フィジカルAIの社会実装を推し進める
インテルが示すロボティクスの最前線
インテルは2026年7月23日に「インテル・ロボティクス・ワークショップ2026」を開催した。本イベントでは、最新のAI PC向けプロセッサー「インテル Core Ultra シリーズ3」をはじめとするロボティクスやフィジカルAIを支える最先端テクノロジーと、その実践的な活用事例が紹介された。業界をリードする企業による講演やデモ展示、ハンズオンを通じて、AIとロボティクスがもたらす次世代産業の可能性が示された。
ロボティクスで40年以上の実績
オープンな開発環境で進むフィジカルAI

大野 誠 氏
フィジカルAIや自律型ロボットの社会実装に向けた動きは、いまや多様な産業へと広がりつつある。そうした物理世界とAIの融合を技術面で支えているのがインテルだ。イベントの冒頭では、インテル代表取締役社長の大野誠氏が登壇し、同社が歩んできた歴史と今後の取り組みについて語った。
大野氏は「インテルに対してロボットのイメージをお持ちでない方もいらっしゃるかもしれませんが、当社は40年以上にわたり産業用ロボットやインダストリアルPC、ロボットアームなどの分野で実績を積んできました」と切り出し、15年以上前のコマーシャル映像を交えながら、同社が長年にわたりロボットの自律化を見据えた研究開発に取り組んできた歴史を振り返った。
そして昨今のAIの進化を受け、大野氏は「自律型ロボットの時代が目前に来ています」と語る一方で、現在のAI処理はクラウド環境やGPUへの依存が主流であり、限定的なオープンソフトウェアエコシステムやパフォーマンス重視にとどまっていること指摘した。その上で今後は、エッジとのハイブリッド型システムや、多様な処理装置を組み合わせて最適な性能を引き出す「ヘテロジニアス・コンピューティング」への移行が進むとの見解を示した。


さらに、日本政府が2040年にロボット分野で世界シェア3割超えを目指す目標を掲げていることに触れ、「特定のアーキテクチャにとらわれないオープンな開発環境を業界全体で作っていくことが重要です」と語った。
講演では、インテル Core Ultra シリーズ3プロセッサーを搭載したUnitree社の小型ヒューマノイドロボット「G1」が登場し、リアルタイムの音声対話デモが実演された。
インテルが目指すのは自社技術の提供にとどまらず、次世代ロボティクス市場全体の開発基盤を支えることにある。オープンなエコシステムを通じて多様な企業と共に新たな可能性を創出していく。
あらゆる産業で加速する
フィジカルAI活用

産業・ロボティクス事業部
ジェネラル・マネージャー 兼 シニアディレクター
リッキー・ワッツ 氏
「AIの成果に向けて:あらゆる産業でフィジカルAIを加速」と題して講演を行ったのがインテル 産業・ロボティクス事業部 ジェネラル・マネージャー 兼 シニアディレクター リッキー・ワッツ氏だ。
ワッツ氏は「AIの社会実装において重要なのは、単なる技術の追求ではなくビジネスにおける成果です」と強調する。そして「これまでクラウドが中心だったAIを、実際に成果を生み出す製造・医療・小売といった現場(エッジ)へ移行させなければなりません」と指摘する。
この現場移行を推し進め、実際に成果を生み出す鍵となるのが「フィジカルAI」だ。ワッツ氏は「フィジカルAIは情報を生み出すものではなく、環境や事象を認識し、自ら決断して物理的に現実世界へ働きかけるものです」と説明する。
そして、このフィジカルAIを実現・運用する基盤として、ワッツ氏は「エッジ・コンピューティング」「高性能カメラ(マシン・ビジョン)」「ソフトウェア定義での自動化」「リアルタイム・ネットワーク」「エッジAI」という五つの技術要素を提示する。これらが一体となって機能することで、現場でのリアルタイムな判断とアクションが可能になるという。
フィジカルAIは製造業や医療、物流、小売り、農業などあらゆる産業に広がりつつある。現場で求められる「知覚(Perceive)→推論(Reason)→行動(Act)」という一連の処理は、それぞれ必要な計算特性が異なるため、CPU・GPU・NPUを適材適所で統合したヘテロジニアスなプラットフォームが不可欠となる。インテルはこれら全てのプロセッサー群をそろえ、複雑な現場処理を一括で支えるポートフォリオを提示する。
オープンなエコシステムと標準化を主導しながら、持続可能かつ安全なフィジカルAIの社会実装を強力に推し進めていく姿勢を示した。

