ビッグデータの定義と種類

ビッグデータ」という言葉が注目され始めたのは2010年頃からです。その要因にはインターネットの普及によるデータ量の爆発的な増加が挙げられます。1990年代後半からインターネットに接続されたPCが職場や家庭へ急速に普及し、2000年代にはスマートフォンの登場もあり、インターネット接続が一般化しました。インターネットユーザーの増加に伴うトラフィックの拡大はデータを肥大化させ、ビッグデータをビジネス的に活用する可能性が注目を集めるようになりました。

ビッグデータに関する定義はさまざまですが、最も一般的なのは「デジタル化の更なる進展やネットワークの高度化、IoTの進展により得られる巨大なデータ」(総務省の情報通信白書 平成29年版)とするものです。また、「ビッグデータは事業に役立つ知見を導出するためのデータ」とも説明されています。

ビッグデータにはさまざまな種類があり、総務省ではビッグデータを主に「オープンデータ」「知のデジタル化」「M2Mデータ」「パーソナルデータ」の4つのカテゴリーに分類しています。

<オープンデータ>
政府や地方公共団体が提供するデータ。国や地方公共団体(自治体)が提供する公共情報や統計データのことで、許可された範囲内でなら誰でも自由に利用可能。行政の透明性・信頼性の向上や、官民共同での公共サービス・民間サービスの創出を促進する。

<知のデジタル化>
企業がノウハウをデジタル化・構造化したデータ。企業や個人が長年培ってきたノウハウ(暗黙知)をデジタル化・構造化して蓄積したデータ。次世代へと成功体験を引き継ぐことを目的としている。

<M2M(Machine to Machine)>
ストリーミングデータ。機械(マシン)同士がネットワークを通じて自動でやり取りし、リアルタイムで収集するストリーミングデータ。知のデジタル化で得られたデータとM2Mデータを合わせて「産業データ」と呼ぶ。

<パーソナルデータ>
個人の属性データ。個人の氏名、生年月日、行動履歴、位置情報などの個人に関するデータ。個人情報との境界が曖昧なものを含む広範囲の情報を指す。

ビッグデータの本質を表す5つのV

ビッグデータは、Volume(量)Variety(多様性)Velocity(処理速度)という3つの要素「3V」から成り立つといわれ、近年では、Veracity(正確性)Value(価値)も加えて「5V」とも呼ばれています。

Volume(量)
テラバイト(TB)からペタバイト(PB)、エクサバイト(EB)など、従来のデータ処理システムでは扱いきれない規模の大容量を指す。単にデータの大きさだけでなく、データポイント数、生成速度、処理の複雑さも含む。

Variety(多様性)
データ形式の多様さを指す。CSV形式などの行と列によって表現される構造化データだけでなく、画像や音声など非構造データも含まれる。多様なデータを組み合わせて分析することで、新たな相関関係の発見やイノベーションの促進が可能となる。

Velocity(処理速度)
データがリアルタイムに生成、処理、分析される速度。高速なデータ処理により精度の高い予測が可能となり、ビジネスの意思決定スピードを向上させ、競争の優位性を高める。

Veracity(正確性)
データの信頼性と品質を表す。膨大なデータ量と多様なソースから正確で有用な情報を抽出する。データの正確性を確保することで、信頼性の高い意思決定を行うことが可能となる。

Value(価値)
収集・分析された膨大なデータから、ビジネス価値を創出する。単にデータを収集・分析するだけでなく、そこから得られたインサイト(洞察)をビジネス改善や新しい価値創造に結びつける。

5Vの要素は相互に影響し合っています。例えば、データ量(Volume)が増えると処理速度(Velocity)が低下する可能性があります。多様なデータ(Variety)を統合すると、正確性(Veracity)を損なうかもしれません。このため、5つの要素をバランス良く考慮する必要があります。

