梶原三幸(かじわら みつゆき)さん

株式会社アドバンスト・メディア 執行役員 医療事業部長。医療分野におけるAI音声認識ソリューションの事業推進を統括。全国の医療機関への導入支援を通じて、診療記録作成の効率化や医療DXの推進、医療従事者の業務負担軽減に取り組む。医療現場の生産性向上と質の高い医療提供に貢献している。
https://www.advanced-media.co.jp/

医療分野から始まった音声認識の歴史

――株式会社アドバンスト・メディアがどのような会社か、概要をお聞かせください。

梶原 1997年の創業以来、「音声で人とコンピューターをつなぐ」というHCI(Human Communication Integration)の実現を目指し、音声認識の研究開発と社会実装を進めてきました。創業時は、放射線科における画像診断の結果(CTやMRIの画像所見)を、専用のマイクを使って音声で入力するシステムの開発からスタートしました。

現在は、医療以外にもさまざまな分野で、音声認識技術「AmiVoice」を核としたAIソリューションを提供する企業となっています。コールセンターにおける通話のリアルタイムテキスト化や応対品質向上、官公庁・自治体の議事録作成、製造・物流分野の棚卸業務(在庫確認)など、多様な産業・業務に対してAmiVoiceを展開しており、国内シェアNo.1(※)音声認識ベンダーとして、多くのお客様にご利用いただいています。(※出典:合同会社ecarlate「音声認識市場動向2026」 音声認識ソフトウェア/クラウドサービス市場において)

当社の強みは、クラウドだけでなくオンプレミス環境(自社運用型)にも対応できる高い技術力と、業界ごとの専門用語に対応した音声認識エンジンを自社開発していることです。特に医療分野では20年以上にわたる経験とノウハウを蓄積し、医師や医療従事者の働き方改革、診療の質向上、医療DXの推進を支援してきました。AI技術を通じて、人が本来注力すべき業務に集中できる社会の実現を目指しています。

コールセンターへの音声認識技術の導入では、顧客との会話をテキスト化することによって、情報収集や問題点の把握が容易になり、オペレーター教育にも利用できることが大きなメリットです。近年では、声のトーンやスピードから顧客の感情状態を判定する「感情分析」も活用されています。

実はこの感情分析の技術は、医療分野でも手術やがん治療のインフォームド・コンセント(説明と同意)の際、患者様の不安や納得度を声質や表情の所見としてデジタル化・記録するニーズがあり、他社様とコラボレーションしながら研究開発を進めています。

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「音声をテキスト化することは、入力の手間を省力化するだけでなく、データベース化することで、検索や分析を可能にするなど、さまざまなメリットがあります」と語る梶原さん。

医療向け音声認識の特徴とその導入効果

――医療向け音声入力システム「AmiVoice Ex7」と、AI音声ワークシェアリング「AmiVoice iNote/AmiVoice iNote Lite」が20,000以上の医療施設に導入されたとのことですが、この2つの商品について概要を教えてください。

梶原AmiVoice Ex7」は、主に医師や医療従事者の方々が話した内容をリアルタイムにテキスト化し、電子カルテに所見や経過を入力するための、パソコン向け音声入力システムです。診療中に患者様と向き合いながら記録を作成できるため、キーボード入力の負担を大幅に軽減し、診療品質の向上にも貢献します。医療専門用語や略語にも対応し、高い認識精度を実現しています。

かつては、医師が録音した音声を書き起こすトランスクライバー(テープ起こし専門職)が存在しましたが、職種として減少しており、医師自らが迅速に入力する必要が生じました。その負担を大幅に減らすのが「AmiVoice Ex7」です。

AmiVoice EX7
「AmiVoice Ex7」のサンプル画面。電子カルテに音声で入力していく(画像提供:アドバンスト・メディア)。

梶原  一方、「AmiVoice iNote/AmiVoice iNote Lite」は、スマートフォンを活用したワークシェアリングサービスです。診察やカンファレンスの会話をAI音声認識で記録・テキスト化し、その内容を医療事務スタッフなどと共有することで記録作成業務の効率化を支援します。なお、「AmiVoice iNote Lite」は、音声入力や写真、テンプレートなどの基本機能に特化した製品で、院内Wi-Fiがない環境でも利用可能で、低コストで導入しやすい点が特長です。