最適なプロセッサー選択と最新ツール群で
開発者の負荷を軽減するアプローチ

シニア・セールス・アプリケーション・エンジニア
小原成介 氏
インテル シニア・セールス・アプリケーション・エンジニア 小原成介氏は「インテルのフィジカルAI開発ソリューション・ディープダイブ」をテーマに、フィジカルAIを現場へ実装するための具体的なソリューション群を紹介した。
フィジカルAIを動作させる半導体基盤において、小原氏は「高い信頼性を誇る『Xeon』から最新の『Core Ultra』シリーズまで、現場の要求スペックに応じた製品ラインアップをそろえています。要件に合わせて最適なプロセッサーを選択することで、過酷な環境下でも高い処理パフォーマンスと安定運用を両立できます」と説明する。
ソフトウェア面では、ロボティクス向けAI推論最適化ツールキット「OpenVINO Physical AI」をはじめとする最新ツール群が紹介された。CPU・GPU・NPUが混在する環境であっても、アプリケーション側のコードを変更することなく最適な推論デバイスを自動選択できるのが特長だ。こうしたマルチデバイス環境を生かすことで、開発者はハードウェアの違いを意識することなく、高効率なAIモデルを展開できる。
また、ノーコードで模倣学習のデータ収集から学習までを行える「Physical AI Studio」をはじめとするツール群も提示された。会場ではロボットアームを用いたライブデモが実演され、収集した観測データからACTモデルを用いてスムーズな動作へとつなげる一連の推論プロセスが示された。

インテルは多角的な製品ポートフォリオと洗練された開発ツール群を両輪として提供することで、開発者の負荷を大幅に軽減し、フィジカルAIの実装からビジネス成果創出までの最短ルートを提示している。
インテルは多様なプロセッサー群と洗練された開発ツール群を両輪として提供することで、企業におけるフィジカルAIの社会実装を支えている。
多様なアプローチで加速する
ロボティクス産業の未来
本イベントではインテルのほかにも、三菱UFJ銀行、モベンシス、Preferred Networks、NTT、トヨタ自動車がヒューマノイドロボットやフィジカルAIに関する講演を行った。ここからはその内容をダイジェストでお届けする。
三菱UFJ銀行

産業リサーチ&プロデュース部
R&D第三グループ調査役
安井也雄 氏
金融機関の視点からヒューマノイドロボット市場の現在地と展望を解説した。少子高齢化に伴う労働力不足の解決策としてロボットへの期待を示すとともに、機体本体にとどまらず半導体や電池、精密部品、データセンターなど幅広い関連産業に莫大な経済波及効果をもたらす点にも言及。海外勢が先行するなかで、日本が競争力を発揮するには国内で製造・活用・改善を回すエコシステム形成が不可欠であるとした。同行としてもAIロボット協会(AIRoA)への加入などを通じ、資金供給や事業連携を含めた産業全体の立ち上げを多角的に支援していく方針を示した。

モベンシス

代表取締役社長
梁 富好 氏
現在のロボティクスにおける制御遅延の課題を指摘。多くのシステムでは、AIの推論を担うGPUボードと各関節を動かすロボットコントローラーが別々に構成されており、その間で発生する通信遅延が動作の不安定さやシミュレーションとの乖離「Sim-to-Realギャップ」を生んでいるという。同社はこの課題に対し、GPUボード上で直接稼働するソフトウェアベースのリアルタイム制御技術「WMX R2」を発表。専用コントローラーを不要にして遅延を50ミリ秒以下に抑えられる点を説明した。さらに「インテル Core Ultra シリーズ3」と組み合わせることで、1台のPCで認識から高速制御まで完結する統合基盤を提示した。

Preferred Networks

リテールソリューションズ事業本部
本部長 兼 フィジカルAI事業統括
海野裕也 氏
生成AIの急成長とフィジカルAIの現状について解説された。言語や画像と異なり、ロボットの関節角などの物理データはネット上に存在しない「データ不足」が最大のボトルネックであると指摘。二足歩行などの移動技術が進展する一方、摩擦や変形を伴うマニピュレーション(手作業)はシミュレーションも難しく、未解決課題が多いという。現在はNLPの2015年ごろに近い模索期であり、ブレークスルーに向けた独自アプローチと日本のものづくりの強みに期待を示した。

NTT

IOWN総合イノベーションセンタ
ネットワークテクノロジーセンタ
ネットワーク技術導入推進プロジェクト
竹内太郎 氏
光電融合と光通信による次世代インフラ「IOWN」のロボティクスへの応用について紹介。オールフォトニクス・ネットワーク(APN)による超低遅延・大容量通信を活用し、病院間をつないだ遠隔手術支援や、300km離れたデータセンターからの工場設備制御・リアルタイム外観検査の実証事例を提示。重いAI処理をクラウド側に集約しながら現場の即応性を担保し、場所にとらわれない分散型基盤を通じて医療格差や製造業の人手不足といった社会課題の解決を目指す姿勢を示した。

トヨタ自動車

未来創生センター R- フロンティア部
ヒューマノイドロボティクス研究領域
ソーシャルロボティクスグループ長
森平智久 氏
「身体性」「実用性」「社会性」を3本柱とするロボット開発の取り組みが語られた。強化学習で進化を続けるバスケットボールロボット「CUE7」や、模倣学習(UMI)を活用した工場の梱包・開封作業の自動化検証、人と寄り添うコミュニケーションロボット「ケパラン」などの事例を紹介。ロボットを単なる道具ではなく“パートナー”と位置付け、ハード・ソフト両面のアプローチや新素材の研究を通じて、人と安全に共存する自律型ロボットの実現を目指す姿勢を示した。


