AI PC、そしてCopilot+ PCというPCの新たなカテゴリーが企業における業務効率化とイノベーションの可能性を広げつつある。インテルは日本市場におけるAI PCの普及に向けて技術革新とパートナー連携を加速させている。日本でのAI PCの普及への取り組みと見通しについて、インテルで執行役員 アカウント・パートナー事業本部 本部長を務める高橋大造氏に話を伺った。

最新のインテルプロセッサーを搭載したAI PCは、一般的なビジネス用途向けのPCとしても高い性能を発揮します

AI PCはAI用途だけではない
通常の用途でもメリットあり

インテル
執行役員
アカウント・パートナー事業本部
本部長
高橋大造

 AI PCの定義についてインテルでは「NPUを搭載してAIアプリケーションをPCのローカルで効率的に処理できるPC」だと定義している。NPUを搭載していない従来のPCでもAIアプリケーションは動作し、利用することができる。しかし従来のPCではAI処理の際にCPUの負担が大きくなり、ほかの処理が圧迫されてAI処理中に複数のアプリケーションを同時に利用すると動作が極端に遅くなる。またCPUの過度な稼働によって電力消費が増え、バッテリーの減りが早くなる。

 一方のAI PCではAI処理をNPUが引き受けることでCPUの負荷を減らし、AI処理を高速化かつ省電力化できる。AI PCのメリットについてインテル 執行役員 アカウント・パートナー事業本部 本部長 高橋大造氏は「AI PCはAI用途だけではなく、日常的な業務用途においても大きなメリットがあります」と強調する。

 高橋氏は「AI処理はNPUだけで行うわけではなく、処理の内容に応じてCPUやGPUにも振り分けて効率良く実行しています。ですからNPUの性能だけではなく、CPUやGPUを加えたシステム全体のトータル性能が重要となります。そのため最新のインテルプロセッサーを搭載したAI PCは、一般的なビジネス用途向けのPCとしても高い性能を発揮します。さらにNPUはAI処理だけをするのではなく、CPUの処理をNPUに振り分けてCPUの負荷を軽減する仕組みもあります。NPUを搭載するAI PCには消費電力を抑えてバッテリー持続時間を伸ばせるメリットもあるのです」と説明する。

AI PCの導入障壁はコストだが
AI PCへの追加投資は許容

 実際のビジネスにおいて企業にAI PCを提案すると「業務でAIを活用していないので、AI PCの導入は時期尚早」という反応が少なくないだろう。そもそも人材不足が深刻化している日本において、業務にAIを活用して効率化したり社員の生産性を向上させたりすることは業種や規模を問わず全ての企業に必須の取り組みである。

 AI活用が全ての企業に求められる中でAI PCは積極的に選ばれる選択肢ではあるが、導入に当たり課題もある。それはコストである。現時点においてAI PCは従来のPCに比べて価格が高めに設定されている。

 インテルは今年8月に、日本を含む世界23の国と地域に在住の5,050名のビジネスパーソンを対象にして、2025年5月に実施した「AI PCグローバルレポート」を発表した。

 この調査では自社におけるAIやAI PCの活用状況、それらに関する意識やイメージなどを包括的にヒアリングし、世界と日本のデータを比較している。

 その主な調査結果は別掲図の通りだ。調査結果の通り日本におけるAI PC導入の障壁は「コスト」だが、AI PCへの追加投資を許容していることが分かる。「組織全体におけるAIの活用と導入の促進」を図ることで、AI PCの需要拡大につながると示している。

AIアプリケーションの開発を促進
「特別な存在」から「当たり前」へ

 AI PCの普及に向けてインテルはPCメーカー各社との連携や、Copilot+ PCをはじめとしたマイクロソフトとの連携などを推進しているほか、AIアプリケーションの充実に向けた開発環境の提供と支援も行っている。

 高橋氏は「日本市場においては法人ユーザーのニーズに合わせた製品展開が重要です」と語る。

 またAIアプリケーションの開発促進に向けてインテルは「oneAPI AIアナリティクス ツールキット」(以下、oneAPI)と「OpenVINOツールキット」(以下、OpenVINO)を提供している。oneAPIはAIモデルの開発、学習、最適化を、OpenVINOはAIモデルの推論の高速化、最適化、展開をそれぞれ支援するソフトウェアだ。

 高橋氏は「oneAPIおよびOpenVINOを利用することで、AIシステムおよびAIアプリケーションの開発を効率化するとともに、開発したシステムやアプリケーションをさまざまなプラットフォームに移植できるメリットがあります。例えばクラウドのAIアプリケーションをPCに移植したり、インテル以外のプロセッサーでAIアプリケーションを動かしたりできます」と説明する。

 現在、AI PCはハイエンドモデルが中心だが、今後は普及価格帯への展開が進む見込みだ。高橋氏は「AIテクノロジーの進化が急速に進む中で、今使っているPCが将来の業務ニーズの変化に対応できるかが競争力に直結すると言えるでしょう。3年から4年のリプレースサイクルを考慮すると、今からAI PCを導入して将来のAI活用に備えるべきです」と強く訴える。

 AI PCが「特別な存在」から「当たり前」のツールとなり、Copilot+ PCを含むAI PCが法人ユーザーの選択肢として定着する日はそう遠くないだろう。

「AI PCグローバルレポート」の主な調査結果

・AI PCの理解度は世界では85%、日本は52%
・「自社のリーダーシップはAIの可能性を理解している」と回答したのは世界では83%、日本は52%
・「自社の従業員はAIの可能性を理解している」と回答したのは世界では73%、日本は48%
・AI PCの可能性を理解するために役立つ情報やリソースに対して日本は「AI PCのトレーニング」と「費用便益分析」と回答(いずれも52%
・AI PC導入の最も高い障壁は日本では「初期コスト」と「運用コスト」(いずれも44%)で「セキュリティ上の懸念」(37%)を上回る
・「自社のITチームはAI PCの導入に準備ができていると考えている」と回答したのは世界では90%、日本は65%
・もしAI PCを導入する際、従来のPCと比べて1台当たりどの程度追加で支払うことができるかを聞いたところ、77%が追加で支払うことができると回答

出所:全てインテル

インテルは10月9日にAI PC向けプロセッサー「Core Ultraプロセッサー」の新製品「Core Ultraプロセッサー(シリーズ3)」(開発コード名:Panther Lake)を年末までに出荷すると発表した。Panther LakeによってAI PCの進化が加速しそうだ。