「AmiVoice Ex7」では電子カルテの特定の枠内にカーソルを置き、音声で入力しますが、「AmiVoice iNote/AmiVoice iNote Lite」では記録に必要な様々な情報(会話等のテキスト、画像、時間情報)を保存し、あとで必要な部分を電子カルテや診療文書にコピー&ペーストして入力するイメージです。

医師が診療後に長時間カルテ入力を行う必要がなくなり、記録作成業務をチームで分担できることが特徴です。医師の負担軽減だけでなく、医療機関全体の生産性向上や働き方改革に貢献するサービスとして、多くの医療現場で活用されています。

「AmiVoice iNote/AmiVoice iNote Lite」はスマートフォン用のサービスのため、利用者はパソコンに固定されず、ポケットにスマートフォンを入れて病棟や訪問先を回り、その場で音声入力や写真撮影を行えます。

「AmiVoice iNote」および「iNote Lite」
左の2つが「AmiVoice iNote」、右端が「AmiVoice iNote Lite」のサンプル画面。音声を順次テキスト化し、あとで選択し、電子カルテにコピー&ペーストする(画像提供:アドバンスト・メディア)。

――スマートフォンを活用する「AmiVoice iNote/AmiVoice iNote Lite」だからこそ実現できる業務改善の具体的な事例はありますか。

梶原 実際の現場では、看護師が院内を巡回しながらメモを書き、ナースステーションに戻って記憶をたどりながらパソコンに入力する「思い出す時間」と「二重入力」が発生していました。「AmiVoice iNote/AmiVoice iNote Lite」を使えば、見たこと・聞いたことをその場で声で記録できます。また、パソコンへはスマートフォン上で操作をするだけでテキストや写真を電子カルテに一瞬でペーストすることが可能です。

象徴的な事例として、入院中の患者様の巡回中、寝たままの患者様の場合、背中に床ずれ(褥瘡)ができていないか確認するわけですが、できていた場合、従来であればデジタルカメラを持ってくるまで患者様に待っていただく必要がありました。ところが「AmiVoice iNote/AmiVoice iNote Lite」なら、その場でスマートフォンで撮影し、電子カルテに転送するだけで完了します。作業手順の大幅削減だけでなく、患者様を待たせないという大きな価値が生まれます。

岡山中央病院のリハビリテーション部
岡山中央病院のリハビリテーション部でのAmiVoice iNote使用例。梶原さんは「『AmiVoice iNote/AmiVoice iNote Lite』は、看護師などの二度手間、三度手間を減らし、医療現場での働き方改革にも貢献します」と語る(画像提供:アドバンスト・メディア)。

電子カルテとは

――この分野に詳しくない方のために、電子カルテについて簡単にご説明いただけないでしょうか。

梶原 電子カルテは、患者様の診療記録や検査結果、処方内容などの医療情報をパソコンやタブレット等で一元管理するシステムのことです。紙のカルテとは異なり、院内の複数のスタッフが同時に情報を共有・閲覧できます。主なメリットとして、①過去の記録や検査データをすばやく探せる、②医師や看護師など院内での情報共有がスムーズになる、③紙の保管場所が不要になりペーパーレス化が進む、などがあります。

電子カルテの主要メーカーは11社ほどありますが、各社のシステムは国が統一した標準仕様をベースに作られているわけではありません。各社ごとに仕様が異なるため、他社のシステムにデータ移行しようとすると多額の費用が発生するなどの課題があります。

電子カルテの普及率は現在約70%で、厚生労働省とデジタル庁は2030年までに100%にしたいという方針を打ち出しており、標準化やクラウド化が進められています。しかし、現場では情報漏洩などのセキュリティリスクに対する懸念からローカル運用を望む声も根強く、移行には慎重な議論が必要となっています。

この電子カルテの普及にとって重要なのが、情報入力の負担軽減だと考えています。情報入力の負担が大きければ、医療従事者にとっては真のDXになりません。

医療専門用語への対応と現場の課題克服

――医療現場での音声認識において、最も苦労された技術的課題は何でしょうか。

梶原 医療分野の音声認識で最大の課題は「高い認識精度」を維持することです。専門用語も多く、同じ疾患でも複数の呼び方が存在し、新しい薬剤名や医療機器の名称など、新しい医学用語が次々に登場します。

