各店舗が降水量や降水確率に応じ設定した気象条件に合致した場合に広告を配信します。当日の降水確率が70%以上であり、雨で来店が減りそうであれば、あらかじめ設定した配信エリアにクーポンを発行する、といったような気象条件に応じた広告を配信することで、雨の日は客足が落ち込みがちになる飲食店の来客減を回避できるのです」と山辺氏。

サイネージとの組み合わせも

 エリアごとの天気に合わせて広告を配信することも可能だ。山辺氏は「一口に3月と言っても、北海道と沖縄では気温に大きな差があります。しかしこれまでアパレルでは、3月になったら全国的に春物を販売するといった販売戦略でした。weathermarketing.netでは設定した気象条件に合致するエリアのインプレッションに対して広告を配信し、ECサイトに誘導することが可能です」と語る。

 例えばユーザーがいる地点で過去3時間に3mm以上の雨が降った場合、レインシューズの広告を出すといった配信シナリオが設定できる。実際にいくつかの配信シナリオを試したところ、雨に降られた後にレインシューズを購入する人が多かったという。

 weathermarketing.netの機能を活用した気象連動型デジタルサイネージも提供している。デジタルサイネージが設置されている場所の地域や天気に合わせたコーディネートをイラストで表示することで、アパレル店舗の販促につなげている。また屋外サイネージ広告にも配信を行っており、気温に合わせて温かい飲み物の広告を配信するなど、サイネージ広告の付加価値を向上させている。

「今は広告を出すときに、性別や年齢などでターゲティングしていると思いますが、そこに気象が入っていないことが非常にもったいないと感じています。これから広告を出すときに、気象を条件の一つとして選択することが当たり前になってほしいですね」と山辺氏は語った。