ビッグデータを効果的に活用するためには、目的を明確にし、現状のデータ資産を見直し、目的達成のためのギャップ分析を行います。5Vのバランスを考慮し、適切な技術やツールを選択します。必要に応じて、人材を育成し、データの品質管理やセキュリティ対策を含むガバナンス体制を整備することも重要です。

さまざまな分野での活用事例

ビッグデータの活用は精度の高い意思決定、業務効率の大幅な向上、さらには革新的なサービス創出を可能にします。企業や組織に大きな可能性をもたらし、ビジネスのあり方を根本から変えつつあります。

ビッグデータを分析して、社会・経済の課題解決や、業務の付加価値向上を行う(または支援する)事業をビッグデータビジネスといいます。多くの企業がビッグデータを活用して、顧客ニーズの把握や業務効率の改善、新たなサービスの開発に取り組んでいます。

例えば、回転寿司チェーン店では、すべての皿にICチップを搭載し、時間帯ごとの喫食データをリアルタイムで収集・分析することで、廃棄ロスの削減と効率的な提供を実現しています。小売・流通業では、顧客の属性・気象データを分析し、地域ごとの需要に合わせた商品の発注や在庫の最適化を行っています。

製造業では、工場内の設備管理や製品の品質管理などに活用。熟練者の動きを追跡するアイトラッキング技術でノウハウをデジタル化する取り組みも進んでいます。教育機関では、「EdTech(エドテック)」が挙げられます。教育(Education)とテクノロジー(Technology)を組み合わせた造語で、AIなどの先端技術を活用した、教育領域での革新を目指すサービスやビジネスです。

他にも、医療分野では厚生労働省とデジタル庁が、電子カルテを統合した医療ビッグデータの構築を目指しています。ビッグデータを活用することで、病気の早期発見から新薬の開発、地域医療連携の高度化など、医療のあり方を大きく変える可能性があります。

ビッグデータの活用は急速に進んでいますが、一方で、個人情報保護やセキュリティ・クリアランスの確保などの課題も残されています。法令遵守や倫理的な配慮も重要です。

さらに、実務経験者の不足も大きな問題となっています。ビッグデータを分析・解析し、ビジネスに活用するための知見を引き出すには、データサイエンティストやデータアナリストが欠かせません。しかし、多くの企業でビッグデータの活用が進んだことにより、専門人材の需要が急激に高まり、実務経験を持つ人材が圧倒的に不足しているのが現状です。専門人材の育成を支援する取り組みが急務といえるでしょう。

AIとビッグデータ

近年、AI技術の進歩によって、ビッグデータを効率的に分析できるようになってきたといわれています。これまで扱いが難しかった非構造化データをAIが瞬時に要約・分類・感情分析してくれます。例えば、コードを書かなくても、「売上データを分析して、来月の予測をグラフにして」と言葉で指示するだけで処理できます。

AIは専門知識が必要だったデータ分析を一般化する強力なツールですが、同時に新たな課題も生まれています。ビッグデータをそのままAIに読み込ませると、機密情報や個人情報がAIの学習に使われてしまうリスクがあります。安全に使うための社内体制やインフラ整備が必要です。

また、AIはもっともらしい嘘をつくこと(ハルシネーション)があります。AIが出した分析結果やグラフが本当に正しいかどうか、人間がチェックする必要があります。AIから質の高いデータ分析結果を得るためには、「何を、どう分析させるか」という目的意識や、適切な指示を出すスキル(プロンプトエンジニアリング)が求められます。

AIは、ビッグデータを活用するための最高のアシスタントといえます。しかし、分析したデータをどう解釈し、どう意思決定に生かすかという「データリテラシー」は、今でも人間の側に委ねられています。

ビッグデータは単に業務の効率を上げるだけでなく、AIやIoTと融合することで社会のインフラや意思決定のあり方を変革する原動力となっています。今後、さらに活用が進み、新たなイノベーションが生まれることが期待されます。