特に難しいのが「同音異義語」です。「いじょうどうさ」と聞くと、一般的には「異常動作」と変換されますが、看護・リハビリの現場では患者様をベッドから車椅子へ移動させる「移乗動作」が多用されます。このため、当社では毎年音声認識辞書(音声認識エンジン)のブラッシュアップを行い、文脈や診療科特有の専門性を音声認識エンジンに学習させています。

当社は医療現場での20年以上の運用実績によって蓄積された膨大な医療音声データをもとにして、専用の音声認識エンジンを開発してきました。各診療科の専門用語辞書を整備するとともに、継続的なAI学習によって認識精度を向上させ、現場で実際に使えるレベルの実用性を日々追求しています。

――そうした精度の高い音声入力が、今後の医療DXや「医療ビッグデータ」の活用にもつながっていくのですね。

梶原 おっしゃる通りです。厚生労働省とデジタル庁が電子カルテの普及を後押ししている理由の一つには、将来的に構造化された質の高い医療データを統合した「医療ビッグデータ」を活用したいという思惑があります。医療ビッグデータを活用することで、AIによる診療支援や個別化医療、新薬開発、地域医療連携の高度化などにもつながると考えられているからです。

医療ビッグデータは将来的な話ですが、それを実現するためには、今からできるだけ多くの正確なデータが電子カルテに記録されることが重要です。そのために、医療現場で日々生まれている大量の情報を効率的かつ正確にデジタル化する必要があります。

音声入力は、人が最も自然に情報を入力できる手段です。医師が診療中に話した内容をリアルタイムでテキスト化することで、診療情報を漏れなくデータとして蓄積できます。音声認識は単なる入力支援ツールではなく、医療DXを支える重要なインフラ技術になると考えています。

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「厚生労働省とデジタル庁が将来的に目指しているのは、電子カルテを統合した医療ビッグデータの構築です。医療ビッグデータを活用することで、AIによる診療支援や個別化医療、新薬開発、地域医療連携の高度化などにもつながると考えられているからです」

生成AIと医療ビッグデータが拓く医療業務支援の未来

――最後に、アドバンスト・メディアが「AmiVoice」シリーズなどを活用しながら、医療分野で目指す未来はどのようなものでしょうか。

梶原 私たちの目指す未来は、音声入力による単なる「入力作業の代行」ではありません。将来的に定型文書の入力自体は簡素化・自動化されていくと考えていますが、音声入力によって入力負担が軽減されて生まれた時間を、医療従事者は「患者様とのコミュニケーション」という最も大切な業務に充てることができます。

そこで交わされる豊富な会話データを医療ビッグデータとして蓄積・分析し、医療分野全体を高度に支援するソリューションへと進化させていきたいと思います。

例えば現在、共同研究を進めている取り組みとして、チャットボットを活用した患者様のアレルギー情報や服薬履歴の即座の検索・提示があります。さらに、生成AIなどとの連携により、診療中の会話から自動で電子カルテの下書きを作成したり、診療要約や紹介状作成を支援したりする機能の実現が可能になります。

さらに進むと、医師と患者様の会話中の専門用語をAIがリアルタイムに検知し、患者様向けのアニメーションや分かりやすい解説画面を提示して、より深いインフォームド・コンセントを助けるといった未来も現実味を帯びています。音声入力を入口として、患者様と医療従事者の双方にとって安心・確実でより質の高い医療が創出できるのではないかと考えています。

また、医師だけでなく看護師、薬剤師、リハビリスタッフなど、多職種で活用できるサービスへと領域を拡大していきたいと思います。私たちが目指すのは、医療従事者が記録業務に追われることなく、患者様と向き合う時間を最大化できる環境づくりです。AIと音声認識技術を通じて、日本の医療DXの推進に引き続き貢献していきたいと思います。

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「将来的な、医療ビッグデータ構築に向けて、今からできるだけ多くの正確なデータが電子カルテに記録されることが重要です。音声入力はそのための重要なインフラになると考えています」